可哀想な田中
朝一。
静かな教室で「可哀想な象」を読んでしんみりしているころん。
すぐに登校時間のピークを迎え、続々と他の子どもたちが教室に入ってきた。
ころんはそっと「可哀想な象」を閉じる。
「ふう…ぞう…可哀想」
戦争のせいで上野動物園の象が殺処分されてしまう物語。
そんなしんみりころんの心と裏腹に、教室の後方の扉が「ばーーん!!」と開いたと思ったら「俺!今週水曜日テレビ局にドリフの大爆笑観に行くんだ!!」と大声で言いながら田中が入ってきた。
みんなが一斉に田中に「凄い!」「いいなぁ!」などと言ってそばによる。
「水曜日学校はどうするの?」
「半日休むんだ!お母さんが連絡帳に書いてくれたから先生に渡す!」
「どうして行けるの?」
「お父さんのお仕事の知り合いの人が…」
わいわいする田中を羨ましく思うころん。
「ずるい」
ぐぬぬ…と、可哀想な象の事を忘れて少し離れたところから田中を恨めしく見ていた。
そうして水曜日の午後、田中は母親が迎えに来て早退して帰って行った。
「くそう…田中め」
じわじわと湧き上がる黒い思い。
「明日きたらいっぱい聞いてやる!」と質問攻めにするつもりでいた。
次の日。田中はお休みした。
そして次の日に登校してきた田中に、ふんぬ!と鼻息を荒くしてドリフの話を聞くために近寄った。
「田中!ドリフ行ったの?」
田中はどこかしょんぼりしていた。
「ううん…」
「え?だって水曜日ドリフ行くために早退したじゃん」
「…俺…あの日熱出ちゃって…行けなかったんだ…」
代わりに従兄弟が行ったんだって。
「ふーん。残念だったね」
すぐに田中から離れ「可哀想な象」を返却するために図書室へ向かう。
手にした本を見ながら
「可哀想な田中…」
ころんはそう呟いてから、ニヤリと悪い顔で笑った。
★この物語はフィクションです!!
可哀想な象。大人になったコロンは、あらすじだけで泣けるので、読めないです。