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私と犬(アナタ)の世界で  作者: 暁理
第五章 高校1年篇
28/60

1年生篇① 入学

登場人物

彩藤叶湖:高校1年(15歳)。化学部部長

桐原黒依:叶湖の幼馴染。生徒会長

宮木 篤:叶湖のクラスメート。化学部副部長

白居末明:叶湖のクラスメート。生徒会副会長


 ガヤガヤとざわめきで溢れる教室には、見知った顔が半分と、知らない顔が半分あった。

 今日は、由ノ宮学園高等部の入学式。

 正直言って、式典など堅苦しいものへの参加は拒否したい叶湖であったが、堅苦しい式典であるからこそ、形だけでもそれに混ざることのできないような生徒を、裏生徒会として後々のためにマークしておくのも立派な仕事。







 中高一貫校でその連携が発揮される由ノ宮学園では、中等部からの内部生は部活や委員会をそのまま続けるものがほとんどである。中等部でその才能を発揮した生徒については高等部の1年で重要な役職につくことも少なくはない。

 そして稀に、その組織をまとめる立場に1年が就くこともあった。生徒会長・桐原黒依も、化学部部長・彩藤叶湖も、その例といえるだろう。





 そしてその立場を全うするため、黒依は先の入学式で総代兼生徒会長として、叶湖にすれば眠くなるような挨拶を朗々としていたし、叶湖も叶湖でサボることなく入学式に出席した。

 もっとも裏生徒会の仕事の1つ、とはいえ今までの武闘派と違い、情報戦を得意とする頭脳派の叶湖である。わざわざ入学式に出向かずとも、新入生の素行調査などは合格者が判明した時点で確認済み。

 その点でも出席の必要性も意欲も感じなかったがしかし、悪目立ちするのも避けたかったので、嫌々参加した式も漸く終わり、割り当てられた教室で席に着こうとしていたのだが。







「黒依くん、さっきの挨拶、すっごくよかったね。 私、聞いてて感動しちゃった」

「ありがとうございます、白居さん。僕はただ、先生方が一緒に考えてくださった挨拶を暗記したに過ぎないんですけどね……」

「でも、あれだけ堂々と大勢の前で発表できるのって、やっぱり凄いと思うな。生徒会長が黒依くんで良かったって、私、黒依くんの力になろうって、そう思ったのよ?」

 ふと、教室最前列の会話に気を取られ、足を止めてしまった。







 由ノ宮学園は内部生と外部生でクラスがわかれることはない。

 その原因としては、他大学への進学率でも有名ではあるが、基本は大学までのエスカレーター式であるため、後の受験勉強に備え、先行した授業が中等部では行われていないこと。

 そもそもが優秀な生徒には他大学受験が可能なレベルまで学力を引き上げられるよう、習熟度別のクラス分けが取り入れられていること。

 その中でも上位の成績を納め、且つ、理系の学部受験を希望する生徒については高等部入学の時点で、他のクラスに先行して授業を進める理系コースを選択できることの3つが主にあげられる。





 叶湖はそもそも、自身には進学の意思すらなく、ただ親がうるさいので大学には行くかもしれないな……程度の認識であるため、進学コースとなる理系のクラスへ入るわけがない。

 そんな叶湖の心中などは裏から手を回さずとも読めるだろう黒依が理系コースを選ぶはずはないのだが、1人。

 もともと、医学部受験を目指していた大里ゆとりだけは理系コースへ進み、叶湖とクラスを別にした。

 その所為で。今まで学年3位であった白居末明が文系コースでは次席となり、現状、最前列で黒依と隣り合ったことをいいことに、叶湖からすれば至極くだらない会話を始終行っている、というわけであった。





 相変わらず特対生としての授業料免除が懸っており、叶湖をストーキングするため高校をやめるわけにいかない黒依の、必死の勉強の成果を抜ける者が外部生にいないのはしょうがないとして……。





 そもそも前世では10に満たない年齢で一般人として生きる道から脱落し、勉強などほぼしていないハズの黒依であるので、前世で一応は大学受験までを経験した叶湖と同じ理由で好成績をキープしているわけではない。したがって、スタートラインを他の生徒とほぼ同じくしているにも関わらず、中等部での主席のキープには実際に、元よりの要領の良さの上に並々ならぬ努力もあるだろう、というのはさすがに叶湖でなくとも、前世を知っていれば誰にでも予想のつくことである。

 もっとも、この世界で黒依が前世の記憶持ちであることを知っているのは叶湖1人ではあるのだが。





 ともかく、黒依は天才ではなく、秀才であるのだが、テストなどの平均点は90点後半である。そもそものテスト問題が難しい由ノ宮では、平均80点ほどでAクラスに入れることになるので、黒依の成績は抜きんでていると言えるだろう。

 とはいえ、白居末明の平均は90を超えたところ、という感じだ。正直、外部生にもう少し頑張ってほしい……などというところまで考えて、首をふる。

 会話に気をとられた一瞬に浮かんだ感情について、説明をつけたくなくて。そんなくだらない意地を張っている自分にすら悪感情を持ってしまって。叶湖は教室の一番隅の席であるのをいいことに、僅かに眉を寄せた。







と。

「叶湖―――!」

 後ろから掛かった呼び声に、反射的に振りかえる。

 そして、振りかえったままの体勢で、すでに自分の真後ろにまで迫っていたその人物にぎゅ、と抱きしめられ、叶湖はわずかに目を見開いた。抱きつかれてはいるが、痛くはない。

「げふぅっ」

 まぁ、痛くないとはいえ、そのままの状態に甘んじる叶湖ではないので、的確にみぞおちをついて抱きついてきた相手を沈める。





 前かがみになって、お腹を押さえたままその場に座り込んでしまった彼に、ニッコリと微笑みかけた。

「おはようございます、篤。ところで、入学初日から、随分スキンシップ過多だとは思いません?」

 呼びかけられた声で判断していたが、叶湖に抱きついてきたのは宮木篤。年齢的には1つ年上の、しかし、クラスメートである。自分は入学生ではないので、入学式には出ない! といった宣言を前もってされていたため、ホームルームからの登校となる彼に、平然と少し遅めの朝の挨拶を投げかける。





「思いません! おはよ、叶湖。だってよ、やっと1年待って、ようやく叶湖と同学年! しかも見たかよ、クラス発表! 同じクラス! やったな、俺!」

 大声でまくし立てる篤に叶湖は僅かに苦笑しつつ、しかし1年、彼が勉強を頑張っていたことを知っているのでその様子をバカにしたりはしない。

 褒めて褒めて、とばかりに蹲ったまま叶湖を見上げる篤に、こちらはまた違った意味で分かりやすい犬のようだと内心で苦笑して、先ほどまで心中でくすぶっていた黒いもやもやを打ち消すように、目の前の大型犬の頭をくしゃりと撫でてやる。





 一瞬でその手は離れたものの、叶湖にしては天地がひっくり返るほどに珍しい御褒美であり、篤もそれを分かっているのか、一瞬目を丸くした後、とてもうれしそうに笑顔を零したその様子に、叶湖はまた、苦笑した。







 叶湖が中学で初めて篤と出会った頃の、中等部1の荒くれ者で、裏生徒会長としての威圧感漂う、孤高の狼を気取っていた雰囲気が嘘のようだ。キラキラと純粋に瞳を輝かせ、彼にしては珍しい、満面の笑顔を浮かべる篤に、子供がえりしたようではないか、と思わないでもない。

 とはいえ、彼の本質が荒くれ者でも純粋な子供でもなく、ずっと頭が切れ、敵に回すと厄介な策略家であると知っている叶湖は、しかし、彼女の下僕にでも舎弟にでもなると誓ってから、純粋に……か、どうかは下心の有無を疑わざるを得ないとはいえ、慕ってくる篤の姿もまた、彼の本質の1つだと思うようになっていた。







 それは、それだけの時間を篤と過ごしてきた、ということでもあるし、篤が叶湖には絶対その牙をむかないと、叶湖が理解しているからでもある。

 理解とは信頼を越えた絶対の認識であり、叶湖がそれを間違えたことはない。

 そうであるから、篤が立ちあがって一瞬、教室の最前列に向け、怒気とも冷気とも言えない、ともすれば殺気すらを含んだ鋭い視線を放ったことは見ないことにして、叶湖はようやく自分の席についたのであった。




読了ありがとうございました。



高校生篇、始動します!

くわしくは活動報告でまた書きますが、こんかいは恋愛中心に、普通に学園物っぽく、進めていくつもりです。

……普通、になればいいんですけれども。


そんなこんなで、今後とも、『わたせか』ををよろしくお願いします!

感想、ご意見は随時受付中です!

次話は……今日中にあげる予定です。

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