8 不動の要塞!?
マッキィナを捜して第4層まで下りてきた。
付き添いの二人はAランク冒険者らしい。
『紫炎の回廊』にも何度か潜ったことがあるそうだ。
心強い。
水先案内は任せてもいいかな?
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「リンナさん、もう少しペース落としてくださいよ……」
案内してほしいのに二人はなぜか後ろにいる。
私の後ろを青息吐息でなんとかついてきている感じだ。
「二人とも、遅いよ?」
「お、遅いって。これでも飛ばしているほうだが!?」
「リンナさんが速すぎるんですよ……。罠も魔物もひと掃きだし、体力無尽蔵だし、ついでに掃除する余裕があるなんてどうなってんすか……!」
どうもこうも罠ごと掃除しながら進んだほうが安全なだけだ。
たまに出くわすスケルトンもホウキで叩くだけでバラバラになるし。
今、中層と呼ばれる領域らしい。
上位の冒険者でも攻略には細心の注意が必要な場所だとか。
でも、全然大したことないね。
ダバババババッ、って感じでわたしが何もかもホウキで綺麗にしている。
「先行ってるね」
急がないとマッキィナが危ない。
上位の冒険者のくせして掃除係の私についてくるのがやっとな二人とはここでお別れだ。
「あれはダンジョン清掃員じゃないな。ダンジョンの掃除屋だ」
「ああ、殺し屋的な意味でな。リンナさんの歩いた道には文字通り塵ひとつ残らないぞ」
二人のそんな声を背中で聞きながら、下へ下へと下りていく。
「ひゅい!」
第7層まで来たところで、ビビがスイーっと飛んでいった。
掃除しながらついていってみると、爆音が聞こえてきた。
「いい加減にしなさい! あんたたち、しつこいのよ! ――『火爆掌』!」
金の鎧がスケルトンの群れに囲まれている。
マッキィナだ。
魔法で牽制しながら、なんとか距離を作ろうとしているみたい。
だけど鎧が邪魔で思うように動けないようだ。
サイズがまったく合っていないんだよね。
あれじゃ鎧に潜って遊んでいる子供だ。
でも、鎧のおかげでスケルトンの剣も通らない。
一見すると、不動の要塞である。
賢いのか、おバカなのかわからない戦法だね。
「きゃ……!?」
マッキィナが転んだ。
ヘルムが転がっていく。
弱点が剥き出しだ。
「あ、あれ!? う、動けないじゃないの……!」
ひっくり返った亀みたいにジタバタするマッキィナに、スケルトンが剣を振り下ろして――
「させるか!」
私はホウキをフルスイングした。
突風で骨人間たちは吹っ飛んでいった。
「マッキィナ、大丈夫?」
「誰よあんた! 助けなんていらないわよ! あたしの邪魔する奴はみんなバカよ! バカホウキ!」
なんかすごいケンケンしているなぁ。
バカホウキって1000年生きて初めて言われたんですけど。
チャカ、カタカタ――。
バラバラになっていた骨がデタラメに組み合わさって、ひとかたまりになった。
骨のバケモノだ。
「あんたと同じことくらい、あたしにだってできるわよ!」
マッキィナは杖を構えた。
「灼熱の巨人をここに! 荒ぶる拳は燃え盛る槌! 打ち据えよ、大いなる紅をもって裁きの意思を示せ!」
杖の先で真っ赤な火の玉が膨れ上がった。
石の天井が熱波で黒ずんでいく。
「どう? これが上級魔法よ! あたしは適性ダブルSの魔術師なんだから!」
おー、すごい。
たしかに、魔法の才能は光るものがあるようだ。
でも、マッキィナさ。
そんな強力な魔法、こんな狭いところでぶっぱなしたりしないよね?
さすがに、しないか。
「喰らいなさい! ――『紅蓮爆炎拳』!」
やりやがったぁぁ……!!?
ドガアアアアアンン、と大爆発。
耳がキーンとする。
天井が土砂降りになってバケモノ・スケルトンを押し潰した。
それで終わればよかったんだけどね。
崩落の範囲はどんどん広がっていく。
落ちてきた石材が脱げたヘルムをゴシャア、と潰した。
「きゅあああ! た、助けなさいよ、あんたぁ! うわあああ……!」
マッキィナが半べそで泣きついてきた。
手のかかるお嬢様だ。
私は頭上に『ゴミ捨て用転移門』の入口を開いた。
土砂の雨が全部呑み込まれて転送されていく。
しばらく丸くなっていると、雨はやんだ。
「後先考えずにぶっぱなさないの!」
ホウキの柄でポカッと脳天を叩くと、マッキィナはしゅんとして下を向いてしまった。
「うぅ、死ぬかと思ったわ……」
こっちのセリフだ。
「おかしいわ。あたしは才能があるから、すごい冒険者になれるってみんな口を揃えて言っていたのに。A級ダンジョンなんて屁の河童のはずなのに……」
「どんな大樹も最初の10年は頼りないものだよ? 人生は積み重ねが大事なんだ」
私はそう言って金の頭を撫でてやった。
涙で濡れた目が私をジトーっと見つめてくる。
「お師様……」
なんだって?
「あんた、あたしの師匠になりなさいよ。すっごい冒険者なんでしょ?」
違うけど?
駆け出しの清掃員だよ?
「あたしは貴族令嬢だから、誰もあたしを怒ってくれないのよ。ポカッとされたのも初めて。あんたがお師様なら、あたしも成長できるはずだわ」
マッキィナの目は至って真剣だった。
テコでぶん殴られても引かないぞって顔してる。
貴族家の娘がちょっと冒険者に憧れて、なんとなくダンジョンにやってきたのかと思っていたけど。
もしかして、何か事情ありげ?
「あたしのお師様になりなさいよ!」
「その前に、事情を説明しなさいよ」
マッキィナは尊敬の念を込めたキラキラの瞳で見つめてくるので、私はちょっと照れくさかった。
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