女子の目を通した世界
第4話です
「あなたは迷い子かしら?」
「?」
相変わらず何を言われているのかさっぱりわからない。
「異世界から迷い込んだんじゃない?何かしゃべってみてくれる?」
口を開けて、手で何か広げるような身ぶりをする男性。いえ、女性?性別がよくわからない。
何か話せということだろうか?
なんとなくそんな気がしたので
「話してみなさいと言っているの?」と尋ねたら
「あ、やっぱりそうなのね」
何か納得したような様子になり、カバンをゴソゴソと漁って紙とペンを取り出して何か書きだした。
「えーっとね」
頭は〇で体は線の人間らしきものをペンで指してから自分を指した。
たぶん、この絵の人間は自分だと言いたいのだろう。
もう一人の絵の人間が私らしく、手を繋がれている。
何かに乗り、どこかに連れて行くと言われているようだ。
どうしよう。ここにいても辛いだけだけど、ついて行ったらもっと辛いかもしれない。
そんな不安が滲んでいたのか、彼女が私の手を取って優しく包んだ。
「大丈夫」
何を言われたのかわからないけれど、覗き込んだ彼女の瞳は透き通っている気がして、信じてみようと思った。
□ □
‐Side 環‐
「はあ、お腹いっぱい」
カリカリ揚げたてのコロッケを食べてお腹に幸せと脂肪の素が詰まっている。
どんなに食べても太らない体が欲しいと常日頃思うけれど、現実は食べたらその分のカロリーを消費しない限り太るわけで。後でウォーキングに行くか、無理なら明日運動しよう。
なんてことをダラダラとベッドに寝転んで考えられるのは、イケメンくんが今いないから。
これさあ、私のベッドの位置に異世界のイケメンくんちのトイレとかあったらコントだよね。
いくら異世界とはいえ、人のトイレ事情など見たくはないし、ましてや自分の聖域「心地よいベッド」が毎回汚されてる気分で辛いだろう。
でも、少年漫画とかならありそうだよねその設定。
いきなり美少女(胸はボリューミーで常にミニスカートがマスト)と同居することになって、自分のベッドが彼女のお風呂だったりする展開。
男子が女子に望むものと、女子が男子に望むものの差が激しすぎないかとよく思う。
男子が女子向けの異世界溺愛ものを読んで、女子は少年漫画を読めばいいんじゃないだろうか。
どちらにとってもそこそこつまらない読み物になってしまうかもしれないけれど。
あー・・眠たくなってきた。
歩きに行こうと思ってたのに・・
お風呂の順番は遅いから、少しだけ・・
だって今日は変なものばかり見たし。
明日になったらまた何か変わっているのかな・・
□ □
‐Side 玲央‐
「ちょっと交番に来てもらおうか」
「う・・・はい」
警官が何かを拾って持った。
俺の荷物だ。持っていたわけじゃないんだが、なぜかある。
助かった。タブレットは仕事に必要だし、財布も異世界で悪用されることは無い気がするが無くしたくない。
だけど・・スマホはない。ついでに傘も見当たらない。傘は・・まあいいか。
あいつらが持ってたもんな。
「身なりを整えて」
そう指示されて自分を確認すると、シャツのボタンはあと2つ残っていて、ズボンのチャックとボタン、ベルトは・・ないのか・・まあギリギリ変質者のような、そうでもないような状態だった。
きちんとしてから、軽く背中を押されて歩く。
拘束するほど怪しまれてはいないのか?
駅の建物の中にある交番へと連れてこられた。なんだか久しぶりに交番に入ったなあなんて思う。
小さい頃、10円を拾って届けに来て以来だ。いいことしたと思っていたのに、10円程度じゃお巡りさんの手を煩わせるだけで誰も幸せにならないと思うようになり、それ以来全く来たことがない。
建物が古いのか昔の交番の印象とさほど差は感じないが、なんだか奥の方の取り調べ室みたいな部屋に入れられて、お茶を出された。
え、交番って茶出るの?
ドラマとかじゃ見たことある気がするけど、今や色んな方面からコンプラで突かれるご時世だ。お茶をだしたださないでさえトラブルの元になる気がするが。
なんて思いながらも、さっきまで異世界で喋っていたせいもあるのか喉は渇いているので有り難く飲ませてもらった。
椅子を軋ませて、俺の前に警官が座る。
「何がどうなってあんな状況だったのか説明してもらえる?」
随分と優しい物言いの警官だ。
「頭がおかしいと思われるかもしれない答えと、常識的な範疇の答えと、俺はどちらを答えればいいんでしょう」
「・・そうだねえ」
左上のほうを見て、何か真剣に考えている様子を見ながら、お茶をもうひと口飲む。
「この世界、もっというとこの都市に少々異変が起きているのかもしれない。それを確かめるために君を連れてきたといえば、こちらが知りたいほうの答えを言いやすくなるかな?」
・・なるほど。
「では、最初に少しだけ言い訳をさせてもらうと、俺は犯罪に関わったこともないし、露出したいという願望もない比較的まともであろう人格と生活を営んでいる普通のサラリーマンです。その上で、今から話すことは・・夢の中のことかもしれないし、少し自作小説でも書いてみようかと思っての想像力かもしれないとさせてください」
「そうだね、それがいいね」
かなり話がわかる感じだよな、この人。なんとなく腹を括れたので
「あの交差点、コスプレかと思うような男性が立っていたんです」
できるだけ正直に打ち明けた。




