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瞬間移動できる人

作品タイトル変えました

「オッケー」

「早い。さすが若者。しょうちゃんびっくりじゃ」



「ただ、会社あるし時間は限られてるけどな」


「そこはちょちょいっと動かしておく」


「しょーちゃんクール!」


「わしは今、褒められておるのかの?」


「褒めてる」


「ならオッケーじゃ」


「んじゃ明日の早朝にでも、俺が移動したポイントでアイビーちゃん連れて迷い込めるかやってみる?」


「ふむ・・・」


老人とレオッチと呼ばれている人が何かをずっと話しているけれど、私は全然わからないので、地図を眺める。これは本当にこの世界の街なのだろうか。恐ろしいほどに色んなもので埋め尽くされているけれど。今、自分がいるのはどこなのだろう。先ほどこの人達が指していたところはなんとなく私がいた場所だとわかる。だとしたら、さっき彼が指していたもうひとつの場所は彼がなんらかの意味を持つ場所?


シューバ様に会った場所だろうか。だとしたら、私の世界の位置と重なって・・いる?


頭の中に私が移動した場所、訓練場、図書館などを思い浮かべてみるけれど、あまりにもごちゃごちゃしていて重ねることができない。せめて方角だけでも・・


ふと地図から意識が逸れると、彼らが会話をしていないことに気がついた。

顔を上げると、老人と目が合う。


私を見ているのに私の向こうを見られているような違和感。それと同時に私の耳がざわざわとした音を拾い、圧力がかかったような、現実の音が遠くなるような感覚が襲ってきた。


「しょうちゃん?」


「ふむ」


「なんだよ」


「長く生きてるとわからなくても良いことがわかることもあるし、若者は老人が思いつくことを超えていくのも知っておる」


「うん?」


「まあ、やってみようの玲央っち」


「お、おう」


さきほどのすべてを見通すような老人の目と、私の異変はなんだったのか全くわからないまま。

二人の間で何か結論が出たようで、その後また絵を使って説明してくれた。


□ □


−Side 環−


う、うわあ・・長いまつ毛。ほんの少しだけ空いた口は、気が緩んでいるような印象で子供みたい。

って、これまさか実際に隣にいるの?


透けて見えていたあちらの世界だったのに、彼は妙にくっきりと見えているし息づかいまで感じ取れる。

恐る恐る手を伸ばして頬を人差し指でそっとつついてみた。


感触はない。けれど、彼の瞼がピクリと動いた。


「ん?」


私の手の方には感触などない。彼のほうにだって感触などあるはずがない。・・よね?

こんな奇妙な状況に「こうはならないだろう」なんていう根拠のない確信めいたものなどあるわけがないことにも気がついて、少し混乱したのかもしれない。思考より先に体が動いてしまった。


ほくろやひげがほとんどない頬を左の手のひらで包む。


やはり感触はないのに、なぜか温度は伝わってきたような気がして、その温度を求めるように手のひらを押し付ける。


・・押し付ける?


なぜ私の手は彼の中に入っていかないの?

動揺した瞬間、彼が私の手を掴んだ。


え。


□  □


Side ‐玲央‐


昨日乗せてもらった車で、早朝4時に施設を出て、昨日と同じ場所にやってきた。


「ふむ。ここは確かに緩んでおる」


「それって、異世界への入り口があるみたいなこと?」


「そうじゃのう・・次元が違えば重なり合うこともあるが、今回のはどうじゃろうの」


「ほら、逢魔が刻だっけ?なんかそういうのあるじゃん。ああいう感じかな」


「なにやら色々と誤解がある気がするが、まあ玲央っちには古臭い概念を説明せんほうがいい気がするの」


「カビ臭いのはいらねーな」


「カビ臭いか。確かにのう」


ふぉっふぉっと笑う老人を見て、困ったような顔をしているアイビーに


「じゃあ説明したとおり、やってみる」


と話しかけて手を握ったらビクッとして逃げるような素振りをしたので、どうしたんだ?と問うと


「いきなり手を掴まれることに慣れていないので・・」


と言われた。


あー・・貴族的なあれ?異世界ってそういうのが不便だな。まあ、不便さを楽しむ世界みたいなもんだろうしな。それでも、相手の文化を尊重することも大切なことだ。一旦繋いだ手を離し、手のひらを上に向けて差し出す。


「お手をとっていただけますか?レディアイビー」


少し鼻の下辺りがムズムズしたけど頑張った。

おずおずと俺の手に白くて小さい手を乗せてくれたので


「んじゃしょーちゃん、もしあっちに行ってもどって来れないときは会社の休み連絡とか頼むな」


「オッケーじゃ」


アイビーと手で繋がったまま、交差点をウロウロと歩いてみる。


なんにも起こらない。


それでももう少しやってみないとと交差点を渡った先でもウロウロ。


「しょーちゃん、ダメかな?」


「どうじゃろの」


「しょーちゃんにもわかんないのかよ」


んじゃ諦めるか。今日は、会社休めるかと期待したのに。残念に思いながら横断歩道を戻り始めて三歩ぐらいで景色が変わった。



□  □


‐Side 環‐


掴まれた手の感触は強くて痛いぐらい。もしかして私、異世界に移動した?!

思考が追いつかないまま彼を見ると、目を開けていて薄いブルーの瞳が光っているように見えた。


・・でも、私を見ていない?


焦点が少しズレているような感覚。


「オルビス」


私の目よりほんの少し下に反れた目線で彼が呟いた。


「オルビス?」


馴染みのある言葉ではあるけれど、そもそもの意味など知らない。

私が呟いた瞬間、掴まれていた手がすり抜ける感覚があり、感触が無くなる。


景色が私の部屋へと戻った。


だけど、彼はそこにいる。


もう一度手を伸ばす勇気がなく、ただ呆然と彼を見ていると、寝転んだままため息をついて腕で瞳を隠してしまう。


「・・オルビス?」


その言葉が気になってスマホで調べる。


「世界、球、循環・・?」


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