中学生篇⑥ 風邪
登場人物
彩藤叶湖:中学3年(15歳)
桐原黒依:上に同じ
彩藤 直:叶湖の兄。外科医。
彩藤和樹:叶湖の兄。大学4年
白居末明:生徒会副会長
宮木 篤:高等部化学部部長
叶湖が中学3年へ進級し、しばらくが経った。と、いうことは、宮木篤は中学を卒業した、ということでもある。が、習熟度によって分けられたクラスの人間はもちろん、叶湖の狭い交友関係で何が変わるわけでもない。
篤は同じ構内の高校に通っているわけであるし、クラス内には主席に桐原黒依、次席に大里ゆとりが着くのも変わらない。
あぁ……変わったと言えば、1つあったか。叶湖はクラスの最前列へ視線を向ける。由ノ宮学園は、クラスが習熟度別であるだけでなく、席順でも成績順であった。したがって、末席の叶湖は一番後ろの窓側……要するに、一番快適な席であるし、最前列には黒依とゆとりがいる。
「ねぇ、黒依くん。そういえば、次の生徒集会で教育実習の先生を紹介することになっていたけれど、高等部にいらしている教育実習の先生はどうすればいいかしら?」
席に座った途端、取り巻きに囲まれていた黒依に堂々と話しかける人間。彼女が近づけば、人波が自然と割れ、彼女は黒依の元へ自然と近づけることになる。
彼女の名前は白居末明。2年でAクラスへ上がり、そこから順調に優等生の道を歩み、現在はAクラス3位の学力と、生徒会副会長の肩書を持っている女であった。
そして、王子様、桐原黒依の横に並ぶことを周りから許されている、らしい、お姫様であった。
どうやら、実家はそこそこ名のある名家だとか、祖父は政治家だとか、そういう噂ではあるが、叶湖は特に興味もないので調べることもしていない。
否、意地で調べていないのであった。黒依に近づく女について根こそぎ調べるなど、嫉妬のようで、自分の矜持が許さなくて。
叶湖はしばらく無意識に教室の前の方に視線をやっていたが、不意に、視線でも感じたのか、黒依の隣に座ったゆとりが振り返った。
……もっとも、黒依は叶湖が視線をやった時点で気付いただろうが、振りむいたりはしない。
叶湖は意味ありげに微笑んだゆとりの表情を視界に入れると、ため息をつきたくなるのを堪えて立ち上がった。
「あ、おい、彩藤! どこへ行くんだ? ホームルーム始まるぞ!」
教室を出たところで、担任に出会ってしまった。
「気分が悪いので保健室へ行きます」
叶湖はそれだけいうと担任の返事も待たずにさっさと廊下を歩いていく。
「叶湖?」
「……和樹さん」
今日は厄日かと、叶湖は内心でため息をついた。階段を降りきったところで出会ったのは、次男の和樹であった。元々、父親への反抗心から医者になる気など皆無であった和樹は、しかしその血筋の為せる業か、根っからの理系人間で。とはいえ、奔放な和樹のこと、研究職などは向いていないだろうので普通に就職でもするのかと思っていれば、大学に入る前には教師を志し、その言葉通り、近場の、とはいえ名のある国立大学の教育学部へ進学した。
そうして今、何の因果か、叶湖の通う由ノ宮学園へ教育実習に来ていた。とはいえ、高校数学の担当である和樹と出会う確率は、中等部と高等部とで建物こそ同じでも、棟が分かれているので、そう高くはなかったのだが。
「お前、もう授業は始まってるはずだぜー?」
「気分が悪かったので保健室へ行こうと思いまして」
「気分……? 機嫌の間違いじゃね?」
担任と同じ返事を返す叶湖に、和樹は隠しもせずにため息を漏らし、ぼやく。
「気分も機嫌の内でしょう?」
叶湖は和樹の発言を認めるように、笑っただけだった。
「しかも、この先は化学部の部室だしなー。……ま、お前はやることはやる奴だから良いけどよ……。あんま、目をつけられんなよ? 面倒だぜ?」
「気をつけておきます」
これで、相手が長男の直であれば、一喝されて教室へ戻らされるのだろうが、そこは次男の和樹である。和樹は奔放な性格の通り、見た目も軽く、行動もまたその通り。とはいえ、実際のところ、真面目な兄と、妹への責任感、あとは無責任な親を反面教師として育ったおかげで、ものごとの最低ライン……やらなければならないことは、しっかりこなす人間であった。その点は、真面目な直と同じ血が流れているだけあると思える。
和樹にひらひらと手を振られ、叶湖は苦笑しつつ化学部部室……真の名を、裏生徒会執務室へと向かった。
「……ここは、中等部裏生徒会の執務室ですけれど?」
扉を開いて1言。叶湖はソファで寝そべる男の姿にため息をつく。
「よ、叶湖!」
中等部と高等部で同じく活動している部活は多い。文化系の部活であればほとんどがそうである。……のだが、真の姿で裏生徒会という役割を担う化学部だけは、中等部と高等部でほぼ、独立して活動を行い、また、部室もそれぞれの棟に1つずつ設置されていた。
ので、中等部を卒業した篤がその場所にいるのはおかしいハズ、ではあるのだが、彼が卒業して、ほぼ毎日の光景に、叶湖はもはや諦めににた感情を覚えていた。
と、いうのも。中学2年も終わりの事件で、叶湖の下につくことを決めた篤は、自分だけ上にいることはできない……というか、ただの感情論で嫌だ、と、高等部へ進学し、義務教育が終わった瞬間、さっそく、叶湖と同学年になるために全授業をボイコットし始めてしまったのだ。
そろそろ、出席日数が足りず、晴れて留年が決定するだろうと思われる。
ちなみに、Aクラスに在籍する叶湖と並ぶために、授業には出ていないくせに、必死で勉強し、テストだけはAクラスへ入れるような結果を残そうとしているのだから、その努力は涙ぐましいものもある……はずであるのだが、どうにも多すぎる下心が見え隠れする。
一応、先日行われた定期テストでは十分、Aクラス圏内の結果であった。授業に出ずともその結果を残せるなら、最初から勉強しろ、と何人の教師が涙ぐんだか知れない。
「お前もサボりか? 中等部だからよっぽどのことが無い限り大丈夫だろうが、留年すんなよ?」
お前がいうな、と思いながら叶湖はおざなりに頷いて見せる。
「……寝不足か?」
いつもの軽口なしに、執務机の座り心地の良い椅子に身を任せている叶湖に、篤ががばりと起き上がり、その顔を覗き込む。
「……まぁ」
「なーんか、最近、叶湖いらいらしてるしなー。……あんまり無理すんなよ?」
叶湖はバレていることに対して自分自身の中で機嫌を悪化させながら、片手をあげて応えると、そのまま机に突っ伏してしまう。
「おいおい、眠いなら、ソファ使えよ……。それか、保健室いくか? その体勢で寝るのは辛いだろーが」
「深く眠りたくないので結構です」
篤が叶湖に歩み寄りながら尋ねるが、叶湖は体勢をそのままに、それだけ言うと寝入る準備に入ってしまう。その様子に、篤は軽いため息をついて自分もソファへと戻った。
叶湖の様子が変わったのは、そろそろ昼休みになるというころだった。
いつもは2時間ほど休むと、面倒くさそうにしながらも授業に戻っていく叶湖が、未だ起きないので、それほど疲れているのなら、いっそ帰ってはどうかと、篤が勧めようと、立ち上がって叶湖の様子を見に近づく。
と。
「っ……ぅ、……」
叶湖がかすかに唸っているのが聞こえたのだ。
「叶湖?」
夢見でも悪いのかと、ゆり起こすために肩に手をかける。
「っ!? ……叶湖?」
その、体温の高さに驚いて、手を離してしまった。
「大丈夫か?」
「んーーーーー」
意識はあったのか、唸ったままで首を横にふる。
痛みが原因で泣きわめいているときはいつもの数十倍素直なことを知らない篤は、それでも、素直な叶湖にそれだけ一大事なのは分かったようで、とりあえず、抱き上げてソファへと運ぶ。
「叶湖……お前……っ」
と、抱き上げた拍子に、ぽろぽろと叶湖の瞳から流れ落ちた滴を見て、篤の中で危機感が一気に押し寄せた。
普段、強かで涙などとは縁遠い、しかし想いを寄せた女が泣いている場面を見れば、篤でなくとも焦るというもの。
「ちょっと待ってろ、今、保健医……は信用できねぇ、えっと、そうだ、実習生に兄貴がいたよな!? 呼んでくる!」
篤はそれだけ告げると、ぐったりそソファで横になったまま、ポロポロと泣いたままの叶湖を置いて、部屋を飛び出した。
「彩藤!」
奇しくも和樹が今まで授業を行っていたのは、篤のクラスであった。
「宮木、お前、終わった頃に来るとはいい度胸だな……」
和樹について教室にいた数学教師に睨まれるが、篤はそれに応えず、和樹に詰め寄る。
「彩藤、ちょっと来てくれ!」
「あ? えーっと、宮木だったか? なんだ?」
「お前、叶湖の兄貴だよな!? 叶湖がすっげー体調悪そうで……」
まさか叶湖に交友関係を聞いているわけのない和樹が、なぜ、自分が名指しで呼ばれているのか理解できずに首をかしげるが、まもなく、篤の言葉に顔色を変えた。
「分かった。……先生、悪いけど、午後の授業任せます!」
「は?! おい、ちょ、彩藤先生!?」
和樹はそれだけ教師に告げ、自分は篤を促し、廊下を走り去る。教師の返事など、待つ気もなかった。
「叶湖!」
裏生徒会執務室で、熱に火照った顔で、涙を流している叶湖を見て、和樹は慌てて駆け寄る。
「熱……風邪、か? 叶湖、痛むのは喉か?」
「……うぅ」
痛みを感じると、言葉通り、恥も外聞もなく泣きわめくことになる叶湖の『病気』を知っている和樹にすれば、声を出さずに涙だけ流している叶湖の様子を一見するだけで、どこが痛むのかは分かる。
和樹の言葉に、叶湖は軽く首肯するが、その瞬間、顔を歪めて頭を押さえた。
「彩藤! 叶湖は!?」
「あぁ……多分、ただの風邪のハズだ」
和樹はいいながら、携帯電話を操って、兄である直に連絡を取る。
「あ、兄貴? 叶湖が風邪で倒れた。…………あぁ、よく確認できてないが、喉と頭が痛いらしい。とりあえず、早急に鎮痛剤を入れる必要がありそうだ。今から連れていく…………分かってるよ……うん。じゃぁ」
パタン、とケータイを折り曲げながら、和樹は篤を振り返る。
「今から職員室戻って、かばんとキー持ってくるわ。お前……宮木だっけ。こいつ抱き上げられるなら、校舎の入り口まで連れて行ってくれ。車を回す。……あぁ、頭が痛いらしいから、あんま揺すらないようにな」
「わ、分かった」
和樹に言われたことに素直に頷いた篤を見て、和樹は部屋を飛び出す。が、そのまま職員室へは向かわず、階段を上った。
向かう場所は、中等部3年Aクラス。
「おい、黒依!」
教室のドアを開け放ち、開口1番自分を呼ぶ、しばらく聞いていなかった人物の声に、黒依はわずかに目を見開いて顔をあげた。
和樹はポケットから出したキーチェーンから、ガチャガチャと2本の鍵を取り外しながら、最後列、窓際の席へ向かい、かばんを手にとる。
「! 叶湖さんが、何か……?」
その行動に、黒依が和樹に詰め寄った。
「風邪でぶっ倒れた。……今から病院送ってくるわ。ただの風邪だが、痛みがあるらしい。痛みどめを入れながら、治るまで様子見になる。……しばらくは入院だな、ありゃ……」
「叶湖さんが……風邪」
黒依が呆然と呟く。叶湖が自分の体調に人の数十倍、気を張っているのは知っていた。なにしろ、叶湖の身体では、予防接種すら相当の痛みをうったえるのだ。
黒依が知っている中で、前世を合わせても、今まで叶湖が体調を崩したことは皆無であった。それなのに。
叶湖が最近、精神的に追い詰められていることはしっていた。しかし、まさか黒依は、最小限まで関わりを断っている自分が、その原因の一端であることなど知るよしもないし、何もできないと、不甲斐ない自分に勝手に憤っていたのであるが。
まさか、精神の不安定が叶湖の身体に病を呼び入れたのだろうか。だとしたら、なぜ、自分はこれほどまでに何の役にも立てないのかと、黒依は手を握りしめる。
「あぁ、んな反省は後でやってくれるか」
と、黒依の心を見透かしたかのように和樹が告げた。ため息をつきながら、2本の鍵を黒依に差し出す。
「と、いうわけで、叶湖は入院だ。兄貴は自分の仕事があるし、自然、俺が付き添う形になる。俺もしばらく家に帰れない。……というわけで、お前、叶湖の着替えと生活用品、病院に届けろ」
「な!?」
和樹の言葉に驚いたのは黒依だった。
「そんな、何で僕が……?」
「今言っただろうが、聞いてなかったのか」
「いえ、でも、僕は……きっと、僕が届けたのでは、叶湖さんが怒ってしまう」
黒依の言葉に和樹が顔をゆがめる。
「消去法だ。仕方がねぇだろーが。俺は今から病院だってんだよ! 早く受け取れ!」
和樹に怒鳴られ、無理矢理鍵を押し付けられて、黒依は咄嗟にそれを受け取ってしまう。
「いいか、お前が来るんだぞ。香里さんの手を煩わせんなよ」
黒依はその言葉に、僅かにため息をついて、2本の鍵をポケットへとしまい込む。
「すみません、白居さん、放課後の役員会、欠席します」
黒依はそれだけいうと、自分のカバンを手にとり、さっさと出て行った和樹の後を追って自分も教室を出る。
教室中の注目の的であった2人の出て行った後の教室では、今の今まで、目立った会話すらしたことのなかった、クラス主席とクラス末席の関係性に、蜂の巣をつついたような喧騒が広がっていた。
「末明? ……末明、どうしたの?」
「え? あ、ううん。なんでもないの」
たった1人、黒依の消えた後を視線で追い、手をきつく握りしめていた生徒を除いて……。
「おぉ、黒依……ご苦労さん」
黒依が病院についたとき、和樹と直はナースステーション付近のラウンジで立ち話をしていた。
「これで、いいですか?」
黒依は言いつつ、抱えていた荷物を示す。叶湖の私室は、黒依が出入りしなくなった頃と、なんら遜色ないままであった。クローゼットの中の服のサイズが変わっていた以外は、本当にあの頃のままではないだろうか。
元々、インテリアには凝ってあったし、子供だからと、ぬいぐるみが飾られていたわけでもないし。小学校低学年の部屋とは思えないほど、あっさりと纏まっていた部屋であったと思う。
「あぁ、今なら叶湖寝てるからよ、部屋に置いといてやってくれ」
「……分かりました」
「和樹が無茶を言って悪かったな、黒依……。学校、早退したんだろ? すまん」
和樹の言葉に、嘆息交じりに頷いて身を翻そうとした黒依に、直から声がかかる。
「あぁ……いえ。大丈夫ですよ」
確かに、実習中とはいえ教師のすることではなかったが、叶湖の身支度の準備など、例え兄であっても他の男に任せたくはないと思うし……。なにより、叶湖の部屋には知らずに触ると危ないものもいくつかある。……とはいえ、隠れ家よりはマシであるが。
実際、黒依はその隠れ家からも、いくつか叶湖の私物を持ってきているので、やはり、黒依が一番の適役であったことに変わりはないのだろう。
叶湖の隠れ家の存在を知っているのはこの世で黒依1人であるし、だいたい、叶湖は厳重なロック……とはいえ、彼女は自らの職業上、電子ロックにそれほど信頼を置いていないので、普通のキーロックではあるが、それを幾重にもして部屋を守っている。
そしてその鍵は叶湖以外持たないのだから、その時点で、叶湖の隠れ家に侵入できる人間など、黒依1人の可能性しか残らないだろう。
和樹は部屋番号などを教えていなかったが、この病院でとりあえず1番いい部屋だろうことは分かっていたので、黒依の足は迷いなく進む。
あらかじめ寝ている、と聞いていたのもあるし、部屋の外から感じられた気配が、寝ている時のソレであったので、黒依は特に何の遠慮も気負いもなく、部屋の扉を開けた。
「叶湖さん……」
果たして、和樹の言葉通り、叶湖は眠っていた。
倒れた、と聞いていたので心配していたが、眠っている叶湖にそれほどやつれた様子がないのを見てとって、少しばかり安心する。
が、まだ若干、痛みが残るのか、少し苦しそうに眠っている叶湖に、黒依は胸が締め付けられるようだった。
あまり日に当たらない所為で、白いままの腕には点滴が繋がっている。さ、と視線で確認すれば、痛みどめの名前が書いてあった。
とはいえ、たかが風邪にそこまで強い痛みどめは入れられなかったのか、その効果は弱いもので。
黒依は叶湖の額に浮かんだ汗の粒を、指の腹でぬぐった。
「ん……くろ……え」
瞬間、黒依の身体は停止した。
黒依が叶湖の声を聞き間違えるハズはない。彼女が確かに、眠ったままで黒依の名前を呼んだのを聞いたのだ。
黒依の膝が崩れおちそうになる。
「叶湖さん……」
黒依の手が、叶湖の柔らかい髪を撫で、頬へ滑る。
叶湖が痛みを感じると泣き喚かずにはいられないことは、叶湖の病気を知るものであれば皆、知っていた。
黒依が前世で初めて叶湖と出会った時、黒依は警戒心から叶湖をきつく拘束し、泣かせてしまったのを思い出す。その頃はただ、泣き叫ぶだけであった叶湖の泣き方は、いつしか、黒依の名を呼んで泣くように変わっていった。
まだ、自分の名を呼んでくれるのだろうか、黒依はそんな期待を込めて叶湖を見つめる。
叶湖が黒依を名を呼んで泣く、その瞬間、黒依は彼女の一番弱い部分で自分が頼りにされていることの実感がわくのだ。彼女の側にいることを許されているような、そんな気持ちになるのである。
叶湖の本心は、あまりに覆い隠され過ぎていて、黒依にはもはや想像もつかない。
彼女は優しく、そして残酷であるが故に、自らに正直に生きていたハズであるのに、生まれ変わってからか、黒依は彼女の心が確実に、嘘に覆い隠されていくのが見えていた。
彼女が自分を要らないと言ったことが、嘘であるのだろうか。そうだとしたなら、どうして彼女はそんな嘘をついたのか……。
思考に沈みそうになって、黒依はゆるゆると首を振る。
違う、そんなことはもう、どうでもいいのだ。
黒依の手がゆっくりと、叶湖の頬を撫でる。
理由なんてものは後回しでいい。今は……そう。痛みに浮かされた叶湖の一番弱い部分が未だ、黒依を呼ぶのであれば。黒依は、彼女の虚勢に騙されてはいけない。彼女から離れるわけにはいかない。
「……叶湖さん、……愛しています」
黒依の告白は、誰も耳に入れることなく、広い部屋に浮かんで消える。
結局黒依は和樹が病室に戻ってくるまで、半ば呆然と、叶湖を見下ろしたままでいた。
読了ありがとうございました!
ここから黒依が本格的に始動……するといいです、はい。
と、いうわけで、中学生篇も残り1話。
早めに更新しちゃいますので、生温かく見守ってやってくださいませ。
それでは、ご意見ご感想は随時受付中です!