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第17話――誇りの刃――


荒い呼吸の中で、ホークスは一度、目を閉じた。

腹の傷が焼けるように痛む。

だが――まだ動ける。

「……ライトヒール」

淡い光が腹部を包む。完全には塞がらない。だが血は止まり、動ける程度には回復した。


痛みを抱えながら、思考を整える。

(二重魔法陣のマジックランス……手応えはあった)

確かに通った、加速された魔槍は脇腹に傷を刻んだ。


だが。

(怯ませはした。崩せはしなかった)

二重では足りない。

そして自分は見誤った。

(身体強化型だけじゃない……攻撃型の闘技まで使うと予測していなかった)

軽率だった。

アルクは今まで純粋な戦士として戦ってきた、大なり小なり攻撃型の闘技を使えないわけがない。

その目論見の甘さの代償が、この腹の傷。

アルクの傷より、自分の傷の方が深い。

状況は不利。

その事実を、飲み込む。

――ならば。


崩す役と、刺す役を分ける。

黒い大剣と魔法で均衡を崩し、懐へ飛び込み致命を奪う。それしかない。


アルクは血を流しながら笑った。

「まだだ、ホークス! 戦いはこれからだろう!」

槍を構え、突撃。

ホークスは回復を止め、分身を二体召喚。

一体に黒い大剣を持たせ、真正面から突撃させる。

もう一体には、崩壊寸前まで魔力を込め、アルクの左側へ走らせる。

ホークス本体は黒い大剣分身の死角に伏せ、腰の刀へ手を置く。

――居合の構え

さらに。

魔法を撃てるだけの魔力を持たせた分身を一体、追加召喚。

それを右側へ走らせる。

三方からの波状攻撃、どれが本命か悟らせない。

アルクは黒い大剣分身へ薙ぎ払いを放つ。

分身はなんとか受け止める。

黒い大剣が衝撃を受け止め分身は消えない。

拮抗する。


アルクの右側にいる分身が詠唱しながら接近。

狙うは、先程の脇腹。

「マジックランス」

放たれた魔槍。

アルクは笑う。

「同じ手は食らわん!」

薙ぎ払いで魔槍を撃ち落とし、そのまま黒い大剣分身へ切り返す。

受け止める分身。

その瞬間。

左側の分身を警戒するアルクの意識が、僅かに逸れる。

(あちらが本命か? 先程より強い魔法が来る――)

その刹那。

目の前の黒い大剣分身が消え大剣が落ちる。

「――っ!?」

斜め下から。

ホークスの斬撃が現れる。

刀が閃く、渾身の居合斬り。

分身を斬り裂きながら出現するなど予測外。

アルクは驚愕しながらも、斬撃を受ける。

血が飛ぶ、だが。

「浅い!」

拳を握る。

ホークスを拳で打ち抜こうとする。


その瞬間。

左側の分身。

三重に重ねられた威力の魔法陣。

重なる光。

近距離仕様、短射程・高速・高威力。

「マジックランス」

三重を通過した魔槍が、至近距離からアルクの脇腹を貫く。

「ぐぁぁ!?」

今度は、明確な手応え。

肉を抉り、内臓を砕く。

アルクの身体が大きく揺れる。

致命傷を負う、それでも。

「これしき!!」

大きく揺れながら数歩後ろに下がり、手放していない槍で、目の前のホークスを薙ぎ払おうとする。


ホークスは一歩、大きく踏み込む。

居合を放った体勢から刀を切り返す。

闘技”斬撃”

槍を握る腕が宙を舞った。

その瞬間、ホークスの目の覚醒が解ける。

反動で視界が揺れる。


だが戦闘は止まらない。

「まだだ!!」

アルクは腕を失いながらも怯まずに蹴りを放つ。

ホークスに直撃。

ホークスが吹き飛ぶ。

地を削りながら後退。

背後で予め待機していた分身が黒い大剣を投げる。

黒い大剣を受け取り、分身を足場に跳躍。

アルクは斬られて宙に飛んだ腕が持っていた槍を掴みホークスを待ち構える。

血まみれの身体で、片腕を失いなお立つ。

「来い……!」

ホークスは吼える。

「闘技――大切断!!」

振り下ろされる黒き刃。

アルクは掴んだ槍で限界を超えて放つ。

「闘技――獣王斬!!」

両者の渾身の闘技がぶつかり合い、衝撃が辺りを支配し蹂躙する。だが。


黒き刃は薙ぎ払う槍ごと両断。

そのまま、深々と身体を裂く。

二度目の致命傷

アルクは膝をついた。

膝立ちのまま、なお目は死んでいない。


ホークスは黒い大剣を構え、尋ねる。

「……遺言はあるか」

アルクは少しだけ驚き、そして笑った。

「律儀だな……」

血を吐きながら、空を見上げる。

「兄弟達に……元気でな、と伝えてくれ」

ホークスは頷く。

「約束する」

黒い大剣を握り直す。

だがその顔は、晴れない。

アルクはそれを見て、静かに言った。

「俺に勝った男が……そんな顔で俺の首を落とすな」

優しい声だった。

「誇らしい顔をしろ」

ホークスは一瞬、目を伏せる。

そして

「……とびきりの火酒を用意しておく」

アルクは笑う。

「それは楽しみだ」

一拍。

ホークスは短く告げた。

「……さらばだ、戦友」

黒き刃が振り下ろされる。

首が宙を舞った。

一瞬の静寂。


次の瞬間。

「アルク将軍が……!」

「やったぞ! 勝った!」

レイナス王国の兵士達の歓声が戦場を揺らす。

「ホークス様が討ち取った!」

「勝利だ!」

歓喜の渦。


ホークスは飛んだ首を拾い上げる。

近くの獣王国兵へ歩み寄る。

兵は警戒し、槍を握る。

ホークスは静かに砂を払う。

「……強い将だった」

それだけ告げ、丁重に渡す。

兵は言葉を失ったまま、受け取る。

ホークスは振り返らず、レイナス軍陣営へ歩き出す。

そこに――フェンリル。


巨大な獣は、浮かない顔で主人を見る。

少し泣きそうな目。

フェンリルが心配している事にホークスは気づき、無理やり笑う。

「助かった。ありがとう」

フェンリルは鼻を鳴らす。

「……大丈夫だ」

強がり。

だが声は僅かに震えていた。

背に乗る。

フェンリルは静かに王都方面へ走り出す。

背後ではなお歓声が続く。

だがホークスは振り返らない。


戦場には、ひとつの一騎討ちの終焉が刻まれた。

勝者は生き残り、敗者は誇りを残した。

それだけが、この戦の真実だった。


第17話――終

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