表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/39

3 冒険者試験


「それでは、準備はいいですか?」


 体力試験の内容は長距離走だった。

 城壁に沿って皇都を1周する感じだ。


「位置について、よぉーい。――ドン!」


 キルティの号令で一斉にスタート。

 怖い顔した冒険者(志望)たちがダマになって走るので、驚いた街の人が道を開けてくれる。

 私まで強くなった気分だ。


 ちなみに、キルティは馬に乗って併走している。


「すごいですね、リンナさん。一般冒険者志望の方についていけるなんて」


「掃除は体力が命だからね。私はその気になれば1日中だって走れるよ」


 宮は広いからね。

 走っていないと手が回らないのだ。


「それじゃ、わたしは馬で先行します! 皇都を1周してから皆さんを追いかけますから、周回遅れになった人は不合格ですよ! 頑張って走ってください!」


 はーい、と男性陣。

 馬がスピードを上げた。

 私もスピードを上げる。


「ちょ、リンナさん!? なんでこのスピードについてこれるんですか!?」


 キルティは馬の上で目を白黒させている。

 私はニコッと笑って答えた。


「掃除はスピードとの勝負でもあるからね」


「どういうことですかぁ!? ついてこないでくださいよぉ!」


 それは無理な相談だ。

 私はこの試験に落ちたら、もう就職先がないからね。

 全力一本勝負なんだ。


 結局、キルティに併走したまま皇都を1周し、何人かの受験者を追い抜いたところで体力試験は終了した。


「ねえ、キルティ。私、合格?」


「合格です! まごうことなき合格です! なんでウチで一番速い馬がバテてるのに、リンナさんは息ひとつ乱れていないんですか!?」


 キルティはヘバった馬の陰に隠れるようにして恐る恐る私を見ている。

 私は熊か何かか!


「1000年間、毎日朝から晩まで走り回っていたからね、このくらいは余裕だよ」


 さて、次は技能試験だ。





「では、皆さんの得意な攻撃技を見せてください!」


 冒険者ギルドの裏手にある空き地で、キルティはカカシの肩をポンと叩いた。


「これが標的です。罠や魔道具の使用も認めます。魔物を退ける技術があることを証明してください」


 はーい、と元気に返事する男性陣に、キルティはいじわるっ娘な笑みを浮かべてみせた。


「でも、このカカシは特別製で、多重の結界が張られています。並大抵の実力では触ることすらできませんよ? カカシに少しでも傷をつけることができたら合格です。そういえば、過去にはこれを倒した人もいて、その方はSSランク冒険者になったそうです。カッコイイですね!」


 キルティが煽るものだから、主に男性陣はやる気満々だ。


火小弾ファイアボール!」


「秘技、回転斬りッ!」


「火薬玉をくらえ!」


 いろんな技が飛び交っている。

 しかし、火だるまにされても大斧で殴られてもカカシは涼しげな顔で佇んでいる。

 今のところ、合格者は3人に1人ってところかな。

 その合格者ですら彫刻刀でつついたくらいの傷しかつけることができていない。

 けっこう頑丈みたいだ。


「あっ、そうでした!」


 キルティは思い出したように私を見た。


「リンナさんは清掃員ですから、攻撃技能は必要ありませんよ? でも、いちおう試してみますか?」


「そうだね。私も魔物に遭遇するかもしれないし、ちょっとやってみようかな」


 そいつは硬てぇぞ、お前にゃ無理だ、と合格をもらった冒険者たちが冷やかしてくる。


 無理なら無理でいいんだ。

 自分にはできないことがあるって知るのは大切なことだよ。

 いざというとき、戦おうなんて無謀なことを思わずに逃げの一手に専念できるからね。


「私にできる攻撃技と言えば……」


 ホウキで叩くくらいかな。

 私は愛用ホウキを振りかぶった。

 カカシ目掛けて、フルスイング。


 ガッシャアアアア――――ァンンッ!!!


「……うぇ!?」


「は?」


「あ……?」


「おえ!?」


「か、かか、カカシが……」


 あー、ね。

 吹っ飛んでいったね。

 びゅーんって。

 大空の彼方でキラーンとなっている。


 私がホウキをフルスイングしたら、多層結界が全部砕けてカカシがすっ飛んでいった。

 なんとなく、こうなる気はしていたけどね。


「ちょちょ、え!? リンナさん、今何を!?」


 キルティは目が点になっていた。

 私は事もなげにこう答える。


「ホウキで叩いただけだよ?」


 このホウキは500年くらい使っているから、私の魔力が宿って魔道具化しているんだ。

 私が掃きたいと思ったものをなんでも掃き出してくれる。

 宮に入り込んだ魔物を掃除したこともあるから、このくらい朝飯前だ。


「……」


「………………」


「…………」


 キルティも冒険者志望たちも言葉にならないようだった。

 ま、年寄りはいろんな技を持っているものなんだよ。


 ということで、技能試験にも合格した。

 さあ、最後の試験だ。


「水晶玉に触れて、魔力を流し込んでください」


 職業クラス適性試験は地味だった。

 順番に水晶玉に触れて、結果を聞く。

 それだけ。


「すごいですね! 剣士の適性A判定ですよ! 合格です、おめでとうございます!」


「ヒュー、やったぜ! これでオレも冒険者だ!」


「アタシは魔術師適性Bだったよ。もう少しいけると思ったんだけどね」


「俺のタンクCよりマシだろ」


 ここまで来られた時点でみんな何かしらの職業に適性があるみたいだ。

 みんな合格をもらっている。


「さあ、最後にリンナさんの番です」


 合格通知に沸いていた一同がしーんとした。

 私のほうを瞬きもせずに見つめてくる。

 緊張するからやめてくれないかな。


 水晶玉に手を触れる。

 すると、横の石板に光る文字が浮かび上がった。


「せ、精霊術師の適性SSSぅぅ……!?」


 キルティは目を皿にしてツインテールを引っ張っている。

 どういうリアクションだ、それ!?


 適性はSSSからFまでの9段階らしい。

 私には掃除しか取り柄がないと思っていたけど、精霊術師ねぇ。

 宮中にいた微精霊たちに掃除の手伝いをさせているうちに適性が身に付いたのかも。

 塵も積もれば才能となる、だ。

 積もる前に掃いちゃうけどね。


「ひゅぃん!」


 マフラーに徹していたビビが、当然だよって感じで小さな胸を張った。


「リンナさんったら、もう龍精霊を使役しているんですね!」


「あれが龍精霊か。オレ、初めて見たぜ」


「適性トリプルSなんて実在するのね。たしか、100万人に1人とかそれくらいでしょ?」


「未来の大冒険者じゃないか」


 そんなに注目されても困るなぁ。

 私の仕事はダンジョンの掃除係だからね。


「で、キルティ。合格でいいのかな?」


「いや、合格以外にないですよ! リンナさんが合格できないなら誰も冒険者になれませんって!」


 そうみたいだね。

 3項目すべてでトップみたいだし。


「あ、あのリンナさん」


 キルティが困り顔を寄せてきた。


「冒険者の試験ってこういうものなんですかね?」


 と言いますと?


「規格外の試験結果ばかりだし、トリプルSなんて出ちゃうし……。これが普通なんですかね? わたし、経験が浅いからよくわからなくて……」


「うーん。こんなものなんじゃない?」


 私も掃除以外は何もわからないから、訊かれても困るんだ。

 皇都は人も多いからね。

 そういうこともあると思うよ。


「そうなんですかねぇ……」


 イマイチ釈然としないご様子のキルティであった。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

『ブクマ登録』と下の★★★★★から『評価』をしていただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ