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エノの過去と現在

 19年前……

 

 エノはファンデの町に産まれたが、両親の仲が悪く、10歳になる頃には別れてしまった。

 一人娘だったエノは、父にも母にも付いていかず、1人逃げるように町を出た。

 

 幼いながらも、エノは強くなりたかった。

 

 

 父は力が強いだけだった。

 

 

 母は口が強いだけだった。

 

 

 エノにとって、『強さ』というものが分からなくて、かと言って父か母のもとに居たとして、何か得られるとも思えなかった。

 両親に信頼さえ置けなかったのだ。

 自分は1人で生きるものだと信じていた。

 そして、本当の『強さ』を知りたかった。

 

 

 

 森を駆け抜け、ボロボロになってたどり着いた所が『傭兵村』だった。

『傭兵村』の事は、噂によく聞いていた。

 ファンデに仕える兵士を訓練する場所。

 屈強な戦士の集う場所。

 厳しく男臭い戦場のような場所。

 

 

 だが、拾われた『傭兵村』の人々は優しかった。

 なかでも、ガラという女性はまるで母のように優しく接してくれた。

 最初は本当の両親のもとに帰るのが筋だと諭そうとしていたが、エノの『帰りたくない』という強い気持ちと、『強くなりたい』という気迫に押され、やがて自分の子の様に世話をするようになった。

 ふくよかなカラダは、エノの母には無かった暖かさを与えてくれた。

 4人も居る子供達を見つめ しつける姿からは、母としての強さを教えてくれた。

 そんな姿を目の当たりにしながら、エノはここ『傭兵村』での生活に慣れ親しんでいくのだった。

 

 15歳を過ぎる頃、エノはガラの隣家に住み、生活を始めた。

 それも、エノが自分で決めたことだった。

 

 ガラも他の人々も、エノの芯の強さには一目置いている。

 だから、全ての世話を焼くのではなく、遠くから見守ることにしたのだった。

 村の人々と助け合って生活する楽しさや嬉しさに包まれ、エノはスクスクと育った。

 

 兵士としての訓練は厳しいものだったが、エノは負けずに立ち向かった。

 自分より何倍も大きい男達に囲まれ、メキメキと風格も伴っていった。

 素早さで言えば、一番だと言ってもいいほどに、力も付いた。

 

 18歳を過ぎる頃になると、一人前の兵士としての道を着実に進んでいた。

 だが、エノの中にとりわけ 目標などというものはなかった。

 ただ漠然と、このまま兵士として過ごして行くんだろうな、という思いでいた。

 

 

 

 

 そんな事を考えながら家の中に入ると、ランプに火を灯した。

 普段は、月明かりだけでも充分生活は出来る。

 

 エノはテーブルの上に、今日の報酬を並べた。

 まだ金銭の価値はあまり分からない。

 大抵の食料や生活品はガラおばさんと共同か、近所の人々が分け合っているので、ほぼ自給自足なのだ。

 でも目の前にある金貨や紙幣が、自分の初仕事した稼ぎ。

 そう思うと、やはり嬉しさがこみ上げてきた。

 

 

 

 その時だった。

「エノちゃん」

 ガラがドアを開けた。

 ココの人たちは、家に施錠をしない。

 それが普通だったので、エノも特に驚くことなく、その声に振り向いた。

「どうしたんです?」

 

 大きな体を揺らしながら中に入ってくると、ガラはテーブルの上にかごを置いた。

「お帰り。 怪我もなく無事に帰ってきてくれてよかったわ。 これ、裏の畑で取れたから、食べて」

 かごには、大きな芋がゴロゴロと入っていた。

「あ……ありがとう!」

 エノはニッコリと微笑んだ。

 

 ガラは

「今日はしっかり休むのよ」

 と、満足げに帰っていった。

 家を出て行ったのを確かめると、エノは深く長いため息をついた。

 

 

 

 はぁ~~~~……

 

 

 

 エノは何でもこなしたが、唯一、料理だけは苦手だった。

 焼くだけでも何度失敗しているか……

 

 できるなら、料理したものを頂きたかったが、そんなことも言えず、しばらく大きな芋を前に途方にくれていた。

 


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