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私と犬(アナタ)の世界で  作者: 暁理
第五章 高校1年篇
32/60

1年生篇⑤ 幕間

登場人物

彩藤叶湖:高校1年(16歳)、化学部部長

桐原黒依:上に同じ。叶湖の幼馴染、生徒会長

彩藤 直:叶湖の兄。医者

彩藤和樹:叶湖の兄。数学教師

 果たして、叶湖が久方ぶりに家に連れて来た彼女の幼馴染の姿に、兄2人は驚いて目を見開いた。

「黒依……」

「お前ら、いつの間に仲直りしたんだ?」

 彼女の誕生日を祝うため、帰宅の音を聞いて出迎えるために玄関に姿を現した直と和樹は、そのまま動きを止める。





「別に喧嘩をしていたわけではないのですけれど……」

「ま、まぁいい。とにかく、誕生日おめでとう、叶湖」

「おめでとう」

「ありがとうございます」

 兄2人に祝われ、そつなく返事を返す叶湖。ちなみに黒依が祝いの言葉を投げかけることはない。

 その理由を知っている叶湖は気にするそぶりも見せず、家の中へと踏み込んだ。






「それにしても……なにが理由で喧嘩してたんだよ。んでもって、よく仲直りできたよな……カナリ長かったぞ?」

 黒依に呼びとめられ話しこんでしまったことが原因で、予定より帰宅の送れた叶湖に、すでに兄2人は食事の準備を整え終えていた。

 そして主役が帰宅したことで、そのまま食事が始まる。





 ふと、和樹が思いだしたように話題を振った。

 和樹だけでなく、直も黒依の家族も、叶湖と黒依がそれまで喧嘩らしい喧嘩もすることなく、常に一緒に行動を共にしていたことから、最初で、そしてそれがきっかけで2人が口もきかなくなった最後の喧嘩の原因は気になっていたのだろう。

「喧嘩の理由……ですか。有り体に言えば、黒依が約束を破ったんですよ。私との」

 叶湖の言葉に、その隣で黒依が苦笑ともつかない顔をする。

「約束?」





「あの当時、ちょうど治安が悪かったでしょう? 黒依は『私を守る』なんて言っていたんですけれど、私は私を守るより自分1人を守るよう伝えたんです。それなのに、黒依は約束を破って無茶に身体を鍛えようとした挙句、怪我をしました。それで、自分の身体1つ守れていないことを怒った、というわけです」

 そういえば、2人が喧嘩をしたのは、夜遅くまで黒依が家に帰らなかった日である。

 そんな理由があったのか、と兄2人は深く頷き、唸った。





 なにはともあれ、ほほえましい話である。兄2人は考える。お互いがお互いを守るために喧嘩をしたなんて。叶湖の都合のいい話口に、都合のよいように話を受け取らざるを得なかった兄2人は、しっかりと育った妹とその幼馴染に安堵をおぼえるのだった。







「それじゃ、何で今更仲直りしたんだ? いや、それが悪いって言ってるんじゃ、もちろんないんだが」

 叶湖の可憐な情報操作に内心で呆れていた黒依は、和樹の言葉で何かを思い出したのか、ハッとしたように叶湖を振り返った。





「……なんです?」

 その様子に怪訝な表情を浮かべて叶湖が首をかしげる。

「宮木篤とは、結局どういう関係なんですか?」

「はい?」

 黒依の口から飛び出した名前に叶湖は首をかしげる。

 言葉通り、叶湖をストーキングしていた黒依には、2人の関係など今更説明する必要もないように思うのだが。







「……誰だ、それは」

「あー、叶湖のクラスメイトで、叶湖が部長をしてる化学部の副部長だよ。結構面白い奴だぜ?」

 話の舞台が学校へうつり、ついて行けなくなった直の呟きを聞いて和樹がフォローする。

 和樹から『面白い奴』の認定を下された、その人物に、直があまり良い予感を覚えなかったのは、ここだけの話。





「ま、確かにすっげー仲いいよな。いっつも一緒に授業サボってるし」

「……叶湖?」

 何気ない和樹の暴露に直が鋭い視線を向ける。それを受けて、叶湖は僅かに肩をすくめた。

 今更直も叶湖をどうこうできるとは思っていないハズだ。

「別にテストは真面目に受けていますし、成績もおとしていませんよ」

「とはいえ……俺はお前ならもっと高得点をとれるだろうと思っているんだが?」

「普通にテストを受けているだけじゃ、何も面白くないじゃないですか」





 言葉通り、決して順位を落とさない。

 Bクラス主席の成績より、1点上回るのみの成績をとり続けている叶湖の、それを恣意的に行っていることを認める科白に、直も和樹も揃ってため息を落としたのだった。







「それで、宮木がどうしたんだよ、黒依」

「いやぁ……4時間目に先生に頼まれて叶湖さんを探したんですけれど、保健室で同じベッドで眠っているのを見て、僕も頭に血が上ってしまって」

「げほっ……ごほっ、ごほっ」

 黒依の言葉に噎せたのは、もちろん直であった。





「叶湖!?」

「何を。和樹さんならとっくに不純異性交遊していた年齢だと思いますけど。……とはいえ、寝ていただけですよ。それも、私が寝た後で、彼が私のベッドに勝手に入りこんだだけで……」

 叶湖の言葉に直は顔を白くしたり青くしたり赤くしたり忙しく、和樹は和樹で自分のことを思い出したのか、苦笑を浮かべている。

 そんな中、黒依は知っていた。いかに、篤が勝手に行動を起こしたのであろうとも、警戒心のつよい叶湖がそれに気付き、反対しなかったのであれば、同意があったのと変わらない、ということを。








「あー、にしても、それで仲直りするきっかけになるなんて、黒依はよほど叶湖は好きなんだな。誰にもとられたくないんだろう?」

 未だ口をぱくぱくと開閉させ、言葉を失っている直を気遣い、話を変えようと矛先を黒依へ向ける和樹。

 それで黒依が焦ったり、照れたりすれば和樹の思惑は成功していたのだろう。……が。







「……えぇ、愛していますし、誰に渡すこともしませんよ」







 相手は黒依。自分の気持ちを隠すつもりなど微塵もないし、むしろ大々的に公言して面と向かって威嚇したい人間である。

 堂々と肯定さて、和樹の内心はまさに、『ごちそうさま』な状態である。相変わらず、直はぱくぱくしているわけだし。





「あー、それは……で、付き合ってるわけ?」

 とりあえず、兄として一応は聞くべきことを聞いておくことにする。

「いえ、別に」

 答えたのは黒依であったが、その隣で叶湖も肯定していた。

「え、なんで?」





「そもそも、『付き合っている』なんて……『別れる』ことが先にあるかもしれないような関係に落ち着こうなんて思いませんよ、落ち着かない。……私も、黒依を手放す気はありませんから。別に、付き合う付き合わないなど、関係無い。ただ、私たちは2人でいる。それが、昔も今も変わらない、私たちの関係なんですよ」

 きょとん、と聞き返した和樹に叶湖が説明する。

 妹が持ち、黒依も理解しているらしい、独特の恋愛観は生憎和樹にはちっとも分からなかったが、一般的に『付き合っている』状態は認めていない2人が、しかし、ハタから見れば十分に両想いで『付き合っている』状態にあることだけは理解できた。







「あー、なんかわかんねぇけど、オシアワセに?」

「ありがとうございます」

 十分お似合いな妹カップルに、ついに白旗をあげた和樹と、未だ言葉を失ったままの直。

 そんな兄2人を前にして、叶湖は悠々と笑顔を浮かべていたのだった。













「おはようございます」

 朝、実家に泊まった叶湖がリビングルームへ向かうと、そこには黒依が待っていた。

「……どうしたんですか?」

 昨日は食事の後、時間も遅かったことからすぐに自分の家に戻った彼が、しかしその場にいるのに叶湖は僅かに驚いた様子で首をかしげる。







「迎えに来ました。道中で何があるか分かりませんから、一緒に登校しようと思って。さすがに、お部屋まで伺うのはアナタの御兄弟が許して下さいませんでしたけど」

 当たり前だ、というように視線をあげる、直に黒依はもちろん、叶湖も苦笑を浮かべる。

「……そうですか、おはようございます。黒依、朝食は?」

「食べてきました。叶湖さんは召し上がりませんよね?」

「朝はとらない主義なので」

 叶湖はそれだけいうと、手早く冷蔵庫から取り出した、コーヒーだけを飲んで荷物を手にとった。

 さっさと家を出たかったのは、別に黒依を待たせたく無かったわけではなく、直の2人を見張るような視線に居心地の悪さを感じたためである。





「あぁ、冷たい飲み物は体に毒ですよ。しかもそんな一気に!」

 さっさとリビングの出口へ向かう叶湖に、自分もせわしなく立ち上がった黒依が後を追う。

「……アナタ、おせっかいの度合いが増していませんか?」

「気の所為です。もう出られます? お荷物、持ちますよ」

 僅かに眉をひそめた叶湖に、黒依は気にした様子もなく、叶湖の荷物をとると、リビングの扉をあけた。

「どうも。……それでは、直さん、和樹さん。今日はここには戻りませんので」

 叶湖はそれだけいうと、まっすぐ玄関へと向かってドアを開け放つ。

 兄妹というにはあまりにも他人行儀な挨拶に兄2人は苦笑しつつ、しかしその隣にしっかりと寄り添う男を視界に入れて、虚しさではない、別の気持ちを抱きながら妹を見送くるのだった。





読了ありがとうございました。



スクールライフを送る2人の幕間的お話、彩藤家の日常でした。

それにしても、規格外ぞろいの彩藤家。長男は随分苦労していることでしょう。


次話から学校を舞台に、関係の代わった2人のお話が広がっていく予定です。

見守っていただければ幸いと思います。


それでは

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