第19話 「レイナス城、揺れる玉座」
重厚な扉に守られたレイナス城の円卓会議室。
玉座に座す女王陛下の前に、六つの席が並ぶ。
炎、風、土、氷、光――そして、空席の闇。
レイナス王国の命運を握る六魔将の会議は、いつも通り粛々と進められていた。
各地の戦況、兵站、国境の魔力変動。
土魔将の報告は堅実で隙がなく、氷魔将は冷静に数値を示し、風魔将は戦況の裏を読む視点を付け加える。炎魔将は苛立ちを隠さず武功を強調し、光魔将は最小限の言葉で補足する。
女王陛下は静かに頷きながら、すべてを受け止めていた。
――その時。
会議室の扉が、勢いよく開かれた。
「ご、御報告ッ!!」
荒い息の伝令兵が飛び込む。
土魔将がゆっくりと視線を向ける。
「ここが何の場であるか、理解してから口を開け。
だが――その顔色、ただ事ではあるまい。申せ。」
場の空気が一瞬で引き締まる。
女王陛下が静かに手を上げた。
「よい。緊急なのでしょう。申してみなさい。」
伝令は深く頭を下げ、息を整え、震える声を張り上げた。
「魔獣将アルクが……一騎討ちにて、討ち取られました!
討ち取ったのは、ギルド・ランクXのホークスと名乗る者にございます!」
室内の空気が、凍る。
炎魔将が立ち上がった。
「何だとッ!? 本当なのか!!」
怒声が響く。
「ま、間違いございません! 確かにランクXと名乗り、一騎討ちの末――!」
氷魔将が静かに問い直す。
「……確かに、戦場で名乗りを上げたのですね?」
「は、はい。確かに。」
風魔将は指先で顎をなぞり、くすりと笑った。
「……面白い。」
女王陛下は静かに目を伏せ、そして決断する。
「和睦の使者を出します。獣王国との戦争終結を目指します。」
その言葉に、空気が揺れた。
土魔将が静かに進言する。
「陛下。和睦が受け入れられる保証はございません。
また、魔獣将が討ち取られたことで、復讐に燃える兵が独断で戦を続ける可能性もあります。
さらに神界側の境界線が近頃不安定。戦が終わろうとも、油断は禁物かと。」
氷魔将も続く。
「和睦は賛成いたします。しかし五分の条件でなければ、戦費の負債は重く、民に重税を課すことになります。
それは国内不満と治安悪化を招きましょう。条件交渉は慎重に。」
光魔将は短く告げる。
「……陛下の御決断に従います。」
風魔将が微笑を浮かべる。
「和睦、結構。ですが――この戦で奪われた我が領地の補填は、どのようにお考えでしょう?」
炎魔将も慣れぬ敬語で口を挟む。
「我が領地の補填も……その……ご検討を。」
土魔将の眉がわずかに動く。
「発言は順を守れ。ここは願い出る場ではなく、王の決を仰ぐ場だ。」
風魔将は軽く笑い、丁寧に頭を下げた。
「失礼いたしました。補填の件は、後日の議題に。」
だが土魔将の矛先は炎魔将へ向く。
「この戦の発端は、先々代炎魔将と先々代闇魔将の欲深き外交失態である。」
炎魔将が歯噛みする。
「だが闇魔将側の失態も――」
「その責は、娘である先代闇魔将が命を削って払った。」
空席の闇の席に視線が集まる。
「貴殿らの償いは、未だ足りぬ。」
光魔将が冷たく続ける。
「……同感です。」
炎魔将は言葉を失う。
女王陛下が静かに仲裁した。
「補填については、残存領地と戦後状況を鑑み正式に決定します。今は待ちなさい。」
土魔将は一礼し、話題を変える。
「空いた闇魔将の席について、議論すべき時かと。」
風魔将が目を細める。
「戦況が一時安定した今こそ、最適の機。権力の空白は長く置くべきではありません。」
炎魔将も頷く。
光魔将は、脳裏に一人の少女を思い浮かべる。
――右目を失い、左腕を失い、それでも紅茶を笑顔で飲んでいた女性。
先代闇魔将であり幼馴染のビオラ。
氷魔将が静かに口を開く。
「……そのホークスとやらに適性があるか、試してみては。」
炎魔将が即座に怒鳴る。
「ギルドの傭兵如きに闇魔将が務まるか!
それに奴は、父上と兄上の敵を横取りした!」
「公私混同はやめよ。」土魔将が諭す。
炎魔将は不満げに黙る。
風魔将が冷静に言う。
「適性の吟味は必要でしょう。」
氷魔将は淡々と続ける。
「私がギルドへ赴き、直接見極めます。場合によっては手合わせも。」
室内がざわつく。
土魔将が問う。
「それは……先代氷魔将の敵であるアルクを討たれたことが関係しているのか?」
炎魔将が噛みつく。
「お前も公私混同じゃねぇか!」
氷魔将は淡々と返す。
「貴殿が赴けば、恥をかき六魔将の格を落とすだけでしょう。」
炎魔将は理解しきれず怒る。
「なんだと!?馬鹿にしたな!?」
「静まれッ!!」
土魔将の一喝が室内を震わせる。
炎魔将は不貞腐れ、氷魔将は一礼した。
「申し訳ありません。」
土魔将が女王へ進言する。
「この件、氷魔将に委ねては。」
女王陛下はしばし沈思し、告げる。
「氷魔将ヴォルド、正式にホークスの適性を調べて参りなさい。」
「御意。」
氷魔将は静かに受ける。
炎魔将は不満を抱え、
風魔将はランクXという肩書きの利用価値を計算し、
光魔将はただ一人の幼馴染を案じ、
土魔将は揺るがぬ姿勢で女王を支える。
そして女王陛下は、空席の闇の椅子を見つめる。
――あの優しい女性を思い出しながら。
新たな闇は、希望となるか。
それとも、再び犠牲を生むのか。
戦争終結を願いながら、女王は静かに目を閉じた。
第19話――終




