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私と犬(アナタ)の世界で  作者: 暁理
第八章 大学生篇
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大学生篇① 桜花

彩藤叶湖:大学1年(18歳)

桐原黒依:叶湖の幼馴染。

月本つきもと あお:叶湖の先輩。

 桜並木の下。

 入学式とその翌日のオリエンテーションを揃って欠席した叶湖と黒依が、ようやく大学へ向かう。欠席した分の資料を受け取って、早々に履修科目を提出しなければならない。

 最初1週間は、履修科目未定のままでどの授業でも受けられる。当然、出席点も免除である。





 が。

 大学について早々に、叶湖は音を上げていた。

「帰ります」

「ま、まぁまぁ」

 そんな叶湖の気持ちが分かって、黒依も宥める。機嫌の悪い叶湖に当られるのも、それはそれでいいのだが、本当に帰ってしまえば、1年目から早々に留年が決定する。





 叶湖が帰りたくなっている原因。

 それは、校門から校舎までの間を埋めるように並ぶ、各サークルの新歓ブースであった。

「……2年で消えるのでサークルは無理ですね。参加自体は問題ないですが、記憶が残ると面倒です」

「或いは、叶湖さんのビジネスパートナーしかいないようなサークルがあれば」

「……まぁ、それはアリかもしれませんが。……ここから探しますか?」

「遠慮します」

 ですよね、と呟いて、結局叶湖はリタイアした。

 黒依を走らせて、自分は校門を少し出たあたりで待つことにする。





「新入生?」

「いえ、違います」

「そう、ごめんね。なにか迷ってるのかと思って」

「人待ちですのでお気づかいなく」

 そんな叶湖に声をかけてきたのは、20を過ぎたばかりに見える青年だった。よく考えずとも、学生だろう。





「学部と専攻、聞いてもいい?」

「……失礼ですけど、ナンパですか?」

「うん、そう」

 叶湖の笑顔での威圧にも、のんきに応えてみせた青年に、叶湖もくす、と喉をならした。

「文学部心理学専攻です。よろしくお願いします、先輩」

「なんだ、やっぱり新入生。入らないの?」

「えぇ。人に酔ったので、少し休んで帰るところです」

「そう、まぁ、確かにこの人混みじゃぁね……。あ、俺は月本蒼。文学部文学史専攻。同じ学部だし、授業被るかもね。そしたら、隣にいってもいい?」

「いえ、駄目です」

 叶湖がそこで、ちらり、と腕時計に目をやった。ちかり、とライトが素早く点滅する。





「お待たせしました、叶湖さん」

「……なぁんだ、いるんだ」

 彼氏、と呟いて月本が苦笑する。

「その方は?」

「文学部の先輩ですって」

「……そうですか。お話、すみました?」

「えぇ、済んでます」

 月本を放って、叶湖は黒依と2,3言話す。それでも、第一印象で働いた勘は悪くはなかったので、サービスをすることにした。





「私は彩藤叶湖。それでは、また」

 名前だけを名乗って、さっさと身を翻す。黒依は無言でそのあとをおいかけた。





「お気に召したんですか?」

「名乗る程度には、ですね。あれ以上の会話をする気はありません。今のところ」

「そうですか」

 帰り道、少し機嫌を損ねている黒依に叶湖が苦笑する。

「授業、何とります?」

「叶湖さんと同じもの」

「私も、なんでもいい気分なんです。半分、選ぶの任せましょうか」

「……仕方ないですね」

 どうも、こういうことでは思考が鈍る黒依に苦笑を溢していた叶湖が、そうだ、と呟いた。





「この後、アナタのアパート行きましょう」

「何か用事ありましたっけ?」

「こう表現すると楽しそうでしょう? 『男性の1人暮らしの部屋を訪ねる』、と」

「……ベッド、一応入れてありますけど」

「薬がないので、ソレはダメです」

 若干顔を赤くした黒依の背中を、ぺちり、と叶湖が叩く。





「じゃぁ、なんでそんな表現するんですか」

 期待するでしょう、と黒依が拗ねた口調で言った。

「だから、最近、我儘ですよ。せっかくですから、お仕置きしておきます?」

「それでもいいです」

「まぁ、それも、私のマンションじゃないと、いろいろ道具がないんですけどね」

 叶湖が嘯きながら、それでも足を黒依のアパートへ向ける。自分で言いだしたことだけあって、叶湖も割と乗り気なのだろう。





 間もなく、2人はアパートへついた。

 大学からは、徒歩10分もかからない。叶湖のマンションよりも、よほど通学には便利である。7畳の1Kであり、叶湖のマンションと比べればとても狭く見える部屋だが、それだけあって、体の密着度は高い。





 ソファはないので、叶湖はベッドに、黒依は床に腰かけて、2人で履修登録の説明用紙を捲る。他学部受講も合わせれば、相当の数があり、科目名を目で追うだけでも疲れてきた。

 黒依の家族が訪ねてくることを想定して、ある程度の生活感が出るように用意されているインスタント珈琲を淹れて啜りながら、叶湖が科目リストを睨みつけている。

 黒依でなくても分かる、不機嫌なのだ。





「叶湖さん、後にします?」

「今選ばないと、絶対嫌になります」

「そもそも、卒業する気がないんですから、そこそこでいいんでしょう?」

「えぇ。ですが、あまり大学から目をつけられても困るので、浮かないようにはとりたいですね。でも、出席点があるのは困ります。あまり授業を受ける気はありません」

 ただでさえ1年には必修科目が多いのだ。それすら受けたくないのに、さらに負担を増やしたくはない。





「叶湖さん」

 黒依が、すっ、と叶湖の手から用紙を抜き取り、そのまま叶湖の体を後ろへ押し倒した。

 ぎりぎりまで黒依の手が背中を支えていたので、ぽすっ、という軽い音と共に叶湖の体がベッドへ沈む。

「襲いたくなりました? このタイミングで?」

「いえ、機嫌が悪そうなので、解消してもらおうかと」

 その体を挟むように膝と手をついて、叶湖を見下げる黒依の瞳に、叶湖が獰猛に笑ったのが見えた。





 叶湖がぐっ、と膝をたてて黒依の体を押し上げ、勢いに任せて横に転がる。

 普通ならば、その勢いで叶湖もどこかを打ち付けそうだが、そこは黒依が抱きとめる。

「では、遠慮なく」

 ぴっ、と叶湖が袖から取り出した針先が、黒依の腕に傷をつけた。

 ついでに、その針先を体のツボへ刺し入れる。





「っ、ぅぐっ、あぁっ」

 黒依がくぐもった声をあげるのに、叶湖の表情が蕩けていく。

「相変わらず、可愛い声で鳴きますね」

「はぁっ、そう、ですか?」

「えぇ、好みです」

 叶湖の両手が黒依の首を締めあげる。息を詰まらせた黒依に口づけを落としながら、叶湖がうっとりと微笑んだ。



大学生篇突入です。

ゆとり・篤・健治が、ほぼ退場してしまったので、変わりのエッセンスを投入しました。

本命は別にいるので、大穴、といったところでしょうか。

そして、久しぶりのいちゃラブ()です。

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