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私と犬(アナタ)の世界で  作者: 暁理
第六章 高校2年篇
39/60

2年生篇① 実力

登場人物

彩藤叶湖:高校2年(16歳)。化学部部長、生徒会書記

桐原黒依:叶湖の幼馴染。生徒会長。

白居末明:叶湖のクラスメート。生徒会副会長

宮木 篤:叶湖のクラスメート。化学部副部長

大里ゆとり:風紀委員会、副委員長

3年女子:風紀委員会、会長


「それでは、本日の自治組織合同集会はここまで、ということで」


 風紀委員長である3年生の先輩が静かに会議の終了をつげた。

 自治組織合同集会。その名の通り、由ノ宮学園の自治組織が集まり、今後の学園運営などについて、意思疎通を図るための会議である。







 叶湖が2学年へと進学したこの春、この集会にも小さな変化が訪れていた。

「こーんなタルいこと、よくやってんなぁ。 ほぼ週1だってぇ? 信じらんねぇ」

「初めてこの集会に顔を出したくせによくおっしゃいますね」

「あ゛ぁ?」

「……篤?」







 これ見よがしに不平を口にした篤に、最近、その雰囲気に常にまとわれるようになった棘をもはや隠すつもりもないように鋭い叱責がとぶ。

「すみませんねぇ。形式上は同じ自治組織とはいえ、こちらには生徒会や風紀委員と同じように学園の運営を行っていく、というわけではありませんから?」

「でしたら、これまでと同じように裏生徒会は不参加、ということでよかったんじゃありません?」




 そう。いままで、自治組織合同集会とは名ばかり。昨年までは由ノ宮学園に3つある自治組織はしかし、その内2つしか集会に参加していなかった。

 それが何の因果か、今年から裏生徒会が参加するとあって、集会の始った頃はわずかな緊張感すら漂っていたほどだ。

 とはいえ。各組織の幹部2名が参加する会議。



 

 生徒会からは、会長である無灯黒依と副会長の白居末明。

 風紀委員からは、委員長である3年女子と、副委員長である大里ゆとり。

 そして裏生徒会からは、会長の彩藤叶湖と、副会長の宮木篤。と、いうことで、何の因果か、ほぼ叶湖の息がかかっているメンバーである。

 逆に、刺々しい緊張感をまとっていたのは、ほぼ末明1人。末明が噛みつきたくなるのも分からないでもない。







「そもそも、話がタルいとおっしゃるなら、裏生徒会から何か行動指針の1つでも提案されてはいかが? 裏生徒会というだけあって、学園のことはよくご存知でしょう? せっかく集会に参加なさっているんですから、ずっと座ってるだけじゃ退屈じゃありません?」

 末明の言葉通り、集会が始まってからこれまで1言も口を開くことなく、ただ会議の流れを見守っていた叶湖が、その言葉に、それはそれはキレイな笑顔を浮かべた。

 その叶湖の笑顔の意味を知っているあるものは、落ち着きはらった瞳の奥で興味深そうに好奇心の光を閃かせ、またあるものは、やれやれとでも言いたげに肩をあげる、そしてまたあるものは、僅かに困ったように視線の端で末明を映した。







「えぇ、それはもう……。あまりにも話の内容に生産性がなかったものですから、つい居眠りしそうになってしまいましたよ」

 叶湖の言葉に末明と、そして風紀委員長が小さく息をのむ音がした。

「昨年通りの予定調和の学園運営をなぞるだけに、これだけの時間をかける必要性はないでしょう? 話し合いが必要だから、人を集めているのではないので? 長く続いた組織というものは、どうも慣習に重きをおきすぎる気がするのですけれど。まぁ、1から新しいことを考えるのも疲れますしね」




「昨年までの運営方法をとるのは、それが長い慣習の中で最も適していると思われ、いままで続けられてきたからです。楽をしようとしているともとれるような言い方はやめて下さいます?」

「あら、楽をしているのではなかったのですか? ……そのつもりがないのでしたら、そうですね……今までの自治体がただの能無しだったんですかね?」

 言ってクスリと喉をならした叶湖に、末明の顔いろが変わった。







 今までの生徒会、それは要するに、昨年度も同じ役職を含めた末明と、そして彼女の慕う黒依も入っているのだから当然だ。なんてことを、と言わんばかりの表情に、まるでわざと、その言葉を口にしたように、否、わざと、挑発してみせた叶湖は、ただキレイに微笑んで見せるだけである。


「叶湖さん」

「あら、失礼。まぁ、確かに、この程度の学園なら、この程度の運営でも構いませんしね。あえて最適を追究する労力を払う必要もないでしょう。……それならそれで、こんな無駄な時間、潰してしまえばいいものを。否、それも慣習というものですか」

 どういう心づもりか、静かに名前を読んだ黒依に、叶湖はまるで独り言のように呟いた後、笑顔で席を立った。





 予想の及ばない突然の動作に、しかし当然のように、篤が従う。

「会議は終わりましたよね? 私たちは失礼するとします。あぁ、安心してください。これからも傍聴のために参加はしますから、年度始めに言ったことを、1月経つか経たないかの内に撤回するものでもありませんし、ね」

 捨て台詞のように会議室に言葉を落とし、叶湖は静かに部屋を出る。












「マジかよ。たりぃ」

「あら、では篤は不参加でも構いませんが?」

「冗談。俺も出るにきまってんだろ」

 シン、と静まり返る室内に廊下でいつも通りに会話を繰り広げる裏生徒会役員たちの声がいつまでも聞こえてくる。







「では、そういうことで」

「黒依くん!? あの2人をこのまま放っておくの!?」

「会議は終わったんですよね? 僕も急ぎますから。なにより、自治体である裏生徒会の会議の出席を拒むことは僕たちの権限ではできません。とはいえ、学園運営に表向きに関わらない裏生徒会を積極的に参加させる必要もない。傍聴するだけ、というなら、そのままで構わないでしょう?」

 当然、と言いたげに席を立った黒依に末明が悲鳴のような声をあげる。

 それに対して、黒依は静かに末明を諭すように、反論のできない正論を並べて、自分もさっさと部屋を出て行った。





「委員長、僕たちも行きましょう?」

「え? あ、そうですね。それでは、白居さん、失礼しますね」

 2人のやり取りを見つめたまま、放心していた風紀委員長と共に、ゆとりも会議室を出る。中に居るものが1人だけになった広い部屋の中で、末明は1人、きつく手を握り締めるのだった。













「そろそろ、始りますかねぇ」

「……危険なことは控えてくださいね」

「何言ってるんですか。私が危険を冒しても、そうと気づかれないうちに、私の目の前から危険を排除する。それがアナタの仕事でしょう?」

「……仰せのままに」




 夕日が照らす帰り道。まるですべてが計算づくのように、否、人の1人どころか、学園まるまる1つを、手の平で転がしているかように、先を見通した真の実力者が、楽しそうに喉を鳴らした。


読了ありがとうござました。



お久しぶりです。生きています。

前回と似たような流れですが、ようするに、2年に進級しても、女の争いが激しくなるばかり、でございます。

さて、これからどう、叶湖と末明が行動を起こしていくか、お楽しみくださいませ。



次回、次々回は舞台を学園から移動させまして、叶湖と黒依、そしてその家族へ視点を移動させていきます。

とても次回の更新日を予告できる状況ではありませんが、近々、更新したいとは思っています。


生温かく見守っていただければ幸いです。


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