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静かな山の上

第5話です


「で、スマホはあちら側に残してきたみたいなんですが」


「なるほどね」


細かくメモを取っていたが、俺への事情聴取はそこで終わり、連絡先や電話番号・・は今は使えないのでアドレスを書いて解放された。


・・あっけなさすぎじゃないか?


犯罪者として扱われなかったことに安堵しつつ、じゃあ俺が体験したことは何だったのかという疑問は残ったまま。


釈然としないができることも思い浮かばず帰宅した。


□  □


‐Side アイビー‐


人が多い区間はどこまでも続いている。私の手を軽く握っている人は、するすると人の間を通り抜けて、まるで魔法のようだと思った。


黒い箱のような乗り物に乗せられ、透明の水みたいな容器を渡される。


水のようなのに何かに包まれたそれは、暗い車内でもキラキラと輝いて見え、いつまでも眺めていたい気がしてぼんやりしていたら、そっと膝の辺りをトントンと叩かれた。

そんなふうに脚を触られるなど、今まで生きてきて初めてで、体がビクリと強張る。

手の主に焦点を合わせると、私に渡されたものと同じ容器を持っていて、蓋らしきものを開けて飲んで見せた。


「それは水で飲んでも安心だから」


何かを言ってから私の容器を奪い、蓋を回して外してまた渡される。

恐る恐る口をつけてみると、何も味がしない。きっと水なのだろう。


「どのくらいあそこにいたのでしょうね?連絡が入ったのは1時間前ぐらいだけど、きっともっと長くいたのよね」


何を言われているのかさっぱりわからない。


「その服装もきっと着替えないと辛いわ」


反応することもできず、その人の顔と口を見て飲み方を真似しながら少しずつ飲む。あまり上品に飲むことができない。


「ちょっと連絡を入れておくわ」


そういって何かを取り出してから1人で喋り続けている。


言葉が通じないというのはこんなにも心細くなるのか。命綱のように思ってついて来たけれど、また1人この世界に取り残されたような孤独感が込み上げてきた。取り残されたようなではなく、明らかにこの世界に1人飛び込んでしまったのだと思い直して、外の景色を眺める。


何もかもが私のいた世界とは違う。夢かしらと思ってみても、こんなにも知らないことを自分の頭が想像できる気がしないから、夢ではないと思える。


外の明かりがどんどん少なくなり、どこかの山の上に登っている感じがする。

ぐるぐると回るような動きをする乗り物に少し気分が悪くなってきた。


「顔色が悪い?車に酔ったのかしら。あと5分ほどで着くから我慢できる?」


少し心配そうな顔をしている人にできる返事もない。

そろそろ限界かもしれないと思ったとき、乗り物が止まる。


「とりあえず、着替えをして少し休んでから食事をしましょう」


何かを言われて建物に入る。

入ってすぐの大きなホールのようなところに1人の老人が待っていた。


「迷い込んでしまったのう」


何かを言ってから、私の目を覗き込んでくる。


「ふむ」


どこか遠くを見るような目になり、


「そうじゃな」


何か納得したような雰囲気でぽんぽんと私の腕を優しく叩いて去っていった。


「こっちよ」


何か言われて指を指した方向へ歩いていく人の後ろについて行く。

こじんまりとした部屋に入り、身ぶり手ぶりでどうやら着替えをするのだとわかった。


「コルセットをしているなら、外すの手伝うわ?」


胸の辺りと背中を指差して、何かを言われて、コルセットのことだとわかる。だけど今日の私は1人で外せる簡易的なタイプのものをつけているので断った。


「じゃあ1時間ほどしたらまたくるから鍵を閉めておいて」


と、時計と扉の鍵のかけ方を教えてくれた。

部屋に1人になってから、ほんの少しぼんやりしていたけれど、身体のこわばりがひどいので、服を着替えることにする。


一応、用意された下着や服の着方を教わったものの、本当にこれで合っているのか不安でならない。

こんな心細い小さな下着で本当に大丈夫なのだろうか。

とはいえ、着ていた服よりは体が楽で、悪かった気分がかなりマシになった。

小さめの寝台があり、着ていた服をまとめてから横になる。


「これからどうなるの?」


今のところ、この世界に来てしまったこと以外、ひどい目には合っていない。


体が疲れていて、眠りに引っ張られそうになるのに、神経が休まらず眠りに入ることはないまま、いつの間にか示された時間になっていたようでノックの音が聞こえた。



□  □  


‐ Side 玲央‐


とりあえず服を脱いで、部屋着代わりのTシャツと楽なスウェットを履いて、コンビニで買ってきた弁当を温めながら、テレビをつける。


夕方のニュース番組は終わっていて、データ放送に切り替えてから電子レンジに弁当を取りに行き、ニュースを確認しつつ食事をする。


お気に入りの弁当だけど、今日はあんまり美味しくない。


「俺のスマホ、元気かな」


相棒とも言える利器を無くしたのに、未だに紛失の連絡はしていない。パケホだし、シューバたちが使いこなせるとも思えないし、電池がそんなに持たない上に充電が不可なのだ。


それに、もう一度同じところに行って向こうに行けるか試してみたい。それまではスマホレンタルでも利用すっかな。スマホがない状態で仕事をすれば、あれこれ出先で余計な仕事を回されなくて済むかもという打算と期待もあるけど、会社のスマホは無事なんだよなあ。


もしまたあの世界に行けるなら、あいつらが喜ぶようなもんを持っていきたいけど・・・

驚くようなもんってなんだろうな。リストアップしてリュックに入れるか。

今度の休みにそれ持ってもう一度・・


ピンポン


来客みたいだ。


こんな時間に?

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