高いよ、そのチョコ
「あ!異世界人みっけ」と私に向かって何か言った。
「?」
「君、可愛いねー」
どれだけ話しかけられても理解できないのがもどかしい。でも・・何を言われているのかわからないのは幸せだという可能性もある。
「ひなたさん」
「あ、橘さん久しぶり!浮気してない?」
「ハイハイシテマセン」
「俺のことまだ好き?」
「イッタイイツアナタノコトヲスキダトイイマシタカ・・」
「俺はねー、全人類を愛してるし愛されてるから!」
「壮大な愛。浮気者の素質素養・・」
「いったいどこに行っておったんじゃ」
「あ、爺!ただいま」
目まぐるしく打ち返されていく会話に、意味はわからなくても呆れが混ざっているのはなんとなく感じた。老人がスタスタと入ってきて、男性と話すのかと思ったら
「アイビーちゃん、この中ならどれが気になるかの?」
食べ物らしき綺麗な絵が描いてある紙を数枚テーブルに広げられる。
「?」
これが何だと言うのだろうか。
「あ、アイビーちゃんは言葉がわからない感じ?」
「じゃな」
「あ、俺の新技試していい?」
「・・アイビーちゃんに害にならないものなら構わん」
「大丈夫」
力強く頷いている彼の目の色が変わる。
いえ、変わったわけではない・・?急にまなざしの強さと視点が変わった。
何を始めたのだろう?と老人に訊ねるような気持ちで目線を向けると
「ふむ。なるほど新技じゃのう」
感心してるように顎をさすっている。
「アイビーちゃんはこの世界にいたことがないみたい。記憶に残るものとしては」
「だから言葉がわからないと?」
「うん。あと、たぶん・・」
「それはストップじゃ」
「なんだよ爺、わかってるんだな」
「おそらくの」
「ちょっと大変だけど言葉を覚えていったほうがいいね」
「通訳がいたんじゃがのう。あっちに出張中での」
「・・・ちょい待ち」
「まさか」
「これならどうだ?」
なんだかものすごく得意気に私を見てくるけれど、何を言っているのかしら。
「ダメかあ・・」
しばらくすると、ものすごくしょんぼりしている。
「お前のその自信はどこから来るんじゃ」
「俺のコアからだけど?」
「相変わらずじゃのう」
「爺も元気そうで良かった!」
「んでアイビーちゃんはどれが食べたいかの?」
突然こちらに何かが飛んできたのはなんとなくわかる。
絵の中から選べと言われているのだろうか。
唯一、私の世界と共通のものを指差した。これはたぶんチョコレートだろう。ずいぶんと綺麗なチョコレートだけれど。
「そうかそうか。んじゃ買いに行ってこようかの」
「あ、それ俺も行っていい?」
「構わん」
「爺の術式久しぶりに見るなあ」
「お前がやってみるかの?」
「え、いいの?!でも爺のも見たいしなあ」
「成長を先に見せておくれ」
「よし!」
ものすごく張り切って出ていくのを見送る。なんかすごい人だったな。
「さて、では言葉の教材を集めてきます」
その人はいつも通り落ち着いた足取りで静かに出て行った。
□ □
‐Side 魔法使い‐
痛みが一向に治まらない。脂汗が噴き出してくる。このままここにいるのが原因なのかもしれないと思い、痛む体を壁伝いに支えながら歩く。本能的にこの場にいるのが良くない気がして。
朝ご飯どころじゃない。このまま医者へと駆け込みたいぐらいだ。
□ □
‐ Side ひなたと爺‐
街へと向かう車の中。
「して、入り口は見つかったのか?」
「いや、消えた」
「またか」
「レインボーマウンテンにあったのは確かなんだけど」
「南米まで行っておったのか」
「地球一周どころか3周ぐらいしたよ」
「難儀よの」
「で、一旦日本に帰って来たら入り口どころか重なってたってわけ」
「お前が探していたものか?」
「まだわかんね。それより、爺が仕掛けようとしてるのは蛛網か?」
「そうじゃ」
「小さいころ、一度だけみたことあるけど綺麗だったな」
「ほう、覚えておるのか」
「もちろん。何度も練習して、ちょいアレンジ加えたものは入り口があった場所に置いてきた」
「そうじゃ、チョコレートを買ったら帰りに相棒の通訳を迎えに行こうかの」