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4 準備


 冒険者試験に合格した。

 これで、私も冒険者だ。

 ……清掃員だけどね。

 1012歳にして初めての転職活動だったけど、ひとまず安心かな。


「これがリンナさんの冒険者手帳です!」


 キルティから竜革の手帳をもらった。

 表紙の裏には木製のタグが貼られている。

 そして、こう記されていた。


――

 冒険者名:リンナ

 ランク:F(昇級資格なし)

 クラス:精霊術師SSS

 登録地:ヨゴラ

 備考:ダンジョン清掃員

――


「それは、リンナさんの身分を証明するものです。身分証としても使えますよ。ランクアップすれば、銅や銀のタグに変わるんですけど、リンナさんは清掃員ですから……」


 うんうん、それは聞いたよ。

 昇級資格なしってタグにも書いてある。


 キルティは迷うような仕草を見せてから、我慢できないって感じで切り出してきた。


「本当にいいんですか、リンナさん!? ダンジョン清掃の仕事なんかで!」


「なんかって言うなよー。仕事に貴賎はないんだぞ」


「そうですけど、でも……。龍精霊を扱える他の術師さんたちはみんなトップランカーですよ!? ギルド職員の先輩たちもすごい才能なのにもったいないって言ってます!」


 私はどこにでもいる掃除のおばちゃんだよ?

 危険を冒して夢を追いかけようなんて野心はないの。

 トップクラスなのは寿命くらいのものだ。

 特技を活かして地道に仕事できればそれでいいよ。

 正直に言うと、冒険者って危なそうだから遠慮したいですハイ。


「でもぉ……」


 キルティは食い下がりオーラを出している。

 話題を変えよっか。


「ところで、ダンジョン清掃って何をすればいいの?」


「魔物の亡骸を片付けたり、堆積した土砂を運び出したりですけど」


 あー、けっこう重労働だね。

 でも、大事な仕事だと思う。

 亡骸はほうっておくとアンデッド化するし、土砂は通行の妨げになったり有毒ガスを溜め込んでしまったりする。


 私の仕事は、言わばダンジョンの管理人だ。

 カッコイイじゃん。


「危険度の高いダンジョンほど報酬金も上がります。でも、清掃員の報酬は低いので、ダンジョン内で入手した魔石なんかを換金するといいですよ」


 そこらへんは一般冒険者と同じなのか。


「本当にダンジョン清掃でいいんですか?」


 キルティも他のギルド職員たちももったいなさそうな顔で見つめてくる。


「いいんだよ」


 私の天職は掃除係だからね。

 1000年続けてきた仕事を今更変えたりしないよ。

 私が掃除をやめるのは、この世界からゴミがなくなったときだけだね。





 さて、冒険……いや、掃除の始まりだ。

 今日はしっかり準備して、明日から本格始動しよう。


 というわけで、冒険者通りにやってきた。

 来るのは初めてだ。

 皇都で一番賑やかな場所だって何百年か前に聞いたことがあるけど、今もそうみたいだ。

 武具や登攀用具なんかがうずたかく積まれていて、冒険者たちでごった返している。


 私は何を買おうかなっと。

 ホウキ1本でたいていの場所は掃除できるけど、魔物と出くわすと怖いしなぁ。

 いちおう、胸当てだけでも装備しておこうか。


 身軽なほうがいいから亜空間ポーチも買っちゃおう。

 見た目以上にモノを収容できる小型ポーチだ。

 かなり高いけど、私の人生は長いからいつか元が取れると思う。

 長命種はお得だ。


「ひゅおん! ぴゅーびい!」


 ビビが私の肩の上で暴れている。

 山積みになったりんごを見ているね。


「欲しいの?」


「ひゅい!」


「じゃあ、ビビの給料はりんごだね」


「ひゅいん!」


 一番大きいのを買ってやると、ビビは小さな翼で抱きかかえてシャキシャキ音を立て始めた。

 明日に備えて何個か買っておいてやるか。


「爺や、あたし、この金の鎧がいいわ! 高貴なあたしにピッタリだもの!」


「マッキィナお嬢様、こちらのお品はお嬢様のお体には合っていないと思われますが」


「黙りなさい! あたしがいいと言ったらそれでいいのよ!」


「さ、左様でございますか……」


 なんだか宮務め時代によく聞いた会話が聞こえてきた。

 貴族のボンボンとそれに振り回される従者の会話だ。


 武具屋に飾られた金の全身鎧の前で、ドレスを着た女の子がピョンピョンしている。

 それに合わせて、金色の縦ロールも縮んだり伸びたり。


 あの子も冒険者なのかな?

 あの鎧はどう見ても大柄な成人男性用だ。

 試着せずとも合っていないのは明白だ。

 それに、高貴というよりチープな金メッキだね。

 私はこれでも宮で良品ばかりを目にしてきたから、審美眼には自信があるんだ。


「爺や、早くこれを買いなさい!」


「ま、マッキィナお嬢様、お考え直しを……」


 私も振り回される側だったから、爺やさんには同情だ。

 おっと、今は人の心配なんてしている場合じゃないね。

 私は明日のお掃除に備えないと。


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