第10話 ――黒鉄を断つ刃――
■数日後――修行の到達点
修行を始めて、数日。
森の奥で、ホークスは四体の分身を並べていた。
そのうち一体だけ、明らかに魔力の濃い個体。
「いくぞ」
魔力を多く含んだ分身が、まず“威力”の魔法陣を展開。
続いて“加速”の魔法陣。
二つを、重ねる。
光の紋様が干渉し、わずかに軋む。
分身が詠唱。
「――マジックランス」
放たれた魔力の槍が、重ねた魔法陣を貫く。
瞬間、光が爆ぜた。
速度と威力を増した槍は一直線に飛翔し、カトレアが作り出したゴーレムへ直撃。
響く轟音。
土塊が四散し、ゴーレムは爆散した。
ホークスは拳を握る。
(いける……!)
だが、カトレアは腕を組み、じっと分身を見ていた。
「ねえ」
「ん?」
「その魔力を多く含んだ分身。魔力探知を使わなくても、なんとなく雰囲気が違うわよ」
ホークスは一瞬、黙る。
「……目立つか」
「ええ。あれが“本命”だって分かる人には分かる」
少し考え、ホークスは言う。
「じゃあ、他の分身にも魔力を持たせる。偽装用に」
カトレアは口元を緩めた。
「どうせなら、全部バラバラの魔力にしたら? どれも怪しく見えるわ。相手の意識を分散できる」
「……なるほど」
素直に頷く。
「参考にさせてもらう」
「あなた、そういうところ素直よね。偉い偉い」
お姉さん風に軽く頭を撫でる仕草。
「茶化すなよ」
だが、どこか楽しそうだった。
「今日はここまで。充分成果は出てるわ」
「面倒をかけた、ありがとな」
そしてホークスは言う。
「今日は注文した大剣の様子を見にブレドに戻る」
「そう」
カトレアは少し表情を引き締める。
「最近、境界線付近の魔物の動きが怪しいの。私はこれから魔界の同盟国――ガスト連邦国へ向かうわ」
「……そっちか」
だがホークスは軽く笑う。
「お前が行くなら心配ないな」
「何それ」
「事実だ」
短い沈黙のあと、カトレアは背を向ける。
「死なないでよ」
「お互いにな」
見送った後、ホークスは召喚陣を描く。
現れたのは大型の狼――フェンリル。
「頼む」
背に跨り、王都ブレドへ向かう。
■王都ブレド、偏屈ドワーフの工房にて
王都ブレドの城壁外で立ち止まる。
フェンリルを撫でて礼を言い、送還。
門をくぐり鍛冶工房の地区へ足を運ぶ。
目当ては、偏屈ドワーフのクレイの店。
扉を開けた瞬間。
「勝手に入るなと言ってるだろうがぁぁ!」
怒号が響く。
ホークスは怒号を聞きすぐに扉を閉める
「俺だ、ホークスだ、注文した大剣の様子を見に来た」
クレイが振り向く。
「あぁ? ……なんだお前か」
不機嫌な顔のまま、黒鉄でできた大剣を差し出す。
「完成だ」
受け取った瞬間、重みが腕に沈む。
だが重いだけではない。重心、刃の厚み、刀身の硬度。
「……すげぇ」
感嘆の息。
刃紋、研磨、均整。何よりも硬度。
「こんな硬さの剣、魔界でもそうは見ないぞ。」
クレイは少し照れくさそうに鼻を鳴らす。
「試し斬りしてこい」
店の一角、黒鉄大剣用の試し斬りの鉄塊。
ホークスは大剣を構える。
「闘技――斬撃」
一閃。
鉄塊は真っ二つ。
「……最高だ」
さらに褒める。
クレイは満足げに頷き、
「最後の調整だ」
大剣を取り上げ、鍛冶台へ。
道具を取りに奥へ向かう。
その時。
視界の端に、黒い大剣。
先日見た、異様な存在感。
思わず近づき、手に取る。
重い。だが、それ以上に――完成度。
(なんだ……これ)
刃の密度、硬度、均一性。
クレイが戻り、絶叫。
「何してやがる馬鹿野郎!」
だがホークスは聞いていない。
「なんだこの剣……化け物かよ」
ようやく我に返り、褒め言葉を絞り出す。
クレイはため息を吐きつつホークスに教える。
「未完成品だ」
「は?」
ホークスは信じられずに絶句する。
クレイは語る。
かつて息子と共に、黒鉄と魔物素材を使った神話級の武器を作る計画を立てたこと。
二人で黒鉄の大剣を作り、息子が最高級の魔物素材を調達する予定だったこと。
魔物の大剣の設計図と神話に挑む夢。
竜の目撃情報。
竜の鱗を求めて渓谷へ向かった息子。
――帰らなかった。
残ったのは、黒鉄の大剣と設計図、そして孫。
辺りを沈黙が包む。
だがホークスは、黒い大剣を握ったまま試し斬り場へ向かう。
「おい!!返せ!」
クレイは叫ぶ。
ホークスは鍛冶台の黒鉄の大剣を片手で持ち、鉄塊をどかし、地面に突き立てる。
「何を――」
「闘技――大切断」
黒い大剣が唸る。
突き立てた黒鉄の大剣へ斜めに一閃。
鳴り響く轟音。
斜め上部が地面に落ちる。
辺りに広がる静寂。
ホークスは黒い刀身を見る。
傷も欠けも、ない。
深く息を吐く。
「……依頼した剣、使えなくなっちまった」
いたずらっ子のような笑顔。
「これ、譲ってくれないか?」
クレイはぽかんとし、やがて笑った。
「置物にされる剣ほど不憫なもんはねぇ!。……持っていけ」
ホークスは黒い大剣を背負う。
(慣らす時間はある。一騎討ちまでに、ものにする)
背中に背負った黒い大剣は勝利の可能性を帯びて強敵との戦いを待ち望んでいるかのように見えた。
黒い大剣がホークスにもたらすのは勝利か敗北か……あるいは。
■ボイドの家にて
金髪ツインテールの少女が帰宅する。
「ただいま〜!」
家にはボイドが優しい顔して出迎える。
「おかえり。今回は長かったじゃないか」
いつもの様子からは考えられない優しい声。
「レイナス王国の外れの村まで手紙届けてきたの! これ、おみやげ!」
干し肉と蒸留酒を元気よく渡す。
ボイドは嬉しそうに受け取る。
「ありがとう。……そうだ、ホークスが神界に帰ってきたよ」
「本当に!?」
「ああ、本当だとも」
そして、優しく続ける。
「だが帰って早々、ギルドからの任務で戦争の最前線に行くことになっているみたいでねぇ」
少女の笑顔が曇る。
「……危なくないよね?」
ボイドは微笑む。
「強くなって帰ってきたホークスならきっと大丈夫だよ」
「………そうだよね」
少女は小さく拳を握る。
胸に、静かな不安を抱えながら。
第10話――終。




