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じゃんとちぇー

「じゃ、その間に向こう行く?」




「お、おう?」


「念の為、ちゃんと置き手紙とかしておいたほうがいいよ」


「いやまて。そんな簡単に行ける」

「行けるかどうかを試すだけだって」


「・・行けたらどうするんだ」


「だからそのために置き手紙を」


「・・・却下だ」


「ええーーー!?」


「当たり前だろ。二度と戻れないかもしれないのにそんな簡単に試すわけがない」


「だってさあ・・今から連絡が来るまで暇じゃん。時間の無駄じゃん」


「その『じゃん』っていうのはどういう意味なんだ」


「え?わかんないの?」


「そこだけ識別できない」


「じゃん・・・『だよな』みたいな意味で使ってるけど、日本語ってさ・・なんていうか世代ごとに使う言語が違うというか、その時だけ流行る言葉もあったりで、こう・・生きてるんだよ」


「まあそれはこちらでも同じだな。古語というものは存在するし、新しい言葉は次から次へと生まれていく」


「こっちも一緒か。ただなんていうか、向こうの世界でも飛び抜けて繊細な言語ではあるんだよなあ」


「『じゃん』がか」


「じゃんさえも、なんだよ。なんつーか・・『お前もそうだよな?』みたいな共感を求める感じが強い。軽薄さはあるんだけど」


「興味深いな」


「そうなんだよ。だから行こうか」


「行かん」


「ちぇー」


「その『ちぇー』はなんだ」


「え、それと説明必要?」


「不満そうなのは伝わったけどな」


「ちぇー・・・語源は舌打ちかな?悔しいときに『ちっ』って舌打ちしない?」


「ああ、それならこちらも同じだ。ちぇーとは言わないが」


「ニュアンススキルみたいなのが飛び抜けてるんだよなあ、日本語。じゃあ何してればいいわけ?」


「ただ待っていればいい」

「え、無理」


「は?」


「何もせずに待ってるの?テレビもスマホもなんもなくてただ空を見つめて待つとか無理」


「そういう病気なのか?」

「病気?!」


「そんな程度の忍耐力もないなんてどこか病んでいるのか?」


「・・・」


「どうした」


「いや、確かに病気みたいなもんかもなあと思って」


「そんなに辛いなら、稽古してみるか?」


「えっ?!魔法?」


「いや、俺は魔法が使えない」


「うわーー・・知りたくなかった」


「なんだそれは」


「いや、ごめん。勝手に期待して勝手にがっかりした。1番やっちゃいけないやつ。本当にごめんなさい」自分の失礼さに気がついて、心から頭を下げた。


「そんな真剣に謝るほど失礼だと受け取ってないが?」


「本当に?」


「ああ。レオの世界でどうかは知らないが、こっちではそれぞれの得意を活かしているだけだ。体術が得意な奴はそれをさらに鍛え、魔法が得意な奴はそれが必要な場所で腕を活かしているだけ。どちらが上なわけでも下なわけでもない。それぞれが得意不得意があるだけだ」


「・・・うっ」


「ちょっ!どうした」


慌ててガタンと椅子から立ち上がって俺の肩を掴んだシューバ。


「自分の偏見、結局そんなつもりはなくても人を上か下かで見ていることに気がついて、情けなくて涙が」


「・・なんか、そっちの世界大変そうだな」


「こっちの世界は大変なことはないのか?」


思ってた以上に涙が鼻を刺激してくるのでティッシュが欲しい。あるのか?この世界にティッシュは。


「・・いや、大変だ」


「重い一言だな。ところでティッシュってある?」


「なんだそれ」


「鼻をかんでぽいっと捨てられる紙」


「無いな」


「・・不便だな」


「ハンカチならあるぞ」


そう言って差し出されたものは高級感あふれる白くてピカピカしていてとても鼻をかめる雰囲気じゃない。


「ありがとう、気持ちだけ受け取っておく」


必要最低限のものはカバンに入れて持っていた。アイビーが。

今日の俺はびっくりするぐらい何も持ってないのだ。それもあって、サクッと行ってまた戻ってきたい思ってしまうんだけど。


「・・稽古、してみたい」


久々に思い切り体を動かしてみたいと純粋に思った。


「よし、じゃあ着替えろ」


「着替え必要?」


「・・・必要だな」


部屋を出て、更衣室のようなところで稽古着みたいな茶色い服と、防具みたいなものを渡される。


「これ、着け方わからない」


「・・なるほどな」


馬鹿にしたような言い方じゃなく、盲点だったというように目を見開いて答えるシューバはすでに稽古着を着ている。


「シューバは防具つけないんだな」ぼそっと呟くと


「必要だと思うか?」と訊かれ「必要ないと思います、はい」と答えた。あんな簡単に確保されてしまったのだ、足元にも及ばないことはわかる。



□  □


‐ side アイビー‐


「おーい!いないのかよ」


何を言っているのかはわからないけれど、場の空気が急に明るくなったような・・

なんて思いながら食堂の席に着いた。


今から何をするのかしら・・


「ひなたさんが帰ってきた」


「?」


私に言っている感じはなかったけれど、名前のように聞こえたので気になった。


「アイビーさん。しばらくここで食事をしていてもらえますか?」


紙に描くのではなく、食べるような動作をされたので頷いておく。

いつも落ち着いているその人が、少し速い速度で食堂を出て行こうとしたとき


何歳ぐらいなのかわからないけれど、短い黒髪でよく陽に焼けていてなんだかとても元気そうな男性っぽい人が入ってきて、


「あ!異世界人みっけ」と


私に向かって何か言った。


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