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私と犬(アナタ)の世界で  作者: 暁理
第六章 高校2年篇
42/60

2年生篇④ 布告

彩藤叶湖:高校2年(17歳)。化学部部長、生徒会書記

桐原黒依:叶湖の幼馴染。生徒会長

白居末明:叶湖のクラスメート。生徒会副会長

菱本壱緒ひしもと いちお:叶湖のクラスメート。風紀委員


 夏休みがあけて、教室の様子は一変した。

 二期制である由ノ宮学園の、前期の期末テストで、それまで黒衣と叶湖の同点首位に次ぐ3位を固く守ってきた白井が、その座から転落したのであった。

 ……それも、13位。







 Aクラス残留のためには余裕の席次とはいえ、21人しかいない教室内の席順では

 後ろから数えた方がギリギリ早い、中腹に位置する。







 彼女に代わって3位の位置についたのは、風紀委員をつとめ、ゆとりを支える菱本壱緒という男子生徒。

 風紀委員とはいえ、ゆとりが仲が良いくらいだから、決して堅物というわけでない。性格は陽気で、誰に対してもフランクというか、気安い。容姿も、文句なしのレベルであるし、成績は例のごとく。

 運動神経も悪くなく、サッカー部に所属。家系には医療関係者が多く、父親は大学病院の教授職で、祖父は病院経営者。本人は医者ではなく病院経営に興味があるらしく、文系クラスに席を置いているが、彼の心を射止めれば間違いなく玉の輿である。







 これまで部活を優先してきたためか、Aクラスに所属してはいても、中ほどの成績を前後していた彼であったが、心境の変化か、外部の大学を受験する気になったのか、満点で主席を維持する2人を除外して、間違いなくトップレベルの成績まで、その席次をあげた。黒衣がいなければ、学園の王子様は彼だったといえるほど、オールマイティな文部両道の男。それが、菱本壱緒であった。













 しかし、それは黒衣がいなければ、の話。黒衣という作られた王子様の前に、彼の有能さは特出するものではなく、クラスや学園での立ち位置も、隠れた人気はあるが、表だっては騒がれない程度の扱いであった。







 叶湖自身、ゆとりと関わりを持つ点で、存在を認識していた程度であり、その略歴すら調べる労力を払ったこともない。知っているのは精々、教室内の噂を小耳に挟むとか、裏生徒会の職務上必要最低限の情報に留まっている。

 あえて特筆することがあるとすれば、彼は間違いなく、器用貧乏に属する部類であった。器用なくせに、かえって目立つものがない。







 否、それは由ノ宮学園においての評価であり、別の場所であったなら、まさしく彼は特出した人材であっただろう。

 しかし、彼のいる場所は由ノ宮学園であり、彼ではない王子様のいる場所である。







 それ故か。叶湖は菱本という男に、自らの光を他人に霞まされたが故の歪みを、いい人という評価以外の何かを、感じずにはいられなかった。













「ま、だからといって何もしませんけどね」

「どうかしました?」

 小さく呟いた音でも、彼女の番犬が聞き逃すハズがない。首をかしげた黒依にいいえ、と微笑みかけながら、叶湖は岸原の視線も、白居の視線もキレイにかわしてみせた。













「彩藤、さん」

「あら、まだこんなところに居てもいいんですか? 黒依ならもう生徒会室へ向かいましたよ」

 呼びとめられて、ゆったりと振り返った。声で判別はついていたが、振り返った先、予想通りの顔があって、叶湖は微笑む。

 叶湖と黒依は同じ生徒会に所属する者であるが、その仕事量は段違いである。叶湖が書記という、仕事の少ない役目を負っていることもあるし、元より黒依が仕事のできることから、生徒会長を歴任する中で、多くの仕事を抱え込むようになったことも理由の1つである。







 そして、会長を補佐する役目である副会長も、その役目をしっかりと果たすためか、それとも下心でもあったのか、会長に次ぐ仕事の多さを誇っていた。

 今日も今日とて、叶湖には仕事がなく、黒依には仕事があった。普段ならば裏生徒会の執務室で仕事をこなすとか、雑談に興じるとかするところであるが、生憎、右腕である篤を不良の王へと遣いに出しており、急ぎの仕事もない。

 黒依を待つのはいいものの、することもなく、廊下を歩いているところに、生徒会室に向かっているべきはずの副会長殿に呼びとめられた。







「いいのよ。別に、ずっと一緒にいなくちゃいけないんじゃないんだもの。アナタたちみたいに」

「……私も、いけないわけじゃないですよ? 居たいからいるだけです」

「あぁ、そう。……きっと、随分と機嫌がいいんでしょうね。私が成績を下げて、清々したでしょう?」

 どうも白居末明という女は、普段は気立てのいいお嬢さんを気取っているくせに、黒依が絡むとどうしようもなく卑屈になるところがある。何かと叶湖に突っかかって来ることといい、随分と子供らしい。







「別に、清々したりしませんよ。私はアナタと成績を競っているわけじゃありませんから」

 裏を返せば、白居が成績を下げずとも、1度クラス次席にまで上りつめた叶湖が、彼女にその席を譲ることは絶対になかった、ということだ。

 卑屈故か、叶湖が言外に含ませる棘を正確に受け取ってくれる白居である。今回も裏の意味を理解して、顔を歪めた。







「幼馴染か何か知らないけど、今になって関係を持とうとするなんて、図々しいと思わないの?」

 叶湖と黒依が同じ幼稚園・小学校の出身であり、幼馴染の関係にあることは学内では未だ有名ではない。叶湖の兄であり、学園の教師である彩藤和樹が黒依と仲がいいので、家族ぐるみの付き合いであることは察することができるだろうが、だからといって過去の関係性を明言したことはない。

 とはいえ、小学校入学以前の生徒プロフィールも扱うことになる生徒会である。権力濫用をするまでなく、2人の関係などを調べるのは容易い。当然のように、白居も知っているらしい。







「別に? 図々しいとは、誰が誰に対してです? 私と黒依は互いにそんな感想など持っていませんし、万が一、それが第三者の感想であるなら、2人の関係い口出すその方が真実図々しいんじゃありません? それとも、私か、あるいは黒依が、誰かと関わるのに第三者の許可がいるような人間だとでも?」

 もっとも、黒依は間違いなく学園の王子様であるのだし、ファンクラブが組織されているのも真実。それが突然特定の女と関わりを持つことを面白くない生徒は万といるだろう。

 が、そんなことを気にする2人ではない。







 一応は正論である叶湖の言に、白居はぐっ、と声をつまらせる。

「に、しても。随分と安っぽい売り文句なんですね。私相手に感情論でつっかかってくるなんて……。私が生徒会に入ってからの半年じゃ、私にそういうものが通用しないと判断させるのに不十分でした?」

 くす、と馬鹿にするように喉を鳴らした叶湖に、白居が顔を赤らめる。







「理性的なお面を好んで被ってらっしゃるようですけど、アナタって感情的だし短絡的ですよね。私は随分前から知ってましたけど」

「っ!」

 隠しもせずに嫌味を放った叶湖に、その言葉どおり、感情的になった白居が叶湖を睨みつけた。ここで手をあげないのは、理性が働いたのではなく、さすがの白居末明という人間でも、カッとして手を出すような教育は受けてきていなかったのだろう。

 その点では、自分よりお嬢様らしい、と叶湖は腹の内で嗤う。







「絶対、後悔させてやるわ」

「楽しみですね」

 安っぽい捨て台詞を吐き捨てて身をひるがえした白居の背中に叶湖が紛うことなき本音を投げつけた。末明はこちらを振り返ることなく去っていく。

 退屈な学園生活に波風が立つことも、それがきっかけで叶湖の嫌いな白居末明を追い落とすことができるのも、叶湖にとっては真実、楽しみであった。












「ところで……、アナタも私になにか言いたいことが?」

 白居が見えなくなったところで、叶湖はゆっくりと振り返る。白居が居なくなった途端、自分の所在をつげるように声を立てて笑い声が響いた。

 振り返った先、死角から姿を現した菱本壱緒の姿に、叶湖は笑顔で首をかしげて見せた。




読了ありがとうございました。


お久しぶりです。生きてます。失踪をしたわけでもありません。

すいません。徐々に復活していきます。


さて、新キャラを登場です。彼は大学生篇の中心人物です。なので高校生篇ではあくまでサブキャラですかね。

とはいえ、次話は彼との会話がメイン。彼の性格を決め切れていないので、頑張って次話につなげます……。


今回の話で分かったのは白居さんの役不足感ですね。

あくまでアテ馬なんですけど!叶湖さんを敵に回すのに、実力が伴ってなさすぎる……。

だからこそ、彼女にいいオモチャにされてるんでしょうね。

このままだと、黒依が活躍する間もなく叶湖さんにやっつけられてしまいそうなので、彼女がうまく立ち回ってくれるよう祈ってます。

えぇ、すべて私の実力次第ですが……。orz



では、また次話で。

次話は今作と繋がってるので、すぐに挙げたいですね、、、

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