最後の思いを……
所々にある蝋燭の明かりが、心細く床を照らしていた。
あまり長くない螺旋階段を駆け下りると、小さな小部屋に出た。
「シン様! ここはダメです!」
そこに居た兵士が驚いて外へ押し戻そうとした。
「どけ!」
シンは兵士を突き飛ばし、周りを見回した。
兵士は仲間を呼ぶためにか、階段を駆け上がっていった。
薄闇のなか目を凝らすと、牢屋風の鉄格子が見え、その奥に人影を見つけた。
「! エノ!!」
エノは力なく冷たい石床に横たわっていた。
うつ伏せになった彼女の背中は、衣服が無残にも切り裂かれ、痛々しいほどの無数の傷と、血液で真っ赤だった。
シンの鼻を鉄の匂いが突いた。それは正しく、血液の匂い……
「エノ! エノ!!」
天井からはロープが吊られ、エノの両腕には、そのロープの痕らしき赤いキズがついている。
「ひどいことを…… エノ!」
何度も呼ばれ、エノはやっと意識を取り戻し、顔を動かした。
その瞳はシンを捉えたが、彼女はそれ以上動けなかった。
「エノ! すぐに助けてやるから!」
シンは懸命に牢屋の鍵を探していた。
「シ……シン様……! うっ!」
痛みに耐えながら起き上がると、鉄格子に手を掛けた。
「シン様……私の事は……」
「エノ、しゃべるな! すぐ助ける! 動かないで!」
どこにも鍵は見つからず、苛立つシン。
『兵士が持っているのか?』
エノは、振り絞るように声を出した。
「シン様…… もう、私の事は、忘れてください……」
「エノ! 何言ってる!?」
思わず駆け寄り、シンはその指に触れた。
冷たい指先が、シンを身震いさせた。
エノは、必死に彼を見つめた。
「シン様は、新しい道を歩んでください…… ファンデ家の為、民の為……そして……」
精一杯の笑顔で言った。
「私の為に……」
「……エノ……」
シンは何も答えられなかった。
「幸せになってくださいね、どうか、幸せに……」
その時、兵士たちがバタバタと駆け下りてきて、シンを鉄格子から引き離した。
「エノ! エノーーーーッ!」
シンは兵士に引きずられ、地下室から連れ出されていった。
残されたエノは、自分の名前を呼び続ける声を聞きながら、再び気を失い倒れた。
『良かった……最後の想いを……伝えられた……』