翻訳機能
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‐Side 環‐
声をかけてみたくてたまらないけれど、まずはちゃんと大学に行こう。何が起こるかわからない現状で、普段通りの生活のありがたさを噛み締める。
家を出て、電車に乗ってからスマホを確認すると、莉々華から「今日おいでよ」とメッセージがきていた。
この前断ったし、このままだと異世界の彼が気になって仕方がないので「行く」と返信しておく。
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‐Side ひなた‐
「ん?」
ふと目をやった方向に何か黒いものが見える。俺が見る世界の中で、黒いものはかなり珍しい。
しかもゆらゆらと陽炎のように揺れる不確かなものではなく、硬質なしっかりとした黒。
爺は気づいてるのかな。
気づいてるんだろうな・・。
これは爺が掃除をしたからこそ見えるようになった可能性すらある。くっそ!悔しい。悔しいの連続だ。だけど・・ちゃんと尋ねないと。
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‐Side 玲央‐
着いた。無駄に腹筋と口の周りの筋肉が疲れたぜ。
もう振り返って大丈夫だよな?
馬から下ろしてもらってから魔法使いを見ると、浮力を徐々に緩めるように降りてきた。
「なあ、それどういう原理?」
「魔法の仕組みが知りたいそうだ」
「地にある力に反発する力を集めて、馬に紐づけてついて行っているだけだ」
「・・・磁石の反発みたいなもんか?馬に紐づけてってのがよくわからんけど。なんか意外と科学っぽい?」
「科学がどういうものか説明ができないな」
「大気中にある色んなものを目的別にちゃんと使う技術って感じ」
「目に見えないものを扱うのは同じなのに、レオの国では魔法扱いされていないのが不思議だな」
「・・・確かに」
よく考えてみればワイヤレス充電なんてまさに魔法なんじゃないのか?原理がわかっていて科学的に組み立てられたものでも、機械音痴の母親に言わせれば「理解できない、脳が拒否する」らしいしな。
「さあ、そろそろ証人も来るだろう」
「よし!とにかくやってみようぜ」
「これを持っていて欲しい」
そう言って渡されたのは透明度の高い石。いわゆる魔石ってやつか?
「なにこれ」
「紐」
「紐には見えないんだが」
「これのどこが紐なんだと言っている」
「繋がる媒体といえばわかるか?」
「まあわかるけど、今明らかにおかしな通訳したよな?シューバ」
「同じような意味だろう」
「んーーー?」
そうなんだけど、そういうことも違和感あるよな。文字が読めて、聞き取りもできるのに話せないのはなんでなんだ。慣れみたいなものか?だけどシューバが言うことは頭の中で勝手に変換されてる感じに受け取っているから、音で認識してない気がするんだよなあ。
「なあシューバ」
「?」
「俺の話す言葉って、音で聞いてる?」
「音?」
「俺は日本語で喋っているんだけど、シューバは日本語で聞こえて意味がわかっているのか、脳で勝手にこの国の言葉に変換されているのか、どっち?」
「・・・音だな。意味はなんとなくわかる感じで、言語として変わった発音だなと思いながら聞いてる」
「ええっ!?」
「そんなに驚くことか?お前だってそうだろう?」
「いやそれが・・俺は音としてあんまり認識できてないかもしれない」
「どういうことだ?」
「あれに近いんだけど説明してわかるのかな・・映画に字幕が出てる感じというより、吹き替えになっちゃってる感じなんだけど」
「エイガ?フキカエ?」
「あーー!やっぱりちゃんと音で聞いてるんだな。俺の場合は字幕も吹き替えも両方出てくるみたいな感じに近い」
「・・・よくわからんが」
「まあ、いいやとりあえず試してみよう」
「どうするんだ?」
遠くから走ってエロ三兄弟が近づいてきた。
「向こうで試すときはちょっとうろうろと歩いてたんだ」
「歩くだけか」
「あ、手を繋ごう」
「・・・」
「シューバ♡」
「だからなんでそうなるんだ」
「えー・・俺にとっての理想の彼女像みたいな?」
「それをなんで俺にやるんだ」
「ノリです」
「ノリ?」
「えーっと・・悪ふざけです」
「悪って、良くないってことだろう」
「うーん・・悪ってついててもそんなに悪いものでもないことも多々あるような?」
「そうか」
「そもそも、良かれと思ってやったことが誰かの害になることもあるだろうし、逆もあるんだから悪とか善とかで分ける必要もなくない?」
「なくないとはあるのかないのかどっちだ」
「ええーー・・そこは伝わらないの?」
「世界有数の繊細で難しい言語なんだろう?」
「まあそうなんだけどさ」
「何を話しているのか説明してくれないか」
ちょっと怒ってるか?魔法使いさん。
「あーー・・証人も来たし、そろそろ始めるって話してた」
「・・お前」
「ちょっとシューバの気持ちがわかったかも」
「そろそろ始める。ただここらを歩いてみるだけらしい」
「・・・」
納得いかない感じだ。わかるう。
「さ、みんな消えたら後の対処宜しくね。数時間後もしくは数日で戻ってくるとは思う」
「本当に大丈夫なのか」
「いやあまあ、なんとかなるっしょ」
「「「いってらっしゃい!」」」
「お土産お願いします」
おう、任せとけ兄弟。




