異世界コミュ強者
第3話です
□ □
‐Side 玲央‐
「・・・」
「武器は持っていないようだな」
先ほどから1枚ずつ脱がされて確認された。
今の俺はTシャツとボクサーパンツのみだ。
なんだこれ。かっこ悪すぎる。
・・まさかと思うけど、さっきのコイツみたいに街の交差点で下着姿晒してない・・よな?
そんなことになってたら逮捕されかねない。
持っていたリュックも奪われ、こいつの部下らしき筋骨隆々の男2人が中身を確認している。
スマホ二つにタブレット、予備のハンカチはタオル素材、折りたたみ傘にモバイルバッテリー、USBケーブル、歯ブラシセット、水分抜けてきてる汗拭きシート、ポケットティッシュ、財布。あと、ラムネ。
財布からコインや札を取り出して確認しているが、ほとんど現金を持ち歩かないので三千円ぐらいしか入っていないのがなんとなく恥ずかしい。
「これはなんだ」
そう言って持ってこられたのが俺のスマホ。
まあ、説明するよりはやいか。
そう思って画面をタッチして指紋認証でロック解錠した。
「!!」
すげーな。無言なのにこう・・びっくりマークが見えるようなリアクション。
日本じゃコントとかでしかお目にかかれないレベルなんじゃないか。
都市伝説とかだと、宇宙人に連れ去られた話とか、古代に宇宙人がやってきた話とかあるけど、あれってこういうことだったんじゃないか?
原理なんかわからないけど、わからないことは全部宇宙ってことにして、人類は縄文時代に最新機器とかに触れてたりして。
なんてどうでもいいことを考えながら、スマホに群がる奴らを見てる。
「もう一度訊く。これはなんだ」
俺を拘束するわけでもなく、だけどこいつの目を盗んで逃げるなんてできないだろうと思う程度の威圧みたいなものと距離で話しかけられた。
「これは電話ってやつで、遠くにいる人間と話せたり、ネットで情報を探したり、音楽を聴いたり、ゲームをしたり、仕事したりできる機械」
そう答えた。
「?」
なんだ。俺はこの世界の言葉を話せるようになったわけじゃないのか。
困ったな。絵でも描いて説明するか?
なんて思ってたら、ソイツが右手で頭を押さえた。
「なんだ?どうした?」
「うぅ」
少し辛そうに顔を顰めても俺から目を離すことはない。
一瞬目がぐるんと裏側に回ったように見えた。
いやまあ、そんなことはありえないんだけど。そんな風に見えただけで。
「大丈夫か?」
一応声をかけてみる。どうせ通じないけど。
「あ、ああ大丈夫だ」
ん?
んん?
「頭、痛いのか?」
「ああ、一瞬だけだったが」
・・・
「言葉わかるのか?」
「どうやらそのようだ」
「シューバ様?」
スマホをいじっている1人がソイツの名前っぽいものを呼んだ。
「所持品の検査は終わったか?」
「はい!武器かどうかも分からないものばかりですが、1番怪しいのはこれかと」
そう言って折りたたみ傘をシューバとやらに手渡した。
「これはなんだ」
また訊かれたので、
「傘だ」と答えた。
「これが?」
「それが」
渡してくれたら開けてみるんだけど、今それを許してくれそうではないよな。
なので、ジェスチャー付きで
「カバーを外してから・・そう、それを下にひっぱって。それから、こう伸ばして」
なんとか通じて、傘が出来上がった。
「すごい!」
そう言って部下の2人が仕組みを見極めたいのか畳んだり開いたりを始めた。
あー・・なんか壊れそう。それ、割といい値段のやつなんだけど。
「お前、一体どこから来た?」
「俺は日本っていう国にさっきまでいた。あんたもその日本って国に入り込んでたけど?」
「は?」
「わかんねーよな。俺もわかんねーよ」
ふと気になり
「その機械、スマホって言うんだけど武器じゃないしちょっと返してくれない?説明するより見せたほうが早いと思うんだ」
「これか?」
そう言って手渡してくれたので、電波を見る。
立ってる!アンテナがギリギリ立っている!
「いけるか!?」
ブラウザを立ち上げて「最新 水着」で検索してから画像に切り替えた。
それを見せる
「は!?」
よおし、驚いてる!なんか楽しいぞ。こんな状況だけどな。
シューバの声に驚いて部下が傘を置いて集まってきた。
「うおーーー!!」
「すげーーーー!」
喜んでいただけて何よりだよ、うん。
夢中の今ならシャツぐらい着ても許されるだろうか。
スクロールに夢中になる部下に苦笑しているシューバとやらに、
「心もとないからシャツとズボンだけ履いてもいいか?」
と尋ねると、少し迷ってから
「構わない」と許可をくれた。
リュックの中身と服が置いてあるところに数歩移動して、まずはスラックスを履き、シャツを羽織る。
ボタンをとめていると、ふと空気が変わった気がして周りを伺うと
交差点だった。
□ □
‐Side アイビー‐
「え」
頭も心も現実を把握できない。
ただ立ち尽くしている私の周りを、たくさんの人が通り過ぎて行く。
時々私をじろじろと見つめる人がいるけれど、話しかけられることもない。
「☆□~!・△✕◎σ」
小さい女の子の声が聞こえた。私を見て何か言っているようだけど、言葉は分からない。
私の後ろを指差しているような気がしたので、振り返ってみると。大きなガラス張りの中に、ドレスや時計や景色がある。
その中のドレスは日頃馴染んでいる形のもので、私の周りを歩いて通り過ぎる人間の服装とは違う。
引き寄せられるようにガラスに近づいてじっくり眺めていると、何人かの人に声をかけられたけれど、何を言っているのか分からないので「わからないわ」と答えたら、なんだか申し訳なさそうに去っていった。
そのまま途方にくれていると段々と足も腰も痛くなってくる。
椅子もないのに直接地面に座るなどできない。だけどもう、涙が出そうになるほど足も腰も痛い。
「誰か・・助けて」
どのくらいそうしていたのだろう。周りが明るくて時間がわからない。
もう限界。令嬢としての矜持で立っていたけれど、気力が果てる。
ペタンと地面に座り込む。
情けなくて涙が溢れだす。
呆然としていたら、誰かが近づいてきた。
「あなたは迷い子かしら?」
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