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広場にて

 昼過ぎ。

 エノは町の小路を歩いていた。 というより、歩かされていた。

 かなり強く断ったが、

「せっかく包帯も取れたし、動いておかないと体が固まっちまうぞ。 それに、今日は特別な日なんだ。 君も見に行ったらいい。 きっと驚くから」

 どうせ嫌だと言っても聞かないだろうと観念して、渋々ついていくことにした。

 

 

 町の一角に建つアルザスの診療所を出ると、石畳の小路を軽快に歩いて行く彼の後をついて歩いた。

 カラダの傷は、動くと服に擦れてむずがゆかった。

 服はアルザスから借りたので、袖をまくり、少し着崩した感じで収まった。

『知った顔に会わないだろうか……』

 という不安もあり、髪の毛を顔にかけたり、襟を立てたりしてみた。

 そして、まだ不自由なカラダに内心イラつきながら、彼からはぐれないように追った。

 何しろ初めての町を歩くのだ。

 右も左も分からない。

 

 木やレンガで出来た建物が並ぶ隙間を縫うように小路が入り組んでいる。

 さほど高くない建物群を包むように、青空から陽が注ぎ、町は暖かく輝いているようだった。

 歩いていると、あちこちから人々が集まってきた。

 皆、同じ所へ向かっているようで、笑顔や笑い声が飛び交っている。

 

「あら、アルザス先生」

 年配の女性に声を掛けられたアルザスは、そちらの方へ視線を移した。

「おや、カミおばあちゃん。 しばらくみないと思ったら、元気そうじゃないの」

 カミおばあちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「ええ、おかげさまで。 この日に間に合って良かったわ」

「そうだね。 また元気 貰っちゃってよ」

 楽しそうに笑いあう2人を見つめるエノ。

『一体 何があるの?』

 

 

 

 目の前が急に開けた。

 小路と同じく石畳が敷き詰められた広場には、大勢の人々が集まり始めていた。

 所々に花壇があり、石色に彩りを添えている。

「遅いくらいだったな……」

 しまったという顔をしながらつぶやくと、アルザスはエノの手をひいた。

「!?」

 驚くエノをそのままに、

「よく見えるところへ行こう!」

 と言うと、強引に人込みの中へ入って行く。

 

「ちょ……っ!」

 

 アルザスの力は意外に強く、エノは人々にぶつかりながらついて行くしかなかった。

「はあっ!」

 その力が緩み、一息つくエノの前には、少し開けた空間があった。

 一番前までは行けなかったが、拝むには充分な位置だった。

 高さ1メートルほどの台座が設置してあり、それを囲むように人々が何かを待っているようだった。

 台座の周りには、警護と見られる兵士が数人立っている。

 

 

「ねぇ、何が始まるの?」

 やっと言えた質問に、アルザスは片目をつぶって微笑んだ。

「もうすぐだよ。 見てな」

「なによ!」

 今の自分には、何に対しても何の興味も好奇心もないというのに。

 エノは慣れない人混みに気分が悪くなってきた。

 

 その時、人々がざわつき始めた。

 ざわつきは次第に大きくなり、エノは少し怖くなった。

 これだけの人々の高揚を感じるのは、生まれて初めてだ。

 台座から伸びる花道を凝視する人々に習って、エノもそのほうを見た。

 

 

 やがて、重々しい足音と、馬の蹄の音が聞こえてきた。

 誰かが来る……

 

 

 2人の兵士がゆっくりと歩き、台座の両脇に立った。

 そして、その後ろにドラン家の主人:オレンが馬に乗り、やってきた。

 降りると台座へと上がり、集まっている民衆達を満足そうに見回した。

 

 すぐに、きれいな顔立ちの茶馬がエノの目の前を通った。

 周囲から、ため息のような感嘆の声が漏れ始めた。

「あの方がドラン家の一人娘、ディア様だ」

 アルザスが説明したが、エノは彼女をよく知っている。

 一瞬、眩暈を感じた。


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