妄想に混ざる歪な気持ち
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‐Side 環‐
あれこれ悩みながら電車に乗っていると、あっという間に降りる駅に着く。
これ以上考えたって答えは出ない。色々と検索してみたけれど、いわゆる心霊関連の情報は見るのも嫌だ。肌触りのザラザラした重いものに絡め取られるような気分になるから。
小さい頃から当たり前のように色んなものを見てきて思うことは、怖いのは人間の思考かもしれないということ。
人は流れる雲に龍を見たいと思えば見て、川の側には河童がいるだろうと思って見れば、単に薄暗い中で水浴びしている人がいても河童だと思う生き物だと思う。
同じ雲を見ても、龍が見たい、龍はいる、龍を見られた私はきっと特別なはず!と思う人と、
雲だ。細長くなってるから風がきついんだな。そして水分が多い。なんて思う人もいる。
だからこそ河童っぽいものを見たときは「あ、そういえば昨日は妖怪特集のテレビを見たなあ」と思い、宇宙人っぽい人を見たときは「昨日都市伝説のサイトのぞいちゃったからなあ」と思うのだ。そして1番いいのは見たことを忘れる。特別じゃない。少し変わった視界を持っているだけ。
何かいるかもしれないし、いないかもしれない。地球に住まわせてもらってる仲間かな、ぐらいがちょうどいい。
菊地くんの足に巻きついたのは骨に見えたけれど、もしかしたら地球外生命体なのかもしれない。私の頭の中で骨に変換された可能性がある。
心霊ですらわからないのに地球外生命体に「すみません、ちょっとビジュアル的に心配しちゃうのでなんとかなりませんかね?」なんていう説得が通じるのか、日本酒ぶっかけられるのが苦手なのか、わかるわけがない。
「よし、考えるのやめ」
口の中で小さく呟いてから早歩きで帰る。ごちゃごちゃ考え出すと身体も頭も心も重たくなっていく気がするから。慣れたもので一旦停止するのは得意かもしれない。他人から見れば思考や行動が唐突な人間に見えているかもしれないけれど。
彼は私を待っているのかな?
うん、そっちを考えたほうがなんだか前向きだ。
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‐Side 玲央‐
「それがわからないんだよ」
「は?」
「女性なのかな?それとも何か重要人物なのかな・・」
「女性かどうかすらわからないのか」
「なんかこう・・・鍵がかかってるような・・秘密が隠してあるドアの鍵が見つからなくて、その鍵を探してるのか?って感じ」
「いやでもお前「人物を探してる」って言ってなかったか?」
「うん。玲央っちの記憶のほとんどが必死に探し回って、流浪の旅をしてるのような感じの映像が多くて・・最後に気が狂ってたり・・する」
「そんなにか」
「死に物狂いで探している人生が多い」
「ひなたの記憶にも?」
「共通してるものもあるけど、俺を形成する部分でもやっぱり」
「・・・でもさ」
「うん?」
「俺、今、探してない」焦燥感もないし、日々を生きているだけだ。
「・・俺は探してる」
「え?」
「ここ数年、ずっと世界が重なる入り口を探し歩いてた」
「人じゃなくて入り口?」
「うん。ある日、突然『入り口を探さないと』って思ったんだ。強烈な焦燥感と一緒に。昔に見たことがあるそれを探さないとって」
「焦燥感?」
「じっとしていられなかった。はやくしないと何かが消えそうな、見失ってしまうような焦り」
「そんなに・・か」
「俺の大切なもの全てがあちら側にあるような、そんな気がするときもあるし、日本の裏側の美しい景色をみていると、何を探しているのかわからなくなるときもあったのに、朝起きたらまた探さないといけない気がするんだ」
「それってさ、今ある異世界なのかな」
「そっちに行けたらわかるのかもしれないな」
「わかるといいな」
「玲央っちにとっては他人事なんだな」
「・・なんもわかんねーし」
「・・」
「探して見つけた先に幸せってあるのかな」
「生きている目的になっているなら、見つけた先にはなんらかの感動があって欲しいかも」
「できれば、探す過程の人生も楽しんでいけるといいな」
「確かに」
「達成感を味わうためにわざわざ不幸を選ぶなんて、極上のラーメンを味わうために何年もラーメンを我慢するようなもんだろ?」
「玲央っちってさ」
「うん」
「いいこと言ってるようでそうでもないよね」
「そうかもな」
確かに。そもそも良いこと言おうとなんて思ってないしな。
「じゃあサウナなんてどう?」
「何が?!」
「ほら、サウナって熱いの我慢するじゃん。整うために苦難を味わうんだろ?」
「その例えのほうがおっさんの半裸が思い浮かんで浪漫に欠けるわ!」
「今のは良いことを言おうとして狙ったのに」
「・・人には向き不向きがある」
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‐Side 環‐
ラーメンの匂いが染み付いている気がして、先にお風呂に入れるか家族に尋ねたら、悠斗が
「気に入った?」ときいてきた。
これは私が気に入ったかどうかじゃなく、莉々華が気に入ったのかを訊いてるなと思い、
「うん、莉々華がめっちゃ気に入ってたよ」
と答えた。嬉しそうな笑顔で「だろう?美味いよな」って言うから、ほんの少し姉としての良心が痛む。
今度ラーメン屋巡りを企画してあげるよ、たぶん。
なんて思いつつ、お風呂でさっぱり油の匂いを流して、今日は洗濯物にあったTシャツとショートパンツを着た。部屋に取りに入るのがなんとなく嫌だったから。
そーっと入ると彼の姿はなかったので、髪と肌の手入れを済ませてから手紙がないか探してみた。何もない。ベッドに寝転んであのSNSをチェック。こちらも何もなし。
どこかほっとして、気が付いたら寝てしまっていた。
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‐side 魔法使い‐
散々調べたあとに塔に戻ってきた。そのあとから、頭の中で見たことのない景色がチラチラと見え始めた。おそらくあちらの世界の景色なのだろうとは思う。不思議なのは、魔法陣を展開しなくてもダイレクトに入ってくること。
そびえ立つような建物、行き交う人々。こんなの、想像してみろと言われても無理な景色だ。
魔法陣の中で見るのならわかる。誰が何をどうしたら頭の中に入ってくるんだ。
おまけに小さい爺さんがたまに踊りながら出てくる。
自分が故障した気分だ。
夏休み期間がやっと終わる。カクヨムに短編投稿しました。




