9 冒険者の家系
「挨拶が遅れたわね。あたしはバーケンシャス家の長女マッキィナよ」
マッキィナは腰に手を当ててふんぞり返りながら挨拶してくれた。
「私はリンナ。よろしくね」
「ひゅいい!」
ビビってば、金の縦ロールで遊びたそうにしている。
オモチャじゃないぞー。
「バーケンシャス家と言えば、お師様も聞いたことくらいあるでしょ?」
「あるかも」
たしか、元々は平民だったけど、冒険者としての功績を認められて爵位を授かった家系だったはず。
成り上がり貴族の代名詞として、宮でもよく引き合いに出されていた。
主に、悪い意味で。
宮の貴族は根暗だからね。
「バーケンシャス家は冒険者の家系なの! 貴族になった今でもそれは変わらないわ! Sランク以上の冒険者にならないと家督を継ぐこともできないんだから! どう? 厳しいでしょ?」
マッキィナはとても誇らしそうに胸を張っている。
「なるほどね。それで、実績を作りたいって言っていたのか」
「そうよ! バーケンシャス家に生まれた子は15になると、みんな家を追い出されるのよ! Bランク以上になるまで帰宅すら許されないんだから! すごいでしょ!」
すごい。
すごい可哀想。
厳しすぎて。
同情する。
「あたしはSランクどころか最上位のトリプルSランク冒険者になるつもりよ! そのために、あんた! あたしのお師様になりなさいよ! あんたも嬉しいでしょ? あたしのお師様になれるんだから!」
マッキィナは終始自信に満ちあふれた顔で、ものすごく尊大に胸を張っている。
その自信、私に少し分けとくれよ。
「師匠になるかどうかはともかくさ。少しくらいならアドバイスできるかもね」
私はため息まじりにそう返した。
マッキィナったら、素人の私から見てもひどいんだもの。
「アドバイス! そういうのが欲しかったのよ! 早くしなさいよ! いくらでも聴いてやるわよ!」
「まず、その大きな声で話すのやめなさい。魔物がどんどん引き寄せられるから」
言ったそばから土砂を乗り越えて骸骨兵団がやってくる。
「あのスケルトンども、やたらあたしばかり狙ってくると思ったら、そういうことだったのね! さっすがお師様だわ! ……あっ、シーだったわね」
意外と聞き分けがいいじゃないか。
私はスケルトンをカッ飛ばしつつ、もう一つアドバイスする。
「その鎧も脱ぎなさい。動きにくくなるくらいなら着ないほうがマシだよ」
「わかったわ、お師様!」
言うが早いかマッキィナは脱皮して、脱ぎたてホヤホヤの鎧をスケルトンたちに投げつけた。
ガッチャーン。
見事に一網打尽だった。
「こう使うのが正解だったのね!」
それは違うと思う。
「ほかには!? お師様、ほかには!?」
「そうだねぇ。その無駄に長い髪も短くしたほうがいいかな」
「はい、お師様!」
「今、何か結ぶものを――」
私は自分の胸当てから飾り紐を抜き取った。
それをマッキィナに差し出したわけだけど、彼女の髪はなぜかもう短くなっていた。
手にはナイフ。
足元には縦ロールが落ちている。
「え……」
「ひゅぃ……」
私とビビは特大の氷魔法をくらったみたいに固まった。
「な、何があったの!?」
「切ったわ! だって、お師様の言いつけだもの!」
マッキィナは太陽みたいな笑顔だった。
そっか。
切ったか。
切ってしまったか。
こういう思い切りのよさが将来、大物冒険者に繋がっていくのかも。
うん。
「でも、スッキリしたね。そっちのほうが似合っているよ?」
「あたしもこっちのほうがいいわ! 動きやすいもの! さっすがあたしのお師様ね!」
私の手から受け取った飾り紐をサッと結びつけて、マッキィナはニカッと笑った。
面白い子だね。
「さて、付き添いの二人も心配していたし、地上に帰ろうか」
「えー……」
「師匠命令は絶対だぞ」
「そんなの、つまんないわよぉ……」
とは言うものの、だ。
崩落で来た道が塞がってしまったから、迂回路を探すしかないね。
「ビビ、帰り道わかる?」
「ひゅぁん!」
小さな翼でパタパタしながら、ビビは尻尾で下のほうを指している。
「危険だけど、一度、下層に下りるしかないか」
「いやったああああ!」
「はぁ……」
「ひゅぃ……」
喜んだのはもちろんマッキィナだけだった。
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