中学生篇④ 裏Ⅱ
登場人物
彩藤叶湖:中学2年(14歳)
大里ゆとり:叶湖の友人。学年次席
「よく言います。アナタをイジメるクラスメートはもちろん、この私ですら、今に至ってまだ、だまし続けようとしているくせに」
叶湖の言葉に今までの表情が嘘のようにポカン、と間抜けに驚いた顔を浮かべるゆとり。
「アナタの性格がそのままではないことくらい、もう分かっていますよ。イジメた相手の弱みをこれでもか、と集めて将来までつぶしてやろうと画策しているアナタに、これ以上の強かさなんて不必要でしょう?」
くすくすと、以前機嫌よさそうに笑い続ける叶湖にゆとりはわずかの間の後、は、と短く息をついた。
「あーぁ。なーんだ。……ま、叶湖だもんなー。むしろ、今までだませてると思ってた僕自身が甘かった、か」
参った、とでもいうように両手を挙げてヒラヒラと振るゆとりに、叶湖は面白いものでも見たように、一層、機嫌良さそうに笑みを輝かせる。
「いつから気付いてたの?」
「最初です。アナタが小学校の図書室で私に声をかけて来た時から」
叶湖の言葉にえー、とゆとりが不服の声を漏らす。
「とはいえ、あの時は漠然とした予感、でしたけれど」
「何で?」
「……私と自ら関係を持とうとするなんて、まともな神経の持ち主では絶対に思いもよらないこと、なんですよ。まぁ、当時、勉強がうまくいってないのは本当のことだったようですけれど。あの頭の回転で裏が無い、と言われる方が胡散臭い、でしょう?」
確信を持ったのはその辺りですね、という叶湖の言葉に、もはやゆとりは言葉もない。
正直、ゆとりについては最初はお互い利用しあうつもりだけであったので、裏があることは分かっていても、その人格について深いところまで、叶湖持ち前の情報力で調べる、などということはしなかった。
ので、叶湖にしては、泳がせた方だと思っている。
「それにしても、どうして今回、私を巻き込もうとしたんです?」
「あれ? 気付いてない?」
首をかしげるゆとりに、叶湖はわずかに視線を彷徨わせる。
「そうですね、候補としては……そろそろ自分の欲しかったネタは集められたので、矛先を私に移して、私に直接的な被害を与えることで、絶対的な力で相手をつぶそうとした、とか?」
「自分がきっかけさえあれば、苛められるだろうことは分かってるんだ」
「当たり障りのない関係を気付いていますし。地味で目立ちませんし。クラス内では万年ドベですから」
叶湖が何のためらいもなく告げるのに、ゆとりは首をかしげる。
「もしかして、わざと?」
当たり障りのない性格を装い、できる限り目立たずいるのは、小学生の頃の叶湖も同じであったので、今更ゆとりが疑問を抱くはずはない。わざとなのは分かり切ったことだ。
叶湖は残る1つの可能性。その答えを濁すように綺麗に微笑んだ。その微笑みに、叶湖の答えを見出したゆとりは、はぁ、とため息をつきつつ頭をかかえる。
「そりゃ、叶うハズがないでしょ……」
テストで100点をとるよりも、狙った点数ぴったりをとる方が難しいのは考えるまでもなく明らかだ。しかも、ドベを狙うと言うことは、Aクラスの下から2番目と、Bクラス主席のその間を狙って、ということであるから、さらに難易度があがる。
それをすでに1年とすこし、1度もミスすることなく成功させている叶湖に、ゆとりは完敗を認めた。
「それで、私の予想は正解ですか?」
「そうだね。それもある。……けど、1番じゃない。……叶湖、黒依と喧嘩したんでしょ?」
喧嘩というには壮絶で、しかし、間違ってはいない表現に、叶湖は小さく喉を鳴らして頷く。
「えぇ、まぁ」
小学校のべったり一緒にいた時代を知っている相手であるのだから、隠す必要もない。
「叶湖に話しかけるずっと前から、いつの間にか、叶湖ばっかり目が追いかけてて。でもそのたびに一緒に視界に入る黒依を、いつも邪魔だなって、思ってた。だから、叶湖と黒依が一緒に居なくなった時、チャンスだって思ったんだ」
そういえば、ゆとりが話しかけてきたのは、黒依を放逐していくらも間を置かない時だったと思いだす。
「中学校まで黒依が着いてきたのは予想外だったけど、運よく叶湖とも同じ学校で、同じクラスだったし。黒依とは仲直りする気がないみたいだし。だからね。そろそろアタックしてもいい頃じゃないかな、て思ってさ。バレてたのは予想外だったけど、僕がまともじゃないから叶湖が話をしてくれたんだとしたら、どっちがいいのか分からないね」
「そうですね」
叶湖は遠回りの告白をしっかり理解していながら、しかし興味はないとばかりにどうでもいい相槌をうつ。
「分かってるよ。叶湖が僕のことどうでもいいことくらい。だから、叶湖をイジメさせるのはやめた。僕の手でなんとかするから、裏生徒会はもうしばらく手を出さないでね」
「……言われずとも」
自己完結をし、さっさと次に話を向けるゆとりに、面白いものを見る目を向けながら、叶湖は1つ頷く。裏生徒会など、学園の7不思議的なものであるのだが、ゆとりが知っていることに特に驚きはない。
「僕、迷ってたけど、やっぱり風紀に入るよ。……そしたら、裏生徒会とももう少し繋がるしね。……結局、叶湖は今、どうでもよくない奴なんかいないんでしょ? だったら、僕も別にいいよ。叶湖の前では猫かぶらなくて良くなったわけだし。……覚悟しておいてね、きょーちゃん」
普段の無垢な猫かぶりの笑顔で、ゆとり以外には呼ばないあだ名で叶湖を呼ぶ。叶湖はそれに苦笑をしながら、特に文句は言わなかった。
どうでもよくない奴。そう、言われた時。1人だけ、そうは言い切れない陰が頭に浮かびあがって、叶湖を僅かに不機嫌にさせたことは、結局ゆとりでも気付けなかった。
ゆとりが風紀委員に入り、表立っては特に争いも、学校からの懲罰もなく、しかし、確実に消え去ったゆとりへの苛めに、叶湖が少しだけゆとりへの興味をふくらましたのは、それから1か月もしないうちのことだった。
読了ありがとうございました!
お久しぶりです。10日?ほど、期間があいてしまい、申し訳ありませんでした。
来週一杯、テストが続きますので、更新状態はボロボロになります。
が、それが終わっての夏休み、人生の夏休み真っ只中の作者がガツガツ更新していきますので、生ぬるく見守って下されば幸いです。
これで、中途半端ではありますが、当初予定をしていたフラグ3本、立て終わりましたので、黒依ルートに戻っていければなぁ、と思います。
次話は、待ちに待ったカッコいい叶湖さんと、黒依の活躍回(に、なればいいなぁ……)です、できる限り、1週間以内の更新目指していきますっ!
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それでは。