繋がり始める点と点
彼女の好みが炸裂しているかのような服装のシューバを、細かい指示とともに撮影していくひなた。
「目線こっち」
「ちょっと軽蔑してるかのような目をしてみて」
「いいね!」
何フェチなんだ。橘さんの好みを把握してるひなたにも驚く。
ダメだ、スルーできない。
「なあ、橘さんって何フェチなわけ?」
「何フェチっていうか、コスプレイヤーなんだよ」
「え!意外」
あんなにきっちりした感じで個性を消したような雰囲気の人が?
「すごい人気で、めちゃくちゃかっこいい」
「見たことあるの?」
「うん、手伝ったこともある」
「ああ、それで」
「何が?」
「なんか好みを熟知してる感じがしたから」
「うーん・・なんとなく好みの雰囲気とかならわかってる」
「へえ」
ひなたが話渋ってるような気がしてそれ以上訊ねるのはやめることにした。
□ □
‐Side 魔法使い‐
どこかに引っ張られていく意識で、脳に重力みたいなものがかかる。
少しそれが辛い。でもその先に行きたい。
狭いトンネルをくぐり抜けるような感覚の後、ふっと頭が軽くなった。
真っ暗なのに明るい空間にいる。
浮かんでいるのか沈んでいるのかもわからない。
まるで魔法塔のような混乱を感じる。
しばらく周りを見ていたら、真下に星がたくさんきらめき始めた。
「星?」
星にしては多すぎる。
さらに目を凝らしてみると、どうも異世界の街の灯りのように見えてきた。
では、それを見おろしているということは、空に浮かんでいるということか?
いや、そもそもこれは意識の世界だ。
なぜここに引っ張られたのだろう。
「こちらの世界を見下ろす気分はいかがかの?」
誰かの声が聞こえてきた。
□ □
‐side 環‐
どこかアンティーク調なのに、ポップな色使いでまるで絵本の中にいるような店内をチョコを選びながら移動していく。どれも美味しそうだし可愛いけれど、やっぱり高い。
たった二粒しか入ってないけれど千円もするチョコが気になり、列に並ぶ。
丁寧な接客のため、1人1人にかかる時間が長い。
待っているのは暇なので、店の内装に集中していて異世界が重なっているのか全く気にしていなかったので、少し意識をずらしてみた。
え?
異世界はある。草地のようなものが見えた。それはいい。
この張り巡らされた蜘蛛の巣のようなものは一体何。
蜘蛛の巣というより・・・レーザー?
なんだかとてもカラフルなのだ。
私の前に並んでいる人たちに異変はない。触れたからといって害があるようなものではない?
でも・・
重世界で検索して見つけた人がここを紹介していて・・
なんとなく気になってここにきて・・
そしたら蜘蛛の巣みたいなものが張り巡らされていて
怖い。
いつもの私ならすぐに店を出て、後ろに糸がついてきていないか確認して、もしあるなら切れるかどうか試したりして、何事もなかったかのようにいつも通り暮らしていく。
でも今の私は、世界が重なった理由を説明できるような人に会えるなら会いたくて、
私の部屋から消えてしまった彼にまた会いたくて、
この糸が何かに繋がるのなら、しっかり掴んでおきたい。
レジを待つ間に気持ちは固まった。
店を出ようとしたら
扉にかなり網目の細かいレーザーが張り巡らされていることに気づく。
それを掴んでぐいっと引っ張った。
レーザーっぽいから掴めないかと思ったけど、しっかり掴めた。
そしたら穴があいた。
「・・あ」
やり過ぎた?
固まっていると
「あのう」
と後ろから声をかけられる。
店から出たいのに私が邪魔をしていたみたい。ごめんなさいと謝って慌てて店を出た。
かなりの不審人物に見えただろうな。
さっき開けた穴はどうなったのか確認したかったけど、もう一度入店したら不審人物確定になっちゃうかな・・。少し店を離れて、外から穴を確認できないか見てみる。
穴自体は見えなかったけれど、店全体に張り巡らされたレーザーは確認できた。
さあ、どうなるのかな。
落ち着かない気持ちを抑えつつ、帰るために駅へ向かった。
久しぶりの自由を満喫。爆発的に幸せ。




