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思想の違い……そして別れ

 

「広場で君を見つけた時は、目を疑ったよ。 しばらく声を掛けられなかった……」

 黙って聞いていたエノが、やっと口を開いた。

「シン様。 私はもう大丈夫です。 だから、これからはファンデの跡取りとして、世の中をまとめ上げてください」

 エノの瞳は、シンに仕えていた時の輝きを放っていた。

「私の願いは、シン様の幸せですから。」

 

 

 その時、今まで黙っていたアルザスが立ち上がった。

「ふざけるな! 何が幸せだ! 何が家の為だ! あんたたち、おかしいよ!」

 

 驚いて彼を見上げていた2人は、やがて真顔になった。

「アルザス。 これは、私達に架せられた宿命。 決して破ることは出来ないの」

 エノは真っ直ぐにアルザスを見つめていた。

 彼はその目線に耐えられなくなったように視線を外した。

 今まで知らなかったエノの真剣なまなざしだった。

「だけど……庶民のオレには分からないけど……そんな考え方、おかしいんだよ」

 シンは黙って立ち上がった。

 その背中を、心配げにエノが見送った。

 

「確かに、あなたには分からないだろう……でも、私達はそうやって家を繋いできている。 エノもそうだ。それぞれの役割を忘れたら、家だけじゃない、国を支えていけないんだ。 私は、エノに礼を言いたくて、もう一度どうしても会いたかった」

「?」

 不思議そうに見つめるエノに、シンは優しく微笑んだ。

 

「そう、目覚めさせてくれたのは、エノだから。 未熟な私を一番近くで見ていて、そして、諭してくれた」

 エノは黙って首を横に振った。

 アルザスは歯噛みしながらうつむいていた。

「エノ、私は君にひどいことをした。 殺されても良いと思っている。 それでも、会いたかった」

 

 

「それが矛盾してるって言うんだ!」

 アルザスは声を荒げた。

「家を守る宿命を受け入れたのなら、それを突き通せばいいだろう! エノに会う事だって、あきらめたんじゃないのか? その為に、ドラン家との婚姻を決めたんだろう? 男として、その態度はどうかと思うぜ!」

「ちょっとアルザス、言いすぎ……」

 立ち上がるエノに今度は言った。

「エノもエノだ! それだけひどいことをされて、恨んでないわけはないだろう? オレは君の怪我をこの目で診て知ってる! 君は死にかけてたんだぞ!」

 そして、シンに向かって言った。

「オレは、男としてあなたに話してる。身分どうのじゃなくてな!」

 

 しかしシンは驚くほど冷静に見えた。

 怒りに震えるアルザスを、微動だにせずしっかりと見据えていた。

 10歳程も年下の身であるにも関わらず、堂々とした姿だった。

 

「男は、女を守る為に生きるもんだと思ってる」

 アルザスはシンを見据えた。

 シンはため息をついた。

「あぁ……私は本当に情けない男だ」

 

 エノはやっとの思いで口を開いた。

「私は……私は、シン様の事を恨んでなんかいません!」

 シンは悲しそうにエノを見た。

「私はただ、シン様に幸せになって欲しいだけ。 シン様を守るのは、私の役目だったから」

 

 

「エノ……君は……」

 アルザスは大きくため息をついた。

「シン様よ。 やっぱりオレは、庶民でしかないみたいだな。 ……貴族も兵士もツラいもんだな」

 アルザスの怒りが治まったようで、エノはホッとした。

 

 

 その様子を見て、シンは帽子を被った。 彼の顔が隠れた。

「アルザス、彼女を頼む。 ……私が出来るのは、もうこれぐらいしか……」

 そのまま去ろうとするシンの背にエノが声を掛けた。

「シン様…… お願いがあります!」

 シンは振り返るとエノを見た。

「私に出来ることがあれば。」

 エノは言葉を詰まらせながら、思いを伝えた。

 

「あの……皆に……『傭兵村』の皆に、私は生きていると、伝えて下さい。 そしてもう……帰ることは無いということも……」

 

 シンは悲しそうにエノを見つめた。 その気持ちが痛いほど分かっていた。

「あぁ、分かった。 伝えておくよ」

 そう言うと、シンは踵を返した。

「シン様!」

 エノの再びの声に立ち止まったが、今度は振り返らなかった。

 

 

「お元気で!!」

 

 

 シンはそのまま立ち尽くし、何も言わずに帽子を深く被った。

 そして、暗闇の中へと歩を進めた。

 闇の中へと消えていこうとするシンの背中を、2人はじっと見つめていた。

 

 

「シン!!」

 

 アルザスの声が、再びシンを立ち止まらせた。

 そして振り返ったが、もうその表情は暗がりと帽子で見えなかった。

 構わず、アルザスの言葉が続いた。

「オレはエノの主治医だ。 安心して、任せておけ!」

 闇の向こうで、シンが微笑んだような気がした。

 

 


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