アトラクション
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‐Side 玲央‐
俺1人先にシャワー風になってるだけの冷水を浴びて着替えた。
惜しい。シャワーほどの勢いはないし冷たいとか、小学校のプールの地獄のシャワーを思い出した。
とはいえ汗は流せたし冷水かぶって体は良い感じにホクホク温まっている。
シューバも鍛錬が終わってからまた部屋に戻ってきて、色々と書類を準備しているが、なんにもすることがない俺。
「することないし、街をぶらぶらしてきてもいいかな。連絡ないんだろ?」
「この状況を城に伝えてあるが、あいにく今日は音楽会の日なんだ」
「音楽会なんてあるのか」
「国の貴族が集まるぞ」
「シューバは警備すんの?」
「俺は出席する側だ」
「貴族!」
「見えなかったか?」
「いや、なんとなくそうかなとは思ってたけど。なんつーか、偉そうじゃないし、体も野性的だし、貴族じゃない可能性もあるのかなって」
「野性的?」
「ワイルドだろう。なんかライオンみたいな感じがするんだよな。俺の名前もライオンっぽいっちゃぽいんだけど。・・ってライオンってこの世界にいないか」
「その名前の動物はいないな」
「百獣の王って呼ばれてる」
「ほお。では褒め言葉だと受け取っておく」
「うん。ってことは今日は移動できないってこと?」
「いや、出なくて済むならそのほうが助かるぐらいだ」
「そうか」
コンコン
「入れ」
エロ三兄弟の1人、マシューが入ってきた。
「魔法塔から返事が返ってきました」
差し出された手紙を受け取り、シューバがさっと目を通す。
「よし、行くぞ」
「オッケー」
一緒に立ち上がり、勇んだもののどこに行くかわからない。
「もしかして、魔法関係?」
「魔法塔に行く」
「うほっ」
「?」
「ついに!ついに魔法!!」
「・・・」
「やめて。そんな目で見ないで。哀れみはいらない。俺はかわいそうじゃない!」
「濡れ衣だ」
「ならオッケ。すげー楽しみなんだけど!やばいって!」
「そ、そうか」
「やっぱ杖とか振って物を浮かせたりできちゃう?暖炉が転送装置?それとも魔法陣で色々できちゃう感じ?あ!!なんも答えなくていいから!この目で見るまでは想像して楽しみたいから答えはいらない」
「・・・わかった」
「はやく行こうぜ!」
「歩けなくはないが、馬なら速い」
「馬!」
「乗れるか?」
「乗れるわけないじゃん!俺の世界では馬に乗れるのは主に金持ちだよ」
「そうなのか?」
「みんな車に乗るかバイクか自転車、電車に飛行機で移動するけど、馬は移動手段じゃないんだよ。優雅な遊び、みたいな感じ」
「わからない言葉がたくさん出てきたが」
「それは見てもらったほうが早いんだけど、なんていうか・・動物を使って移動したり荷物を運んだりする時代は終わって、機械化されてるんだ。主に日本以外の国で、辺鄙なところに住んでいたり、砂漠を観光したりするなら乗ることもあるって感じ」
「それは速いのか?」
「速いよ」
「馬より?」
「馬って時速何キロで走れるんだ?」
「?」
「時速とかキロメートルとか伝わらない感じか」
「乗ってみたらわかるんじゃないか」
「乗せてくれるのか?」
「ああ」
□ □
‐ Side 魔法使い‐
下町を出た辺りから体の痛みは消えた。塔に戻ると手紙が届いていて、異変について相談したいとあった。自分以外も異変に気が付き始めているのか。王城に報告していないが、どこまで話せるかな。あそこに話を通すと待たされて指示されて、無駄が多すぎるからな。
話のわかる奴ならいいが、こいつはどうだっただろうか。
体の痛みのおかげで食欲が消えたとはいえ、頭の働きまで鈍くなるのは困る。引き出しをゴソゴソと探してビスケットを見つけたので、濃く入れた紅茶で流し込む。
すぐには来ないだろうから、少し休んでおこう。
□ □
‐Side 玲央‐
「でっか!!」
「そうか?」
「馬を近くで見たことあったっけか・・いやでもやっぱり俺の世界の馬より大きいって!」
「大きいと怖いのか?」
「はい、怖いです」
「ははっ!素直だな」
「しがみついていいですか」
「いいぞ」
「あざっす!」
階段のような踏み台を用意され、なんとかシューバの後ろに乗り込む。シューバは鐙に足をかけてサクッと乗ってたけどな。
「やだシューバの背中たくましい♡」
「お・・おい」
「大丈夫だって!単純にかっこいいなって称賛してるだけだから」
「そ、そうか」
「行こうぜ」
「しっかり捕まってろよ」
「うん♡」
「・・・」
「冗談だって」
「そっちの世界の冗談はよくわからん」
「まあ、そりゃそうだよな。ところでもっと速く走れる?」
「街に入るまでなら速く走れるが大丈夫か?」
「走ってみてよ」
「はっ!」
馬に合図をしたのか、じわじわとスピードが上がっていく。高さと流れていく景色とで、体感スピードは車並みだ。バイクには乗ったことがないからなあ。たかだか数百メートル走った程度だと思うけれど、手のひらに汗をかくほどにはスリルがあった。王城の敷地から街道に出て、町を少し横切ってからまた少し丘のような坂道を登ると目的地に着いた。