男子と準備
「えー!おれがどんなの置いてきたかもっと興味持ってよ」
「今から見るしのう」
「一番弟子の成長だよ?」
「弟子にした覚えがないがの」
□ □
‐ Side 玲央‐
「ハァッハァッ」
「もう息が上がってんのか、体力なさすぎだろう」
「じ、自分でも驚いてるよっ」
そりゃあ最近まともな運動してないけど、まさかこんなにも動けなくなってるなんて。シューバは息ひとつ乱れていない。あと一本だけ打ち込んでみたい。上がった息で苦しくて大した威力もないけれど、今とても充実感と楽しさを感じる。
「はっ!」
「おお、悪くない剣筋だ」
「ふえぇ」
最後の力を振り絞ったので、そのまま草の上に倒れ込む。上がりすぎた息で自分の胸が上下するのを見ながら苦しさをやり過ごそうとしていると
「しばらく休んでろ」
水筒みたいなものに入った水を頭の側に置いてから、シューバが1人で鍛錬を始めた。
息はまだ苦しいが、このまま寝転んでいるのも悔しくて、上半身を起こして座り水筒の水を飲みつつ、シューバの鍛錬を眺める。
走り込んだり、筋トレしたりするのかと思っていたのに、ゆっくり目を瞑って時々ものすごい速さで木刀を振る。棒だけに限らず正拳突きのような動作もしているし、まるで舞いのようだ。
「なんか・・武士みたい」
居合とか日本舞踊とか、そういうのを連想する動き方で不思議に感じた。
そういえば?と水筒をじっくり見ると、皮で作った洋風のものではなく、竹を切って作ったような形状で、こちらの世界にもこういう植物があるらしいと気づく。
「まあ、日本にしっかりくっついちゃうぐらいだし?」
どこかしら似ている部分がある世界なのかもしれない。
息も落ち着いてきて、シューバの動きを見ていると、なんだか最近重かった体が軽く、頭はスッキリしている。体動かすって大事なんだな、なんて思っていたら、建物のほうから誰か数人が歩いてきた。
「あーー!」
「お前」
おいおい、上官に挨拶とかいいのか?なんて思ってから、いやいらんなこの考え方、とすぐに思い直す。
駆け寄ってきた奴らの顔を見ると、案の定で
「あの女体のやつ、もっかい見せてくれよ!」
「もしかしてもっとすごいのあるのか?」
「もっとこう、大きいのがいい!」
・・お前ら、同士よ。
「見せたいけど電池切れちゃったんだよ」
次回はちゃんと準備してくるからさあ。やっぱちゃんと紙媒体のを買うか。てか俺、紙のとか買ったことねー。
「「?」」
「ああ、そうか。俺の言葉は通じないんだった。シューバ!」
「お前、人が精神統一して鍛錬してる時に通訳に呼び出すな」
それでも説明したらちゃんと訳してくれる。やっぱ本当に強い奴は優しいよな。
俺もそうなりたくて武道をやってたんだし。
「ええー・・今日は見られないのか」
「期待が高まった分、辛い」
やっぱエロは世界共通、異世界共通だよな。わかる。次回持ってくるって言いたいけど、それで持ってこれなかった日にゃ絶望だよな。だから黙っておこう。
そのままシューバが説明を始めた。
「鍛錬が終わったらこいつ、レオと世界移動を試みる」
「え、行くんっすか?!」
「どこかわからないのに?」
「戻ってこれるんですか?」
「わからん。とりあえずやってみるが、万が一帰ってこれなかったときのための指示書を残すし、問い合わせしている件もあるから、それの対処と・・まあお前たちは俺が消えたという証人になってもらわないと」
「あ、俺も行きたいっす!」
「俺もあれがまた見られるなら」
「もっとこうすごいのが見たいっす!」
貪欲な奴がいる。お前はタイガービートルか。わかる、わかるけど。
「お前たちまでもし移動したら、誰が証言するんだよ」
あ、部下があまりにもバカで頭抱えちゃった。けど、こいつら絶対善良な気がする。
ワイワイとしながら、シューバは1人鍛錬に戻り、エロ三兄弟は走り始めた。走って欲が静まる・・・かなあ?
□ □
‐Side ひなた‐
「それじゃ買い物してくるからの」
ひょこひょこと歩いて女性だらけの可愛らしい店へと入っていく。
爺なら店の中からでも、なんなら関東ぐらい離れてても俺の蛛網を確認できる。
「いや、もしかしたら何億光年離れてても確認できる?」
俺はまだそこまでじゃないのが悔しい。この「誰よりもすごい人でありたい」という感情がある限り、ワシを超えることはないじゃろうのと言われて、入り口を探す旅で鍛錬も兼ねていたのに、爺にあって爺を見ているとまた鎌首をもたげてくる。
やめろやめろやめろ。
いい加減手放せよ。爺と離れている間に達観できたと思っていたけれど、まだまだだと知る。
ほんの少し落ち込むけど、どっからでも這い上がれるのが俺。
よし、いっちょやるか!
センサーの役割を果たせばいいだろう。俺の意識につなげておくけど、それは後で爺が自分につなげ直すだろうし。誰をセンサーにかけるか、車の中で説明はされた。異世界に深く接触できる人間だ。
繊細に丁寧に張り巡らせていく。
「よし!できた」
我ながら見惚れるほどの出来。
この糸に干渉した人間に、しっかり糸が繋がっていく。どこに住んでいるのか分かれば大丈夫だろう。
爺がチョコレートを買って出てくるより早く仕上がった。
随分混んでいるのかな?って店のドアの丸いガラス越しに覗き込んでみたら、若い女の子たちと爺がキャッキャと盛り上がっていた。
「うう、俺も入りたい」
だけどだめなのだ。爺のこの楽しみを俺が邪魔すると爺は拗ねる。
でも羨ましい・・なんて思っていたら
「あのう・・入れないほど混んでいますか?」
と声をかけられた。
「あ、すんません!そこまでじゃないですよ」
慌ててドアの前からどく。
一瞬怪訝な顔をされたけど、無理矢理気味の笑顔で会釈される。
しばらく日本から離れていた間に、なんかこう・・フリフリした雰囲気の女子増えた?
今の流行りなのか、この子だけの好みなのかわからない。だけど、糸は繋がっていないから、爺が探している子ではないのだろう。久しぶりの日本女子観察を楽しんでいたら、爺が出てきた。
「よし、少し歩こうかの」
ホクホク顔だな、おい。