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頭の冒険

「・・オルビス?」

その言葉が気になってスマホで調べる。

「世界、球、循環・・?」




そもそも彼の世界の言葉がこちらの世界の言葉と同じ意味を成すのかどうかもわからない。

オルビスと聞こえたけれど、もしかしたら違う言葉かも。それに人の名前という可能性だって。

そんな風にごちゃごちゃと考えながら違う世界にいる彼を見つめると、腕で隠した瞳から、青く光る涙が一筋流れた。


「泣いてるの?」


今はもう私の声は届いてない。たぶん。このままずっと彼を眺めていたい気がするけど、そろそろ身支度をして大学に行かないと。


朝はすぐには食べられない体質なので、身支度をしておにぎりを持って出る。

その前に、と寝転がったままの彼を覗き込む。


薄い青色をした涙の跡が残ったまま寝ている。

聞こえていないのはわかっているけど、なんとなく「いってきます」と声をかけたくなり小さく呟いた。

着替える服を音を立てないように気をつけながら揃え、部屋を出てバスルームで着替え、化粧を軽くして家を出る。


異世界があろうとなかろうと、日々は平常運転なのだなと不思議に思いながら。



□  □


‐Side 玲央‐


さっきまでいた高層ビルに囲まれた景色ではなく、近くに森だか林だかわからない木立と、踏みつぶされて潰れているが緑の広い草地、素朴だけど堅牢な雰囲気の平屋の建物、明かりがないからさっきまでいた街より薄暗い雰囲気。


いや、これは何もないから薄暗く感じるだけか?


周りをじっくり確かめて、ふと違和感に気づく。

エスコート風に手を繋いでいたアイビーがいない。

慌てて空間の切れ目みたいなものがないか探すも、戻ることはなく10分程度で諦めた。


無理だろ、これ。


俺は移動できたのに、アイビーちゃんはできないのか。

まあ、帰れたらしょーちゃんに尋ねてみるか。

さくっと心の折り合いをつけると、前回迷い込んだ場所だということがわかる。


「風の匂いが違うんだな」


こっちの風は木々や草の香り、どこか懐かしいような何かが混ざった匂い。

こっちの世界も朝早いのか。てか同じ時間軸?

だとしたらこんな早くから人はいないか。

あっちで不審な目を向けられないことを重視したから、こっちの世界の都合までは考えてなかったな。


んじゃできることをすっか。


スマホが落っこちてないかを確認しながら、平屋の建物のほうへと歩いていく。

草は潰れているから割と探しやすい。

こんな広い土地でスマホを探しても意味ないかもしれないが、することもないしな。

見たことあるような草もあるし、見たことないような草もある。


「つうか、草をじっくり見るの久々だな」


日々に追われ、雑草など意識の外だ。小さい頃は草をむしって遊んだりしてたのにな。

四葉のクローバーも探したし、草を石で叩いて色がつくのも楽しかった。


ふと、匂いを嗅いでみたくなり、足元の草を引っこ抜く。


細長い葉のそれは結構な力で引きちぎらないと取れず、自分が妙に乱暴者になったような気がした。

まあでも引っこ抜いちゃったしな。しっかり嗅がせてもらおう。

今このあたりに漂う草の香りと、手にしたこれは同じ匂いだった。


「そりゃそうか」


当たり前のことに気づいたのが妙に楽しくて少し笑う。

草は地面に戻し、手に残った匂いを嗅ぎながらまた平屋に向かって歩く。

こちら側に小さい窓が2つあるけれど、電気もついていないししっかり閉まっている。


「入り口は・・っと」


大きめの一軒家ぐらいのサイズなので、扉を確認するためにぐるっと一周した。


意外と扉は多く、大きな扉がひとつと窓がある面には扉はなく、残り2面に小さい扉がそれぞれひとつずつ。大きな扉は色がまだ浅いような感じで、この扉だけ新品みたいに見える。

向こうのほうに城っぽい雰囲気の建物があるけど、あっちに行って城の兵隊とかに捕まえられたらやばいよな。ここでシューバを待つのが1番安全だろう。

扉を開けてみたいが、泥棒扱いされるかな。


あ!トイレ確保大事。


異世界のトイレ事情ってどんな感じなんだろう。

いっつも思ってたんだよ、現代人がわざわざトイレ事情が古い世界に行って、そんな簡単に馴染めるもんなの?って。俺、田舎のばーちゃん家のトイレも怖いしなんとなく嫌なんだけど。


・・・野ションとか無理。


俺って意外と潔癖症だったんだな。

人の気配は無いし、扉が開くかどうか確認するぐらいなら泥棒認定されないよな?

恐る恐る扉に触れて、あれこれ動かしてみたものの全く開け方がわからない。

鍵穴すらなくて、これはギミックで開くようになってるか、魔法がある世界なのか?と思い始めた。


魔法!


そういうの、ワクワクするんだけど。

俺も使えたりしないかなー。なんかああいうのってイメージすりゃできるチートだろう?

火は危ないよな。水なら大丈夫か?

手からチョロチョロと流れるイメージを思い浮かべてみた。


「なんも起こらねえ・・」


まあそりゃそうか。

だけどこんな厨二病な感じ、ひっさびさじゃね?

できないにしろなんか楽しいじゃん。こんなこと、向こうの世界でやろうと思わないから。


「水がダメなら次は土か?」


土が盛り上がるイメージを思い浮かべてみる。


「ふっ。なんも起こらねえぜ」


気分が乗ってきた。


「水、土、ときたらやっぱ風だよな」


風が吹くイメージを思い浮かべる。


そよそよ。


「おっ?」


さらにイメージ。


そよそよ。


「元々こんぐらいの風が吹いてたか」


ぴゅ〜


「お?いいねー」


さらにイメージを続けて、風がピタリと止んだ。


「くっ」


こんなバカバカしいことをやってる自分に笑えてきた。


「ふっ・・・あはは」


最高にくだらなくて最高に面白いじゃないか。なんかこういう気持ち、働き始めてから忘れちゃってたな。小学生のときみたいに、自分が最強のヒーローになったみたいな気分は、いつの間にか消えていった。だってそうだろ?周りの大人が全部否定してくるんだから。


最高に強くてかっこいいヒーローになって遊んでたら

「ケンカしちゃダメ」


ドッチボールで最後まで残ったら

「ドッチボールの選手になるわけじゃないんだし」


ギターを弾いてみたいとおねだりしたら

「音楽は一握りの人しか食べていけないからやるだけ無駄」

ってな。


泳ぎたくもないのにスイミングスクールには行かされ、勉強より追いかけっこしてたかったのに塾に行って、良い大学に行かないとという謎の焦燥感を抱きながら受験をして、良い企業に入って人から羨まれつつ、なんの充実感もない。


俺より動画撮って投稿してるやつのほうがよほど稼いで楽しそうじゃん。

あ、いかん。人生振り返ってる場合じゃない。

えーっと、バカついでにいいこと思いついた。


この扉、風で開けちゃおうぜ。


「最高にダサいよな、向こうの世界じゃ」


こんなことしてたら頭の心配されて、少し離れた距離で心配した雰囲気の視線をもらうだけだ。


「よし!」


風がシュルシュルと扉を締めている何かに絡んで、するっと外れるイメージを・・


「お前」


「ちょっと待ってくれよ、今楽しいんだよ」


「なにやってんだ?」


「イメトレ」


「イメトレってなんだ」


「そうだな・・頭の冒険だよ」


「・・・そうか」


「よし!きっと開いたぜ」


「・・・」


「よう、シューバ」


「よくわかったな、こっちを一度も振り返ってないのに」


「会話が通じるのって、お前ぐらいだし」


「まあ、そうか」


「あ、アイビーちゃんって知ってる?」


「アイビーちゃん?」

GWはNFW [No Freedom week]でございます。更新滞りますm(__)m

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