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ガラおばさんの看病

 それから数日後、エノは体のだるさを感じた。

 早めに寝床に入ったが、翌朝になってもだるさは取れず、むしろ熱が上がってしまっていた。

 集合時刻になっても姿を現さないエノを心配して、ガラが訪ねてきた。

「エノちゃん、居るの?」

 心配そうに家の中を覗き込むガラの目に、ベッドで横になっているエノが映った。

「!エノちゃん?」

 驚いて近寄り その額に手を当てると、かなりの熱が感じられた。

「大変! すごい熱じゃないの!」

 エノは力なく言った。

「ごめんなさい、ガラおばさん、今日、動けない……」

「仕方ないわよ。 とにかく熱を下げなきゃ!あ、その前に皆に知らせなきゃ! でも熱を……」

 すっかり取り乱しながらも、ガラは小太りの体を揺らしてすばやくタオルを水に浸し、エノの額に優しく乗せると、家を飛び出していった。

 

 

 エノはひんやりとしたタオルの下で、その冷気に身を任せていた。

 どうにも体が動かない。

 体中の節々が痛むし、喉も渇く。

『意外と弱いのね……』

 仕事を始めたばかりで、疲労がたまっていたのかもしれない。

 実際、気を使う場面が多い仕事だ。

 

 フワフワと漂う意識にこのまま流されてしまってもいいかも……

 そんな弱弱しい気持ちに支配されかかったころ。

 

 

 ガラがドタドタと戻ってきた。

 その後ろから、ソルドや医者たちが駆け込んできた。

 窓からガラの子供達が心配そうに覗いている。

 

「エノ、大丈夫か?」

 そう言うソルドに、ガラは声を荒げた。

「大丈夫じゃないから 寝込んでるんじゃないの! エノちゃんが疲れちゃうから、用を済ませたら 早く出て行って!」

 言いながら、ガラおばさんは体を揺らして看病の準備をしていた。

 ソルドは少し圧倒されたように苦笑いした。

「エノ、今日はやめておくか」

「当たり前でしょ! こんな状態で働かせるつもり?」

 奥からガラの声が響いた。

 ソレは容赦なくエノの脳にも響いた。

 ソルドも苦笑いをしながらエノを見下ろした。

「そ……そうだな。 今日は代役を立てよう。 今日はゆっくり休め」

 医者に看てもらいながら、エノはようやくうなずいた。

 その顔は熱で赤く、フワフワと眩暈も起こしていた。

 窓の外から、子供達が次々に声を掛けた。

「エノお姉ちゃん、早く元気になってね!」

「お姉ちゃん、また遊ぼうね!」

 まだ幼い子供達を、ガラが追い散らした。

 

 

 喧騒が静まり、家の中に医者とガラとエノだけになった。

「やっと静かになったわね」

 そう言ってフゥッと息をつくガラを見つめながら、医者が苦笑いをしている。

「さ、もうゆっくり休んで。 眠ったらすぐに良くなるわ」

 エノは大人しくうなずいた。

 

 医者の診断ではただの風邪だろうという話で、とりあえず安静にして様子を見ることになった。

 

 やがて医者が帰り、ガラも

「また来るからね」

 と優しく声を残して出ていった。

 

 エノはやっと静かになった部屋の中で、フゥッと息を吐いた。

『みんな、本当に優しい……』

 胸が熱くなるのを感じた。

 熱の性ではなく。

 閉じた瞳から、涙がひとすじ 流れた。

『あったかい……』

 人の温かさが、心に染みて痛かった。

 

 

 

 エノは、村の人たちが大好きだった。

 突然やってきたまだ子供だった自分を受け入れてくれ、大きな怪我や病気も無く育ててくれた。

 いつも何か恩返しをしたいと思っていた。

 それがナンなのか、エノにはまだボンヤリとした形さえも浮かばなかった。

 

 やがてガラが、大量の食料を持って戻ってきた。

 ずっと1人で生きなきゃと張り詰めていたエノだったが、今回は大人しく甘えることにした。

 

 

 

 一方、キツネ狩りに召集された兵士たちの中にエノの姿が見当たらないことに気づいたシンは、ソルドを呼んだ。

「エノの姿が見えないようだが……」

「はい、実は体調を崩しておりまして……今日は静養をしております」

 シンは残念そうな顔をした。

「そうか……では、あとで見舞いに行くことにしよう」

「その必要はない」

 その声はジャックだった。

「シン。 お前がそこまでの事をすることはない」

 馬の上から明らかに不機嫌そうに言うと、クルッと踵を返し、森の中へと消えた。

 シンは黙ってその後ろ姿を見つめていた。

 

 

 その日のシンは全く結果が出せず、ジャックもずっと不機嫌だった。

 ユキナもその様子にただならぬ雰囲気を感じた。

 次の日、ジャックはシンが居ないときを見計らって、ユキナに言った。

「次のキツネ狩りの日、お前も来るか?」

 夫の意図が掴めなかったが、何かあるのだろうと思い、

「はい」

 と返事をした。

 シンは1人、部屋の中でただエノの事を想っていた。

 何故かシンの心の中には、彼女が住み着いていた。

 依頼をして召集をした時にだけ与えられる 彼女と会えるその僅かな時間が、とても大切なものになっていた。

『会いたい……』

 そう、心から願っていた。

 

 

 

 数日後、すっかり回復したエノは、家の外に出ると思い切り 伸びをした。

「やっぱり外の空気は最高!」

 その様子を見ながら、ガラが満足げに近寄ってきた。

「エノちゃん、すっかり元気になったねぇ。 私も安心したわ」

「ありがとう、ガラおばさんのおかげよ」

 エノは満面の笑みで答えた。

「でも、まだ無理しちゃだめよ、はい!」

 ガラおばさんは、大きなカゴをズイッと差し出した。

「え゛……これは……」

 エノの目の前には、山盛りの芋軍!

 笑顔がすっかり苦笑いに変わったエノは、ゆっくりとカゴを受け取った。

「あ……ありがとう……」

 


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