報酬
夕刻になって我が家に着いたシン御一行。
出迎えたのは、両親と召使たちだった。
ジャックはお疲れ顔で馬車から降りるシンを迎えながら言った。
「ご苦労だったな。どうだった、カナイは?」
シンはなんとか笑顔を返しながらジャックの元へ歩を進めた。
「元気そうだったよ。 一番 飲んでた」
「ハハハ! あいつらしいな」
その横からユキナも笑顔で迎えた。
「さ、長旅お疲れ様。 ゆっくり休みなさいな」
そんな会話をしながら中へ入っていく家人を見送るエノ。
その横顔はどこかしら寂しげに見えた。
ソルドはエノの肩をポンと叩くと、帰り支度へとうながした。
素直に従い、エノは馬の元へと走った。
すぐに扉が開き、シンが戻ってきた。
そして、待機していたソルドに今回の報酬を渡した。
いつも日払いでソルドが受け取り、メンバーそれぞれに配るのである。
「今日もご苦労様。 また、頼むよ」
「ありがとうございます」
深々と一礼するソルド。
いつもはそれで仕事終了なのだが……
シンはソルドに尋ねた。
「エノは、まだ居るかい?」
ソルドはくるっと後ろを振り向くと言った。
「彼女なら……」
エノは少し離れた場所で、自分の馬に水分を取らせていた。
茶色の背から馬具が取り除かれると、馬もホッとしたように いななくのだった。
その様子を嬉しそうに見つめ、エノはそのカラダをさすった。
「フフフ…… シファー お前はハダカの方が好きだものね」
思えば一緒に訓練を積んできたシファーは、兄弟のようなものだった。
何事も無く初仕事を終えられたことに、エノは満足だった。
そんなエノの背後に人影が近づいた。
「?」
振り向くと、シンがそこに居た。
「! シン様!? どうなさったのですか?」
驚くエノに、シンは懐から小さな包みを取り出し、差し出した。
「? これは?」
戸惑うエノを前に、シンは微笑んだ。
「ハンカチを貸してくれたお礼に。 取っておいてくれ」
エノは驚いて、包みを押し返した。
包みの中で、チャリンと音がする。
「! これは、戴けません!!」
「そんな……」
シンは戸惑った。
てっきり、喜んで受け取ってくれると思っていたからだ。
「シン様。 私がハンカチを取り出したのは、何か見返りを期待していたわけではありません」
エノは困り顔でシンを見ていた。
彼もまた困り顔でエノを見つめるので、少し考えると言った。
「ですが……どうしてもと言うなら……私に渡したつもりで、他の貧しく困っている方たちにお使いください。 私には必要ありませんから」
エノは補うつもりでニッコリと微笑んだ。
シンは手の中の包みを見つめ、そしてまたエノを見た。
「そうか。 分かったよ。 君はとても出来た人だ」
と納得したように微笑んだ。
エノは何も言わず、首を横に振っただけだった。
ソルドたちは『傭兵村』へ帰還した。
馬を戻し、疲れを癒すためにそれぞれの家へ戻っていくなか、エノもまた、暗い夜道を自分の家へと歩いていった。
初めての仕事は、精神的にも肉体的にも負担が大きかった。
戦に出なかったことだけが、幸いだったのかもしれない。
『今夜はよく眠れるかな……』
そんな事を思いながら 星が煌く夜空を見上げ、1人で住む家へと戻っていった。