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ファンデの兵士

 

 海から程遠い大陸の奥深く……

 緑の生い茂った森に囲まれた小さな国。

 名をファンデ国という。

 

 

 この国、貴族が領地として統括していた。

 主:ジャック・C・ファンデは、45代目としてファンデの繁栄を見守っていた。

 人々には、厳格な人物として知られていた。

 長身に広い肩、口の周りには綺麗に整えられたヒゲ。

 小さく切れ長な黒い瞳には、真っ直ぐな性格があらわれていた。

 

 

 その妻:ユキナ・カイ・ファンデは隣国カイから嫁いできた。ジャックの厳格さに憧れ、ファンデ家の繁栄を共に願っていた。 普段は物静かだが、自分の意見はしっかりと伝える聡明な人物だ。

 華奢な体は病的なほど白く、金髪の緩いカールロングヘアーがいつも軽やか。

 その笑顔にはどこかしら冷たい印象もあるが、決して冷徹ではないということを誤解しないよう、あらかじめここに記しておこう。

 

 

 

 ファンデの豪邸は小高い丘の上に建ち、それはまるで麓の町を見下ろしているようだった。

 

 彼らは外交と称して 時折舞踏会やパーティーを開いては、その散財ぶりを町民に知らしめていた。

 町の人はそれを見て、ファンデ国の豊かさを確認した。

 

 

 遠出をする時には兵を雇い、いつも数名に護衛させていた。

 その為の『傭兵村ヨウヘイムラ』と呼ばれる集落も抱えていた。

 屋敷からほど近い森の中、その小さな集落には20ほどの住居と馬小屋が2棟並び、その中央には稽古場にも使用される広場がある。

 兵士として訓練されている者たちとその家族が、あまり俗世間と関わる事無く住んでいた。全部で30人程の『傭兵村』の住人は結束も固く、ファンデの為に生きる役目を心に誓っている者ばかりだった。

 ほとんどの者が自分から志願して集まってきた経歴を持っているので、皆 愛国心は人一倍あるのだった。

 

 

 彼らは、ファンデ国の為にしか動かない。

 加えて言うなら、ファンデ国の為に生きている。

 

 

 今日もまた、ファンデの者が隣国へと用があるというので、早速『傭兵村』から数名が集められた。

 

 

 大将のソルド。

 いつもリーダーとして指揮を司る。

 常に『傭兵村』や国の事を思い、最善の方法を速く正確に弾き出す。

 その頼りがいある所からか、皆に慕われている。

 その歳43。

 まだまだ働き盛りである。

 

 

 ソルドは屈強そうな者だけでなく、軽量でスピードを持っている者もバランスよく配備する。

 今回、彼は1人の新人をデビューさせた。

 

 

「エノ。 今日からプロとしての仕事をこなしてもらう」

 ソルドの前に集まっているメンバーの前についっと姿を現したのは、なんとも小柄な少女だった。

 細身の体に簡単な服装をしているため、一見すると普通の民としても充分通用するような風貌をしている。

 

 

「まだ、早いんじゃないか?」

 いぶかしがるメンバーのひとり、ラゴー。

 鍛え上げられた胸板が印象的な、パワー重視の兵である。

 不満そうなラゴーに、ソルドは真っ直ぐに答えた。

 

「エノはもうすぐ20歳になる。 充分な大人だ。 それに彼女の実力は、お前もよく知っているだろう?」

 ソルドの自信に溢れた表情に、ラゴーも口を閉じた。

 

 

『傭兵村』の人々は皆が集まって協力し合いながら戦い方を学んだり、カラダを鍛えたりしているので、知らない人物などいない。

 だから、当然ラゴーもエノのことは充分知っている。

 ただ、ラゴーから見たら10歳も年下の彼女は、ただの子供にしか思えないのだ。

 

 ソルドが言うとおり、実力は充分にあると知りながら……

 

 

 エノは黙って、ジッとその様子を見つめていた。

 自分が出る幕ではないと、直感で分かっていた。

 それに、まだまだ不安と恐怖が心に巣食っていることも、表に出すまいと必死だった。

 初めての仕事……

『兵』と名が付いているのだから、危険が伴うということは耳にタコができるほどにソルドから教えられた。

 何人も、目の前で絶命するのを見てきたことも。

 

 それを再び思い返しながら、改めて自分の背負った使命に気を引き締めた。

 

 そんな緊迫した空気を察知したのか、ソルドはエノを見下ろして言った。

「エノ。 今回の仕事は、隣国まで護衛するだけだ。 よほどのことが無い限り、危険は無いだろう。 だが……」

「油断するな、でしょ?」

 エノはニッコリと笑ってみせた。

 ソルドはそんなエノの頭をグリグリッと押さえるように撫でた。

「そうだ」

 


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