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あなたを探して~今日から重世界で生活します~君を探して  作者: ブリージー・ベル (旧・瑚希)


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色という概念

□  □


‐Side ひなたと爺‐



「どこに行くの?」


待機していた運転手に買ったものを渡してから、スタスタと爺が歩いていくので背中に向かって声をかけた。


「高いところじゃ」


爺の年齢になっても耳は全然衰えてないし、スタスタ歩いて足腰も丈夫そうなことにこっそりほっとする。


「高いとこ?」


「ビルの上からビューンと見渡せるとこはどこかの?」


「知らないのにそんなにスタスタ歩いてんの?」


「なんとなくこっちな気がする」


「いやまあ、たぶん合ってるけどさ」


360°見渡したいならあそこしか無い。だけど、この辺りの景色が変わりすぎていて驚く。


「めっちゃ変わってるじゃん!」


「この辺りのことか?」

「うん。こっちはまだまだ開発途中って感じ?」


「知らん」

「知らないのかよ」


「美味しいものが無いところに興味はないのぅ」

「まあ確かになんもないけど」


歩いているのは外国人観光客が多い。おそらく向かっているのは同じところだろう。こんなに人気スポットになっていたとは。


「爺待て」

「ほい」


「たぶんこっちから行ったほうがはやい気がする」

「了解じゃ」


行き先を理解していると判断されたせいか、爺と並んで歩くことになった。


「爺なら高いところから見なくてもわかるんじゃ?」


「正確な場所は実際に見るほうが確かじゃの」


「そうか」


「なんじゃ。急に大人しくなりおって」


「少し気配を探索してた」


「ほう」


「結界緩めたのか?」


「いいや。時代に合わせていっているだけじゃ」


「・・・あれすごいな」


「そうじゃな」


明らかに今までならなかったであろうものがそこにある。


「害じゃなくて必要だということか?」

「必要かどうかはまだわからんが、除外の対象ではなかったということじゃの」


「どこに繋がってんの?」

「わからんのか?」

「ぐっ」


「・・・まあ上がってみるかの」


見上げたビルは、新しいビルがたくさん並んでいるこの辺りで特別高いというほどでもない。なのに外国人が次から次へと入っていく。エレベーター前に長い行列ができていて、思わず怯んだ。


「爺、これ・・並ぶのか?」

「なに、すぐじゃろう」


結構な人数だけど、並んでみると割と進みははやい。順番がきてエレベーターに乗り込むと高さが表示され始める。爺は埋もれているからたぶん見えてないな。透明なトンネルの中のエスカレーターに乗る。爺の補助・・いらねーな。スタスタ乗ってるわ。


上に到着して、そこで料金を払い(爺が電子でペイした驚き)、さらに登って外に出る。

360°ぐるりとこの街を一望できる。高所だけど今日は風が弱くて助かった。


爺とゆっくり回る。爺が何を観ているのかわからんが、俺の目を通した世界は「色」だ。街に重なる異質な色。結界は白く光って見えるものに、しっかりと黒が混じっている。簡単に言うなら白い糸と黒い糸が編まれている。本当はもっと複雑だし、結界師によっては漢字の流れに見えるやつもいる。


爺の目にはどんな風に見えているのだろうか。


ふと振り返ると、立ち止まってじっくり眺めている。あれは・・北の方角か?

何があるのかと目を凝らす。

視覚で異変は感じられないので、違う目に切り替える。


「ん?」


何かに反応があるな・・結界に干渉されたか?

結界は損傷することなく働いているようなので問題はないだろうが。

あそこになにかあるってことだろうか。

そんなことを考えながら、ぐるりと確認していく。

ちょうど爺の背中の真正面に回ってきたので、見ていると爺がしれっと術を展開していた。


なにやってんだ?


慌てて爺のところへ戻った頃にはもう終わっていて、


「なにしたんだ?」


「だいぶいらないものが浮いておったからの」


「掃除したのか?」


「ちょいとほうきで掃いておいた」


「ほうきって・・」


この街だけでも相当なのに、まさかこの見える範囲全てを掃いたのか。


「おかげで色が濃くなった」


異世界の色が濃くなってどうするんだ。


そう思ったけど、爺が見ているものと、俺が見ているものの視点が違う。きっと爺が正解なんだろう。成長して自信満々に帰って来た途端にポッキリ折れそうになる。いや、折れないけどな!!


「他には何したの?」


絶対なんかしただろ。掃除したことまでは訊いた方がはやいから尋ねたけど、俺が想像すらできない何かをやってる気がする。


「わからんのか」

「わかりません教えてください」


「ほお、その辺のプライドはポッキリ折れて消えたか」

「今、褒められてる?」

「褒められているかもしれんの」

「よし!」

「・・・」


□  □


‐side アイビー‐


ものすごくたくさん並べられた。


「言葉を理解できるように頑張りましょう」


変わった形の文字らしきものが並んだ紙、それの一つを指さして


「あ」とその人が声に出す。


おそらく私も同じ音を出すのだろう。


「あ」と声に出した。


大きく頷いたその人に、これでいいのだとほっとしながら。

もしかしたら私は二度と元の世界に帰れないのかもしれないと思った。


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