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舞踏会の警護

 その日は、朝から憂鬱だった。

 エノは重い体を引きずって、広場へと出かけた。

 できれば、今日はさぼりたかった。

 

「エノ! 遅いぞ!!」

 ソルドの声で、なんとか仕事モードに切り替えることに成功した。

「すみません!」

『そう、これは立派な私の仕事……』

 

 今日は、ファンデ家主宰の舞踏会が開かれる日だ。

 

 ソルドの指揮でエノたちは門や屋敷周りに配備され、屋敷内では、もうすぐ訪れてくる客人を迎えるために、忙しそうに召使達が働いていた。

 やがて昼が過ぎ 夕刻近くなると、次々に様々な国から招待客が訪れてきた。

 皆 煌びやかな姿で、楽しそうに屋敷の中へ入っていく。

 その様子を見送りながら、エノはひたすら無表情を装った。

 

『彼らが安心し、安全に過ごせるように務めるだけ』

 

 腰のサーベルを確認するようにギュッと握った。

 

 

 やがて日が沈み、大広間に灯りが灯った。

 舞踏会の始まりだった。

 テーブルには様々な料理が並び、グラスを片手にメイドたちが練り歩く。

 50人程が集まっただろうか?

 

 広間は盛大に盛り上がった。

 そんななか、ジャックの挨拶が始まった。

「今日は、我がファンデ家主宰の舞踏会に、よく集まってくださった。 たいしたもてなしは出来ないが、最高の時間を過ごされますようーーーーー」

 その横でユキナがにっこりと微笑み、シンの姿もあった。

 相変わらずビシッとしたタキシードがよく似合う美男子に、皆 惚れ惚れと見つめていた。

 

 そしてオーケストラの演奏が始まると、シンの周りには人だかりが出来た。

 シンは実に良く好かれていた。

 愛想よく対応する姿を、満足そうに見つめる両親。

 この舞踏会は、シンの知らぬところでの嫁探しが目的でもあった。

 群がる女性達に困惑気味のシン。

 皆、彼の心を射止めようと必死だった。

 

 

 

 一方エノは、そんな賑やかな様子を遠くで聞きながら、瞬く星を見つめていた。

 屋敷裏の塀近くに配置された彼女は、時折風に揺れる草むらと、キラキラと瞬く星に囲まれながら警備をしていた。

 不穏な空気も感じられず、このまま眠っても大丈夫そうだな、と思ってしまうほどに、屋敷の外は静かで落ち着いていた。

 

 

 ガサガサッ!

「!」

 不意に草むらを分ける音が聞こえた。

 サーベルに手を掛け身構えたエノの前に、人影が草むらから飛び出してきた。

 

「! シン様?」

 

 驚きつつも、必死に声を最小限に抑えた。

「どうして ここに?」

 息せき切ってエノの足元に駆け込むと、座り込んで息を整えている。

「ハァハァ……参ったよ……ハァ……」

 シンは、少し汗をにじませた顔で、心底疲れた表情をした。

 すぐに、また草を分ける物音と人の声がした。

「こっちの方へ来たハズだけど……」

「おかしいわねぇ……」

 3,4人のドレスをまとった女性たちが、バタバタとエノの前を通り過ぎていった。

 護衛の姿など、気にするに値しないのだ。

 

 エノの足元で、息を飲んで見送るシン。

 姿が見えなくなると、再びハァッと大きく息を吐いた。

 そんな姿に、エノはクスッと笑った。

「シン様、皆さんに慕われているんですね」

 彼は迷惑そうに答えた。

「言い方良ければね。 ゆっくり食事も取れやしないよ……」

 クスクスッと笑うエノに、シンは見上げて言った。

「君は、ラクそうだね」

 彼女はキリッとしなおすと、丁寧に答えた。

「そんなことありませんよ。 夜通し 外で張り込んでいるんですから」

 

 2人は顔を見合わせると静かに笑いあった。

 不思議と、今朝までの重い気持ちは消えていた。

 エノはとても穏やかな気持ちでシンと向かい合っていた。

 

 静かな空気に戻った。

「戻ったほうが良いんじゃありませんか? 皆さん、本当に心配されますよ?」

 エノは心配そうに尋ねた。

 シンは体操座りのまま和んでいた。

「エノと一緒に居るよ」

 いたずらっ子のような顔で言うシンに、エノは咎めた。

「ダメですよ、シン様! あなたが居なければ、成り立たないじゃありませんか」

「エノは、私が誰か他の人と一緒になればいいと思っているのか?」

 ドキッとしながら答えるエノ。

「え…… 当たり前じゃないですか。 シン様はファンデ家の跡継ぎなんですから」

 シンは少し不機嫌そうに言った。

「また ウソを言った」

「そんな……」

 

 シンは立ち上がると、エノを抱きしめた。

「私の気持ちは変わらない」

「シ……!」

 彼は、エノの唇を奪っていた。

 

 固まる彼女からゆっくりと離れると、シンはニッコリと微笑んだ。

「戻るよ、エノの為に」

 シンは、さっき来たほうへ再び走って行った。

 あっという間の出来事に思えて、エノはしばらく呆然としていた。

 

 舞踏会は、賑やかに朝方まで繰り広げられた。

 

 


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