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私と犬(アナタ)の世界で  作者: 暁理
第六章 高校2年篇
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2年生篇⑪ 進路

彩藤叶湖:高校2年(17歳)。化学部部長、生徒会書記

桐原黒依:叶湖の幼馴染。生徒会長

 生徒会の副会長の座が空席になってしまったが、今期が残り短いことと、主に黒依と叶湖を指す意味での現役員が優秀なこともあって、結局、副会長を再度選び直すことはしないこととなった。

 そして学園では、生徒会を始めとした様々な組織での任期満了を前にして進路相談が始まった。

 なぜ、任期満了を前にしてかといえば、由ノ宮学園はそれはそれは自由な校風であるので、例えば、いかに多忙な生徒会役員であっても、由ノ宮学園大学へ内部進学を希望してさえいれば、3年生であっても、部活、各種委員会、そして生徒会ですら、その役割を担うことが可能であるからだ。

 実際に、現風紀委員長は3年生が勤めている。

 黒依の進路は、もちろん叶湖の言うがままであるので、その日、黒依は叶湖の進路先を尋ねるために叶湖のマンションを訪ねていた。





「僕は、叶湖さんにお任せします。どこへでも、ついていきます」

「そうですね、私もこれといって行きたい大学があるわけではないですけど、由ノ宮へ行かないことは確かですね」

 珈琲の入ったカップを叶湖の前に置きながら言う黒依に、叶湖も頷く。

「それは、また、どうして?」

「由ノ宮最大の魅力であった裏生徒会がなくなりますし、退屈そうです。それに、大学在学中に、私は姿を消す予定なので。……私を知る人間など、少なければ少ないほどいい」

「そういえば、以前、姿を消されたのも大学在学中、でしたっけ」

 口の端だけで笑う叶湖に、黒依が何かを思い出したように呟く。





「えぇ、そう。まぁ、以前は、大学に入学するまで親元を離れるのが難しかった、というのもありますけれど。なんだかんだ、アナタと一緒の学校生活が楽しかった、のでしょうね。少なくとも、あと1年、高校生活を送るのに、なにの不満もありませんよ」

 叶湖の言葉に黒依は機嫌よく頷く。

「僕も、です」





「できれば在学中にある程度のコネクションを確保したいので、なるべく情報の集まり易い都心からは離れすぎない方がいいですね。それから、姿を消した後は、兄2人や今の私の生活圏内を離れる必要がありますから、その時の行動範囲をあまり狭めない場所……要するに、今の生活圏内とは重なっている方がいい」

「姿を消した後は、この部屋も当然引き払いますよね。……それは、少し残念です。この内装は、懐かしくて気にいっていました」

「次も全く同じ間取りと内装ですよ。私が建てるので。むしろ、今よりも前世に忠実でしょうね」

「そういえば前も、マンション建ててましたもんね……」

「さすがに、本格的に情報屋をするとなると、誰とも知らない人間と同じ建物に住みたくありませんから、それを一新する意味でも必要です。それに、防音性能を含めたセキュリティ面に、今よりに力を入れる意味でも、自分で建てた方が早いですからね」

 名残惜しそうに部屋を見渡す黒依に叶湖は微笑んで答える。そんなつもりはないが、もし内装が変わることになっても、リビングにソファを置くことだけは変えないだろう。それくらい、リビングのソファには黒依との思い出が詰まっている。もちろん、叶湖が黒依にそのことを教えるつもりはないが。





「私たちは、受験に適した学習はしていませんから、あまり難関の大学を受験するのはやめましょう。その必要もありませんし」

 呟きながら、候補を厳選していく叶湖。

「公立か私学かは問いません。もちろん、黒依のご家族のことを考えれば、私学は無理でしょうけれど、奨学金で通うと説明しておいて、実際に私が学費を払うことは簡単です。もっとも、現実に奨学金を受けておいて、その履歴ごと抹消するのも簡単ですが」

 簡単に黒依の分の学費を払うと言ってのけた叶湖に、黒依は何の遠慮の言葉も返さない。黒依が叶湖の側にいるのと同じくらい、叶湖が黒依の『生活費』を負担するのは、何のこともない、あたりまえのことなのである。黒依は、叶湖のペットなのだから。





「そこそこ学生数は多い方がいいですね。受験時のパイも大きくなりますし、消えた時に目立たない。まぁ、消え方にもいろいろありますから、絶対に目立たなくする必要もないですけれど。どのみち、近くに家族がいる以上、前回のように戸籍とそれまでの情報を抹消して終了、とはならないでしょう。……家族ごと消すならともかく」

「そういえば、先ほどからご家族は存命の方向で考慮されていますね」

「兄2人も、これまでの生活圏も近場ですからね、いくら家族が全員亡くなったところで、今まで関わったすべての人間から私の記憶そのものを消すことは不可能です。私と関わったすべての人間を殺すとなると、両の手足では到底足りませんし、国家権力も煩わしくなる……。前回のように、肩代わりして殺してくれる狂人もいないですしね」

 以前の生では、叶湖に対して妄執を抱いていた彼女の従妹が、彼女の両親にすら嫉妬した結果、叶湖の生家に火を放ち、両親を焼死へ追いやった。既に叶湖は実家から遠く離れた地で自活しており、自分の戸籍を消すだけで容易に存在を消すことに成功したのである。





「どういった消え方を考えておられるかは分かりませんが、そこは叶湖さんの領分ですからね、僕は言われた通りに従います」

「何もする必要はありませんよ。物理的な方法に出ない以上、私の領分内だけで片付きます」

「わかりました。……それで、大学の目星はつきました?」

「えぇ」

 叶湖はそう言って、操っていたノートパソコンを、黒依に見えるように向ける。

「城咲学園。公立の、何の変哲もない大学です。偏差値は高くもなく、低くもなく。私や黒依の成績からすれば、家族や学校に止められるかもしれませんが、知ったことではありません」

「学部はどうするんですか?」

「一番募集の多い文学部にします。専攻は、どうしてもというわけではないですが、宗教や歴史には関わりたくないですし、外国語を使うものはアナタが大変でしょうから、日本文学か心理学あたりを考えています。希望はあります?」

「僕に選ばせていただけるなら、心理学がいいです」

「では、そうしましょう」

 黒依の答えに満足そうに笑って、叶湖は机の上に広げられた、志望校の記入シートにさらさらとペンを滑らせた。




 黒依は大学など、どこでもいいと言った。叶湖だって、どこでもいいのである。

 ただ、そこに黒依が居れば。


閑話です。が、これにて高校2年生編が終了します。

次回から、高校3年生編に入ります。


短編集の更新を行いました。

本編中にあったかも、なかったかもしれない、そんな話の詰め合わせです。

本編と合わせて、よろしくお願いいたします。

http://ncode.syosetu.com/n1866do/

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