21 大きなお買い物
買った。
私、1012歳にして家を買った。
例の丘の上に立つお屋敷だ。
皇都を一望する好立地で広くて可愛い佇まいなのに、びっくりするほどお安く買えた。
魔物が住み着いている上に、りんごの大樹に呑まれた家だからね。
いわくつき物件だけに安かったのだ。
魔物は追い払ったし、木に呑まれた部分も趣があっていい。
私としては、これ以上ない住処を手に入れた気分だ。
「ひゅい! ひゅいひゅい! ぴゅるるい!」
私よりもビビのほうが気に入ったみたい。
スイカみたいなサイズのりんごが食べきれないほどたくさん実をつけているからね。
今も巨りんごの中に潜るようにしながらシャキシャキと音を立てている。
大きいから大味なのかと思えば、これが甘くて美味しくってね。
きっと根元に埋まっている魔石がとびっきり良質なものなんだろうね。
「摘花したらもっと大きくて甘いのができるかもね」
「ひゅいぃ! …………ひぅ」
一度喜んでから、ビビは少ししょんぼりした。
間引いた分は食べられなくなるからなぁ。
悩ましいところだ。
そういえば、地下室で穴を見つけた。
鎧の足跡が残されているから、掘ったのはフレイム・リッターだろう。
巨木の根元に向かってまっすぐ掘り進めていたみたいだ。
根元にある魔石が欲しかったんだろうなぁ。
あいつ、宝物庫にも大量の魔石を蓄えていたから。
このお屋敷に住み着いたのも魔石目当てだったってわけだ。
あいつはあいつで好きなものを集めようと必死だったんだな。
二度も邪魔して申し訳ない。
どこか人様の迷惑にならないところで、コレクションに励んでくれ。
「リンナさん、遊びに来ちゃいましたー!」
初めてのお客さんはキルティだった。
「わぁー! 素敵なおうちですね! とっても可愛いですっ!」
外と中とを行ったり来たりしながら、せわしなくピョンピョンしている。
「わたし、リンナさんにこの物件をオススメできてよかったです! でも、魔物が住み着いていたとはいえ、どうしてあんなに安かったんですかね? こんなに綺麗な家なのに」
いやいや、綺麗なのは私が掃除したからでね。
ここに初めて来たときは目を疑ったよ?
あまりにもかけ離れた姿だったからね。
幽霊屋敷だ。
「なんか木が思っていたより大きいような……」
キルティはキツネにつままれたような顔をしている。
パンフレットのイラストを真に受けていたんだろうなぁ。
私と一緒で。
「お師様、あたしもここに住むことにしたわ!」
次なる客はマッキィナだった。
大荷物を背負って我が家にズカズカ踏み込むと、
「あたし、この部屋がいいわ! だって、景色が最高だもの!」
とか言っちゃっている。
相変わらず、勝手な奴だ。
「たしか、Bランク以上にならないと帰宅できないんだっけ?」
「そうよ! 宿暮らしにも飽きたし、師弟は一緒に暮らすものでしょ? お師様も一人じゃ寂しいと思って、あたしが来てあげたの! 感謝しなさいよね!」
なんという図々しさ。
なんという恩着せがましさ。
師弟関係も未だにマッキィナが勝手に言っているだけなんだよな。
太てぇヤローだ。
ま、あんたがいれば寂しさとは無縁だろうけどさ。
「たのもう、たのもう!」
3人目の客はコッコだった。
風呂敷をひとつ背負っている。
「まさか、コッコもウチで暮らすつもり?」
「それがしの胸の内を見抜くとは、リンナ殿のご慧眼には恐れ入るばかりです」
やっぱりか。
コッコは片膝をつき、真剣な面持ちで見つめてきた。
「リンナ殿……。もしよろしければ、それがしをリンナ殿のパーティーに加えてくれませんか? 皇都を発つまでの短い間だけで構いませんので」
「そりゃまたどうして?」
「それがしは不勉強ゆえ、姉上と違って政治はてんでサッパリです。ですので、武芸で身を立てるほかないのです。その武芸ですら、スライムに弄ばれ、動く鎧に不覚を取る始末」
コッコは立ち上がって私の手を握り締めた。
「リンナ殿は素晴らしい御仁です。武に長け、知識に明るく、勇敢で聡明です。リンナ殿のような傑出したお方に師事すれば、それがしの成長にも繋がると思うのです」
すごい勢いで褒められた。
私、誰の目にもとまらず1000年ほど独り黙々と仕事してきたから、そんな尊敬の目みたいな瞳で見つめられると赤面してしまいそうだ。
「弟子入りさせてください、リンナ師範!」
「いや、弟子はもう変なのが1匹いるから勘弁してくれ」
「そうよ! お師様にはイチの子分たるあたしがいるわ! ニの子分もあたしで、サンの子分もあたしなの!」
マッキィナが3匹もいたら、うるさすぎてかなわんよ。
「そう、ですか……」
コッコは困り眉で三角耳を垂れさせた。
小さな体が余計に小さく見える。
うう、なんとかしてあげたい。
「居候としてなら置いてあげるよ?」
私は可愛い子には旅をさせずに、手元に置いて吸ったり撫でたりしたい派だからね。
家賃は1日1モフでいいよ?
あと、師範はやめてくれ。
「ありがとう存じます! 背中に学ばせていただきます!」
というわけで、居候二人と暮らすことになった。
歓迎会はどうしよう?
「りんごパーティーでもしますか!」
「ひゅいいいい!!」
もちろん、この提案に一番喜んだのはビビである。
「そういえば、ここに来る前、ギルドでちょっとした騒ぎがあったみたいですよ?」
ふと思い出したようにキルティは言った。
「宮がどうの帝がどうのって話が聞こえてきましたけど、あれ、なんだったんでしょうか?」
なんだろうね?
雲上人のことなんて私には関係ないね。
と、このときの私はテキトーに聞き流したのであった。
それが皇国を揺るがすとんでもない事件の幕開けとも知らずに。
……なんちって。
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