緩い状況説明
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‐Side 玲央‐
「まず、俺のスマホはどこ?」
「スマホが何かはわからんが、お前が残していったものはこれだ」
「おー!無事に返ってきた」
「お前が消えた後、明るく光ることはあっても何をどう触っても変化はなかった」
「あー、電池切れかロックがかかったかだろうな」
「つまりお前はそういう物がある世界(?)から来ているということか」
「あ、話がはやいね。・・電源入らないから電池切れか」
「なぜお前はその世界からこちらへ来れるんだ?」
「ん?ああ・・わからないんだよ。その辺りはわかってるっぽい爺さんがいて、その人に尋ねるしかないんだけど」
「爺さん・・」
「あ、あとシューバもあっち、つまり俺の世界に来てたよ?」
「は?」
「とはいえ、その様子じゃ来ていたというより、混ざってた・・混乱?なんだろうな」
「そんな珍妙な世界に行った覚えはないが」
「珍妙て」
「女性の裸同然の絵をあんな簡単に見る世界を表現するには適していると思うが」
「なるほどなあ!」
思わず仰け反ってしまうほどには納得、いや、感動すらした。
当たり前のように享受している文明社会が、こちらの世界では非常識なものに見えるのかと。
こちらの世界のような時代を経て、今の俺の世界へとたどり着いているはずなんだが。シューバがロボットを見たらどう思うんだろうな。
「シューバが覚えてなってことは、俺が見ていただけなのかもしれないけど、確かに俺の世界の側にお前もいたんだよ。ってことはだよ?後で試してみたいんだけど、お前も移動できちゃうかもよ」
「行ったとして、帰ってこれるのか?」
「それね。そこは挑戦だよ、うん。俺もこうやって行き来できてるわけだし」
「・・・」
「その爺さんの説明がまだあやふやなんだけど、大体の予測を含めた説明をすると、こちらの世界とあちらの世界、あちらは俺の世界ね。重なっちゃったらしいんだよね」
「重なるか?」
「いや、そうなんだよ。物理の法則で言えばありえないんだよ」
「・・・」
「だけど、実際に俺はこちらに2回も来てるし、あちらに迷い込んだアイビーちゃんって子もいる」
「そのアイビーちゃんって」
「ちゃんの部分は気にしないで。名前はアイビー。アイビー・ハートウィル」
「ハートウィル?!」
「あ、知ってる感じだね」
「だが、行方不明になったという知らせは届いていないが」
「うーん・・その辺りはこちらの事情だろうから俺にはわからないけど、図書館へと歩いていたらいきなり景色が変わったって聞いてる。あと、本人は元気。不安でいっぱいだろうけど、どこか怪我をしたり具合が悪いなんてことはない」
「それはありがたい情報だが・・ちょっと待ってくれ・・」
「うん、待つよ」
「なんか調子狂うな、お前」
「あ、俺の名前は『玲央』って言うんだ」
「レオ」
「そう」
「そのアイビー・ハートウィル嬢も一緒に帰ってくれば良かったんじゃないのか?」
「それがさあ、彼女はダメだったんだよね」
「ダメとは」
「今朝、いやさっきか。一緒に手を繋いで向こうで繋ぎ目の緩い場所なのか、昨日俺がこちらに来た地点から来ようとしたんだけど、気がついたら来れたのは俺だけだったっていう」
「・・・」
「まあ爺さん、しょーちゃんっていうんだけど、しょーちゃんがいるし無事だとは思うよ」
「保護されていると考えても?」
「もちろん。昨日、街なかで発見して保護したって言ってた。衣食住の心配はない。あと、あちらに迷い込んだのは今のところ彼女だけ」
「そうか」
「ただ、俺やシューバみたいにいきなり言葉がわかるようになったりはしなかったから、不便だろうな」
「それもおかしな現象だ」
「もう何がおかしいかなんて、決められなくね?」
「・・・」
「俺はいきなりこの世界に来れちゃって、頭がなんか揺れたと思ったら言葉もわかるようになって。喋れないけどさ」
「・・・」
「シューバの姿も向こうに行ってたのかはわからんけど、俺の言葉はわかるようになったわけで。自分で言うのも変なのかもしれないけど、俺の国の言葉・日本語ってかなり難しい言語らしいよ?」
「ニホン」
「この世界の言語が難しいのかどうかはわからんけど、いきなり日本語が話せるようになったシューバってかなり凄いと思う。あれかな?記憶中枢に残ってたとかかな・・」
「?」
「人間の脳ってすごい可能性を秘めてる説があるんだよ、あっちでは」
「それはわからないでもない」
「だから、もし魂ってもんがあって、それを・・あー!めんどくせぇ」
「は?」
「魂とかなんかそういうのって面倒じゃね?」
「こちらの世界では、魂は何度も生まれ変わるという信仰がある」
「あ、なんかそういう感じ」
「軽いな」
「ふわっふわにね」
「・・・」
「まあともかく、アイビーちゃんは帰れない。言葉には困ってるけど生活はサポートされてる。で、やるべきことはシューバもあちらに行けるかどうか、かな」
「ハートウィル嬢の捜索願が届いているかどうかの確認と、魔法省への問い合わせだな」
「!!」
「なんだ」
「い、今・・・『魔法』って言った・・?」
「言ったが」
「ま、魔法・・ある?」
「あるが?」
「ま、魔法あるーーー!!」
「そんな喜ぶことか?」
「喜ぶよ!お前だってあっちで成長過程を過ごして、魔法使いたい!とか言ったら鼻で笑われたりしてれば、夢も希望も翼も折られて口にもできなくなるってわかるから!」
「お、おう」