バッティングオーク
食卓で適当に相槌を打ってやり過ごす。
もう何が何やらよう分からんのよ。
徹夜すると。
「やつらは異世界からの──」
「あ、うん。そう」
悲しいことに通学路でも話を続けられた。
寝かせてくれ。
❖ ◆ ❖ ◆ ❖
ヤカラ少女と阿吽の呼吸で別れたその日の深夜。
俺は今日も寝苦しくて散歩を始めようと──
「おー、すっげ」
扉を開けるとそこは巨体でした。ジャイアントオークの入場!
軽快な声色とは裏腹に全力のUターンで玄関へ駈け込んで目的のブツを探す。流石に焦るわ。お、あった。
「お待たせ。待った?」
「ヴぉぅ……」
これぞ大人の友、金属バット。カズコからは異世界っぽい怪物がガンガン出てきてもおかしくないとの話を一方的にされた(のを無言でやり過ごした)のだが、いきなりこれは聞いてない。
強力異世界外国人助っ人の登場。
当然のように2m超え。極端な筋肉質。
肌は緑に近く浮かび上がる血管の色は濃紺。
右手には相撲取りの右足くらいの太さの棍棒。
普段の自転車乗りにヘルメットを被っていないのが仇となったか。防具がない。良い子は突然オークやオーガに遭遇した時のためにメット着用の義務に応えてくれよな。
「……」
敵の無言のスイング!
無言で出していい威力じゃねえ! アスファルトが凹んだぞ。
ブォン……じゃないんだよ。肩甲骨がやばい盛り上がりしてる。
「市町村土木事務所を舐めてんじゃねえ!」
当然のように俺もフルスイング!
脊椎がガラ空き!
金属バットの心地いい音が響く。
流石の文明の利器。
よろめく巨体に再度連撃。顔、顔、顔!
人型で生まれてきた不運を嘆くんだな。
頭部タコ殴りが弱点だとはっきり分かんだね。
顔を抑えてどうしたどうした。もっと堂々としないと。
じゃないと折角の筋肉が飾りになっちゃうだろ。
このオーク、意外に臆病。
攻撃受けて1秒硬直したらもう死だろ。
❖ ◆ ❖ ◆ ❖
1時間ほど殴る蹴る等の教育的暴行を続けたところ、行動が変化。痛覚無視して全身を躍動させるようになった。
でも今更やられてもなあ。初手でやるべきだろ。
脳がバグったのか小刻みな痙攣を起こしている。
可愛そうに。
>To: カズコ
>棍棒持った緑の豚見つけた
>今から〆るから血抜きして
片手でチャットを打ちながら今度は脛を狙っていく。
おら! おら! 弁慶の泣き所ダイレクト!
動きが鈍いぞ?? 良かったな人間じゃなくて。
社会はこんなことで休暇を認めるほど甘くないぞ。
人間様を甘く見るなよ。
体勢を崩したところで頭の位置がストライクゾーン!
バッターフルスイング!
おい、取り落とすな。
おまえがちゃんと棍棒持ってないとただの拷問だろうが。
握れない? ほら、こう持つんだよ。世話が焼ける。
❖ ◆ ❖ ◆ ❖
ハイテンションのまま迎えた薄明の早朝。
息を切らせてやってきたカズコに全てを任せて俺は登校開始。
唖然とした表情の彼女を横目に無言のサムズアップ。
フォーム乱れたから野球部と打ち合いしようかな。