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7 転移魔法陣


 長い階段を掃除しながら下りていき、第2層に到着。

 踏み出した最初の1歩が何かを踏んだ。


 パキ――ッ。


 小枝かな、と思って下を見ると、骸骨と目が合った。

 私が踏んだのは骨だったってわけさ。


「ひゅいいいいいい!?」


 私の代わりにビビが悲鳴を上げてくれたので、私は絶叫せずにすんだ。

 ありがとね。


「これ、魔物の骨だね」


「ひゅい」


 たしか、遺跡系のダンジョンにはスケルトンみたいな魔物が多いんだっけ。

 冒険者手帳にそう書いてあった。

 第1層では出くわさなかったけど、ここからは魔物もアリなんだろうな。


 ダンジョンは深いところほど強い魔物がいるらしい。

 油断大敵でいかないと。


「ビビは見張りね。私を掃除に専念させてくれ」


「ひゅぃひゅぃ!」


 ビビは甘えっ子な表情を浮かべて物欲しそうな目で見つめてきた。


「もしかして、りんご?」


「ひゅいっ!」


 目がキラキラした。

 当たりらしい。

 お駄賃の前払いを要求するとは、この龍精霊なかなか図太いね。

 ちょっと待ってな。


 ごそごそ……。

 亜空間ポーチからりんごを1つ取り出してやると、ビビは大喜びで哨戒任務についてくれた。


 よぉーし、それではお掃除タイムの始――


「嫌よ! あたしが行くと言ったら行くの! そういう決まりなの!」


 すっごくわがままそうな女の子の声が聞こえてきた。


「し、しかし、お嬢様。この先の第3層は危険でして。さすがのお嬢様でもちょっと……」


「ちょっとなんだってのよ!? あたしはダンジョンなんて怖くないわ! あんたたちとは違うんだからね!」


 廊下の角からひょっこり覗いてみると、3人の冒険者が目に付いた。

 なんか一人、変なのがいるな。

 金の全身鎧だ。

 それも、ヘルムの隙間から金色の縦ロールがハミ出している。

 ちんちくりんだ。


「あたしはトップランカーにならなきゃいけないのよ! 実績を作らないといけないの!」


 この声にあの鎧……。

 中の人は昨日、冒険者通りで見かけたわがままお嬢様みたいだ。

 たしか、マッキィナって呼ばれていたっけ。


「焦る気持ちはわかりますが、お嬢様、何事も順序というものがありまして」


「まずは、浅い層でダンジョンに慣れてからにいたしませんか?」


 付き人らしき二人が必死に説得している。

 でも、マッキィナは聞く耳持たずだった。


「もういいわ! あたし一人で十分よ! あんたたちはもう帰りなさい!」


 そう言うと、マッキィナはぶかぶかの鎧を引きずるようにしてガチャコン、ガチャコンと歩き始めた。


 そして、――ひゅん!


 その鎧姿が突然消えた。

 跡形もなく。

 ひゅんって。


「し、しまった! 転移の罠だ!」


「すぐにオレたちも飛ぶぞ! 転移魔法陣はまだ使えるか!?」


「いや、ダメだ。消えてしまった……」


「うそだろ。大変だ、お嬢様が行方不明になってしまわれた」


「困りごとなら手を貸すけど?」


 声をかけると、残りの二人はビクっと肩を震わせて振り返った。

 で、言う。


「うぇ!? なんか綺麗になっとる!?」


「お、オレたちも転移したのか!?」


 してない、してない。

 私が掃除しただけだから、慌てないで。


「で、どういう事情?」


 改めて問いただすと、二人はバツの悪そうな顔をした。


「さっきのお方はさる貴族家のご令嬢なんだが、オレたちはその付き添いとしてダンジョンに入ったんだ」


 お嬢様の付き添いか。

 貴族家の子弟がダンジョンに興味を抱くのはよくあることだ。

 歴代の帝も、朕はダンジョンに行きたいのじゃ、とよく家臣たちを困らせていた。


「そんじょそこらのご令嬢と違って、マッキィナお嬢様は確かな魔法の才能をお持ちなんだ。でも……」


「ああ、お嬢様は先日冒険者登録されたばかりのFランカーだ。圧倒的に経験が足りない。このままでは命に関わるぞ」


 そうだよねぇ。

 やっぱり我々新入りはスライムが日向ぼっこしているようなF級ダンジョンから始めるべきだよねぇ。

 こんなA級ダンジョンじゃなくてさ。

 私をここに送り込んだキルティや冒険者ギルドの連中は間違っていると断言できるよ。


「転移先はどこだかわかる?」


「このダンジョンのどこかだとは思うが、『紫炎の回廊』は全10層だ。見つけ出すとなると、2日がかりになるかもしれない」


 それは大変だ。

 あの派手な鎧で2日もうろうろしていたら、絶対100パー魔物に見つかる。

 その後どうなるかは推して知るべしだ。


「私も捜すの手伝うよ」


「そりゃありがたいが、お前ダンジョン清掃の冒険者だろ?」


「こう言っちゃ悪いが、このダンジョンは清掃員風情に攻略できるものじゃねえよ」


 清掃員風情か。

 言ってくれるね。

 俄然やる気が出てきたよ。

 さすがの私も行方不明者を捜せる清掃魔法は持っていないけど、便利な相棒がいるんだよね。


「ビビ、マッキィナを見つけ出してくれる? お前ならできるよね?」


「ひゅぃ……」


 ビビの意味深な目線が亜空間ポーチに向けられる。

 現金な奴だよ。

 ハイハイ、りんごですよっと。


「ひゅぃぃぃんん!!」


 シャコシャコとかじり終えると、ビビは千の断片になって飛び散った。

 合体を解いて微精霊の群れに戻ったみたいだ。

 打ち上げ花火みたいに四方八方に広がっていく。


「お前、精霊術師だったのか!?」


「信じられねえ。こんな数の精霊を使役するなんて。皇都花火大会かよ……」


 気になったので二人に訊いてみた。


「精霊術師って普通は何匹くらいの精霊を操れるものなの?」


「10匹操れたらすげえほうだよ……」


「お前は一体……いや、あなたは一体何者なんですか」


「ただのお掃除係だけど?」


 私は事もなげにそう答える。

 ちょっとばかしベテランだけどね。


「ひゅぅい!」


 ビビが戻ってきた。


「見つかったんだね」


「ひゅ! ひゅ!」


 長い尻尾が下のほうを指している。

 下層か。


「行ってみよう!」


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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