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魔法と爺が見えるもの

「説明してくれ」




「オッケ。どこかゆっくり話せるところある?」


「ここなら話せる」


そう言って何か変わった形の金属の板を取り出して、扉の模様にしか見えなかった窪みに差しこみ


カチ


小さな音がして、シューバが扉を観音開きで開けた。


「そこから開くわけ!?」


予想外の部分から半分に割れた。


「魔法じゃないのかよ」


さっきまでの楽しい気分が絶望に近い感情で押し流される。


「扉か?」


「・・ああ・・俺のワクワクを返して」


「よくわからん」


「うわあ〜!」


「なんだ、急に叫ぶな」


「あれだよ、なんつーか。大きな遊園地で1番期待してたジェットコースターが運休だったみたいな?もしくはマスコットキャラの着ぐるみが一斉ストライキだったみたいながっかり感だよ」


「・・・さっぱりわからんな」


まだ薄暗い室内の隅っこのほうにある廊下をシューバの先導で歩き進む。突き当りの正面に扉。

今度は金属でできた扉にシューバが手をかざす。

触れた瞬間、光ったような気がして凝視していると扉が開いた。今度は自動ドアみたいな開き方だ。


「え?」


「入れ」


「ええ?」


もしや、まさか。

先ほど味わった絶望感が瞬時に期待に置き換わる。

持ち直した気持ちで部屋に入ると、座り心地の良さそうな大きな椅子がテーブルに4つ並んでいて、


「どこでもいいから座れ」


そう言われて選んだのは悲しいかな末席。社会人になって先輩にたたき込まれた「失礼にならない席」をついつい選んでしまった。


「参考までに聞きたいんだけど」


「なんだ?」


「下々のものが座っちゃダメな席とかある?」


「俺は人を上や下で見ないからどこでも構わんが、王族や貴族としてならある」


「やっぱあるんだ」


「お前の国にもあるのか?」


「ある。それはもう国によっても違うし、場所によっても違うし、誰がそんなことを決めたのか、なんでそんなことを続けなきゃいけないのか理由を教えて欲しいぐらいある。あ、あと【お前の国】じゃなくて【お前の世界】として捉えたほうがいい」


「国じゃなくて世界・・」


「今からじっくり説明するよ」



□  □


‐Side 結界師‐


「集まったかの?」


「まだですね」


「ほう」


「爺は・・あ」


次にどうするのか相談しようと思ったら、爺が遠くを見ていた。

何かを視ているのだろう。結界は我らがしっかりと張り直したとはいえ、結界以外で爺の目に匹敵する者はいない。我らの目に見えない、いったいどういうものが爺の目に見えているのか、生きている間に理解できることはないのかもしれない。圧倒的なまでの力の違いがそこにある。


「ふむ」


「どうでした?」


「1人、ちゃんと見つけてくれておる」


「なんと」


「嬢ちゃんは何が好きかのう?」


「は?」


「ラーメン、パン、ケーキ、和菓子・・」


「若いお嬢さんならばチョコとかじゃ」


「そうじゃ。アイビーちゃんに尋ねてこよう」


楽しそうに爺がスキップをして出て行った。御年80歳なのにあの身体能力は何なんだ。

色々と鍛錬をしていることは知っているが・・

ふと気になって周りの奴らに「スキップできるか?」と尋ねたら、

パソコンとモニターだらけの部屋でむさ苦しいおっさん10人でスキップ大会になってしまった。

ちなみにできたのは3人。年齢よりもセンスの問題だった。


これでもこの国を見えない部分で支えている者たちなのだが、上に立つ人間がアレなものでどうにもゆるい。



□  □


‐ Side 環‐


大学の辺りはあまり重なっていないのか、もしくは人が少ない地域と重なっているのか、薄い人達をあまり見かけなかったけれど、バイト先のカフェはまあまあの混み具合で、かなり神経を使う羽目になった。


いったい何と重なっているんだろうと、あちら側に精神を集中してしまうと、あちら側が濃くなってしまうのだ。今朝のことといい、私ってもしかして簡単にあちら側に行けてしまうのでは?

そんな危機感めいた感覚があるので、必死に現実に集中しようとすると、普段から薄らぼんやりとした感覚で生きているのか、ものすごい疲れる。


「つ、疲れた」


休憩時間になり、更衣室に入った途端にその場で崩れ落ちるようにうずくまる。

幸い更衣室にあちらの人達はいない。ほっとしていると背中にゴンと思い切りドアがぶつかってきた。


「うわっ!ごめん」


「痛いけど、こんなとこに座り込んでた私が悪かったから」


「疲れてんの?大丈夫?」


「大丈夫じゃないかも・・」


背中をさすりながら重い体を気力で持ち上げて、今度は椅子に倒れ込むように座る。


「なんか今日、変だよね星宮さん」


「う、うん」


「俺で良ければ聞くけど」


「あ、ありがとう。でも全然大したことじゃなくて」


大したことなんだけどね。絶対人に言えないよ。

気軽に友達に言えたらよかったのに。


「そう?ならいいけど」


さらっと流してくれて助かったと少し力が抜ける。すると菊地くんが飲んでいるものが気になった。


「あ、飲み物忘れた」


バイト支給で休憩時の飲み物を無料でもらえるのに、疲れすぎて忘れていた。


「俺、淹れてきてやるよ。何がいい?」


「や、優しい!ありがとう」疲れた体に仲間の優しさが沁みる。

だけど・・


「あ、でも今日はかなり甘いのをカスタマイズしたい気分だから自分で淹れてくる」


「いいよ、それもちゃんとやってきてやるから」


「うう、本当にありがとう」


ハチミツとクリームを多めに冷たくて甘すぎるであろう注文を快く引き受けてくれた。

本当はどんな場所と重なっているのか確かめてこようと思ったのだけれど、バイト中にあちら側にいってしまうことがあれば事件になってしまうかもと思い直して留まった。


どうせ行くなら、身の回りを片付けて二度と戻れなくなってもみんなが悲しまないようにしないと。


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