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6 ダンジョンで初掃除


「キルティ、清掃依頼を受けたいんだけど」


 翌朝。

 私は冒険者ギルドに足を運んでいた。

 キルティは今日もキャピキャピしていて、私を見つけると赤いツインテールを弾ませて駆けてきた。


「おはようございます、リンナさん! リンナさん専用の依頼をご用意していますよ!」


「私専用?」


「はい、専用です! ……というのも、わたし、ギルドマスターから怒られてしまいまして。リンナさんほどの逸材を昇級できない清掃員枠で冒険者登録してしまったので。強引でもいいから一般冒険者で登録しろって大目玉でした……」


 キルティは可哀想なくらい肩を落としてしまっている。

 ギルマス、怖い人なのかな。


「これが、リンナさんへの清掃依頼です!」


 気を取り直して、キルティはジャジャーンと羊皮紙を見せてきた。

 そこにある文字を私は読み上げてみる。


「ふむふむ。A級ダンジョン『紫炎の回廊』の第3層までを掃除せよ、ねぇ」


 ……ん?

 A級ってけっこう上位なんじゃ……。


「そーなんです! A級ダンジョンは、普通は上位の冒険者の付き添いがないと入れない危険な場所ですが、リンナさんだけは特別に入ってもいいですよ! 清掃員枠でも実績さえ積めば一般枠にコンバートできますからね! バシバシ掃除しちゃってください!」


 いや、そんな特別いらないんだけど。

 変な気遣いしちゃってさ。

 駆け出しなんだから易しいところを紹介してほしかったよ。


 キルティは、ほかに紹介できる依頼はありません、と渋い顔をするので、仕方なく受けることにした。


 A級かぁ。

 死なないかなぁ、私。





 地図を見ながら、ダンジョンの入口に向かう。

 驚いたことに、入口は皇都の中にあった。

 さすが迷宮都市だ。


「ダンジョン清掃に来たんだけど」


「清掃だぁ? ここは泣く子も黙る『紫炎の回廊』だぞ? お前みたいな小娘に務まるわけねえだろ。悪いこた言わねえ。けぇんな」


 腕組みした門番が鬼みたいな顔で見下ろしてくる。

 その隣にいたもう一人の門番が私を見てハッとした。


「おい待て。こいつ、適性試験で歴代最高成績を叩き出したって噂のエルフじゃねえか?」


「げっ、馬より速いとか言われているあいつかよ」


 もう町の噂になっているのか。

 まあ、馬と一緒に町内1周すれば目立つよね。


「いちおう、依頼書があるんだけど」


「し、失礼しました。どうぞご自由にお入りください」


「大変失礼いたしやした……ッ!」


 二人揃ってペコペコしている。

 私、ただの駆け出し清掃員なんだけどね。


 鉄門扉くぐり抜けると、石の階段がずっと下のほうまで続いていた。

 風が吹いているわけでもないのに、髪がバタバタ揺れる。


「すごい魔力だね」


「ひゅぃ!」


 さすがA級ダンジョンだ。

 ビビもビビってるっぽい。

 ビビだけに。


 階段を下りた先は遺跡風の廊下だった。

 曲がり角や分岐がたくさんあって迷路みたいだ。


 カビ臭い。

 それに、ほこりっぽい。

 ちょっと動いただけで、ほこりが粉雪みたいに舞い上がる。


「フフフ……!」


 私のお掃除魂が熱く燃えたぎった。

 いっちょ、やってやりますか!


 腕まくりして、お掃除開始。

 掃除の基本は上からだ。

 天井付近に積もった砂ぼこりをホウキで叩いていく。

 粉雪が猛吹雪になった。

 でも、問題ないね。


「重力魔法、発動!」


 私が手をかざすと、舞っていたほこりがビタァァッ、と床に押し付けられた。

 なるべくほこりが舞わないように気を使いながら掃除していたら、いつの間にか使えるようになっていた魔法だ。


 あとは、ホウキでスーイスイ。

 愛用の魔ホウキでひと掃きすれば、隙間にたまった汚れもゴッソリ取れる。


 古いダンジョンだから、積もるものもいっぱいだ。

 階段を駆け上って土石流みたいな量のホコリを掃き出すと、門番の二人が腰を抜かしてしまった。


「これだけ多いとなると、中と外を往復するのはちょっと面倒だね……」


『ゴミ捨て用転移門』を設置するか。

 来る日も来る日もゴミ捨て場まで何往復もしていたら、ある日急に転移魔法を使えるようになったんだよね。

 ゴミだけしか飛ばせないのが玉に瑕。

 便利だからいいけどね。


 ダンジョンの外に転移魔法陣の出口を設置したら、もう一度ダンジョンに潜る。

 ズバババと掃きまくって、集まったゴミは転移魔法陣ゴミばこにドーン。

 あっという間に、第1層は清掃完了だ。


 時間があるからツヤ出しの魔法でピカピカに磨いてっと。


「……ん?」


 床の石材が一つだけ少しズレている。


「はっはーん」


 ピンときた。

 私の掃除係としての勘が告げている。

 ここに、何か隠してあると。


「隠しゴミを見つけ出す魔法、発動――!」


 宮廷には家具の隙間にゴミを隠して捨ててしまう困った人もたくさんいたからね。

 この魔法も自然と身に付いたんだ。


 ぽわ――。


 石材がいくつか光を帯びた。

 たぶん、踏むと起動する罠とかだろう。

 罠はゴミじゃないけど、隠してあるから反応したってことか。


 ホウキで掃くと、罠の反応はなくなった。

 私にトラップ解除の才能があったとはね。

 掃きながら進めば恐るるに足らずだな。


 そうこうしているうちに、第1層はピカピカになった。

 床にゴロンして深呼吸してみる。


「ふはー! 新築の匂いだねぇー!」


「ひゅいっ!」


 ビビも気持ちよさげに床をコロコロしている。

 掃除を終えた後の達成感は何ものにも代え難い。

 心磨きってのは本当だ。


 でも、宮で掃除を始めた頃は大変だった。

 魔法なんて全然使えなかったから、長い廊下を涙目になりながら雑巾がけしていた。

 懐かしい。


 私はこういった掃除用の魔法をまとめて『清掃魔法』と呼んでいる。

 1000年かけて身につけた私の努力の結晶だ。

 これだけは誰にも負ける気がしないんだよね。


「さっ、一休み終了! 次は第2層を攻略キレイにするよ!」


「ひゅぃっ!」


 というわけで、下層に向かった。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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