予想外の魔法塔
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‐Side 玲央‐
「ここ?」
「そうだ」
高台のような開けた丘に、随分とボロい建物があり、とても塔と呼べるようなものには見えない。
「本当にここ?」
「信じられないのか?」
「・・認識阻害とかそういう術でもかかってんの?」
「ほう、レオの世界だとそういうことになるのか」
「うん?・・あっちだともっとデジタルな技術でやるとは思うけど」
「あの機械みたいな?」
「あ、スマホみたいなこと・・うん、そうだな」
「まあ入ってみればわかるだろ」
そう言って、ボロい扉の板に手の平を当てた。
カチャ
小さい音がして鍵が開いた気がする。
「え?指紋認証?それともタッチキー?」
「手を登録してある」
「・・・」
それって魔法というより、技術?なんて真剣に考える。
シューバに続いて入ると、これと言って何もない。ソファもないし生活している様子もない。ただ、埃っぽさは全くなくて、ある程度手がかけられていることはわかる。
スタスタと奥の部屋の前でまた扉に手を触れてから開錠音。
繰り返すこと5回。
「さすがに多すぎない?」
「こんなものだろう」
5回も繰り返したせいで今自分がどの辺りにいるのかよくわからなくなった。
扉を開けて少し歩いたらまた扉で、右へ左へ前へと進むのでまるで迷路だ。
次に開けたドアから入った空間には何も無く、シューバがしゃがんで床に手を触れた。
「か、隠し階段!!」
するりと開いた床の下にから階段が出てきた。
「塔って・・地下に塔?」
「いや・・・見るほうがはやいな」
サクサク降りていくシューバに続いて恐る恐る降りると、地下の湿った空気と土の匂いを感じる。20段ぐらい降りただろうか、そこで急に目眩を覚えるほどに空気が変わった。
「う、うわあ」
「お、ここでわかるのか」
「うん?」
「扉を開ける前にわかる奴は少ない」
「何が?」
ニヤリと笑って扉を開け、誘うように首を傾ける。
扉の向こうにまた扉。またこれかと思ったが、シューバは手をかざさずただ普通に開けた。
「うわあ!!」
現れた空間は驚きの近未来。
いや、近未来っぽいだけか?
どこもかしこも白いんだ。広がった空間には白い天井、白い壁、細かく整然とした通路、まるでLEDで照らしているかのような明るさ。これは宇宙船だと言われたほうが納得できる気がする。
「俺も何度来てもちょっと驚く」
「なんだここ・・」
この異世界は、よくある中世ヨーロッパ的な雰囲気が漂っていたから思い込みも手伝っているが、だからってこんな急に無機質な世界観を晒されても・・頭がびっくりして少し固まってしまった。
どこにも曲がらずまっすぐ進むと、大きなロビーのような空間に出た。そこから放射状に伸びている通路。真ん中に譜面台のようなデスクがあり、そこにシューバが何かを書き込む。
途端にまた強い目眩が起きて、崩れ落ちるようにしゃがみ込む。
「どうした!」
シューバもかがみ込んで俺の腕を掴むが、目の奥がチクチクと針で刺されるように痛い。
「うう、痛い」
しばらくすると痛みが引いてきたのがわかる。シューバは待っているようだ。
「目が痛い」
「目?」
「うん。でもじわじわ痛みは引いてる。これたぶん」
「あれか」
まだ少し痛いけれど、動けないほどではないしはやく試してみたいので立ち上がってシューバか書いた文字を
「シューバ・ザフィーロ」
読んだ。なんなんだろうな。なんで言語に関してダウンロードみたいな現象がおきるんだろうか。
「後でレオの世界の文字を見せてくれ」
「・・だろうな」
「ああ」
そんなことをしていたら、1人の男が現れた。
「遅いから迎えにきた」
どこか青白さを感じる白い肌に、燃えるように赤い瞳の男。
「君、めちゃくちゃ紐がついてるね」
俺に向かって言うから、どこにそんなものがあるんだと自分を見下ろす。
「紐なんてないけど」
「なるほど。こちらの言葉は理解できるが、話すことはできないのだな」
「紐なんてないって言ってる」シューバが訳してくれる。
「さっき文字が読めるようになったところだ」
「そこまでできるのに話すことはできない・・と」
「この人、魔法使い?」
「そうだ」
「どうやらたくさん異世界の情報をもらえそうだね」
魔法使いはそう言ってどことなく妖艶な笑みを浮かべた。




