2 冒険者ギルド
愛用のホウキを片手に宮を出た。
ビュー、と夜の城下町に木枯らしが吹く。
身も心も凍えそうだ。
1000年も勤めたのだから、花束くらいあってもいいのに退職金もなしか。
懐のほうも寒いなぁ。
夜の通りをトボトボ歩く。
そういえば、宮を出るのは何十年ぶりだろう?
毎日、宮中の掃除に追われていたからずいぶん久しぶりな気がする。
世情とかまったくわからないな。
1012歳にして無職の私。
これから、どこで何をしたらいいんだ?
掃除しかできないから迷うこともないけどね。
「ん?」
蛍みたいな光が前を横切った。
こんな季節に珍しい。
なんかすごく大量にいて私の体にまとわりついてくる。
よく見れば、お前たち、
「微精霊か」
振り返ると、――うわ!?
宮廷のある方角から私のところに向かって光の橋がかかっていた。
まるで天の川だ。
勤続1000年といえど広い城を一人で掃除するのは大変だから、微精霊たちに手伝ってもらっていたんだよね。
「お前たちも一緒に来たいの?」
ウンともスンと言わない代わりに、微精霊たちは寄り集まってひとつの塊になった。
小さなドラゴンに姿を変えて、私の首にマフラーみたいに巻きついてくる。
微精霊が集まったもの、龍精霊だ。
初めて見た。
お前たち、そんなこともできたんだね。
「ひゅい!」
長い舌がぺろっ、と私の頬を舐めた。
可愛いじゃないの。
ついてきたいなら勝手にするといい。
長年連れ添った唯一の同僚だもんね。
そうだ、名前をあげよう。
「微精霊が集まったものだから、ビビビビでどうよ?」
「ひゅん!」
小さな翼をバタバタ。
お気に召さなかったらしい。
「じゃあ、ビビは?」
「ひゅー!」
翼を鳳凰みたいに広げた。
今度はオーケーが出たようだ。
じゃあ、お前は今日からビビだ。
よろしく。
◇
ビビで暖を取り、そこらの軒下で一夜を明かした。
そして、翌朝。
行動開始だ。
目指せ、職業案内所。
1000年分の蓄えがあるから100年くらい遊んでいられるけど、技術は使わないとなまるからね。
空白期間が100年ってのも笑えない。
さっさと再就職先を決めてしまおう。
というわけで、城下町の大通りにやってきた。
ここは、ヨゴレット皇国の皇都ヨゴラ。
ダンジョンの町なので、冒険者でいっぱいだ。
日々新しいダンジョンが見つかっているから、みんな大忙しらしい。
私には関係ないけどね。
「まあ! リンナさんは宮勤めをされていたんですね!」
職業案内所でプロフィールを提出すると、受付のおばさんがにっこり笑顔になった。
「それなら、ご案内できる職場もたくさんありますよ」
それは、よかった。
宮よりいい職場はさすがにないと思うけどね。
「ちなみに、勤続年数はどれくらいですか?」
「1000年だね」
「まあ、それはすご――え? 1000年?」
にっこり笑顔が疑念の顔に変わった。
「ご案内できる職場は1つだけです」
「さっきはたくさんあるって」
「1つだけです。この冒険者ギルドが募集しているダンジョン清掃の仕事なら逃亡犯でも死刑囚でも大歓迎してくれると思いますよ」
ツンとした態度でそう言われた。
私のプロフィールを疑っているらしい。
無理もないか。
1000年だもんなぁ……。
「ところで、ダンジョン清掃ってなに?」
「ダンジョン内の掃除です。もういいですか?」
全然わからないけど、これ以上訊けそうにない。
とりあえず、冒険者ギルドに行ってみた。
「まずは、一般冒険者志望の方にまじって適性試験を受けていただきます。ダンジョン清掃は魔物に出くわすこともある危険な仕事ですので試験に合格する必要があるんですよ。――ささ、こちらへどうぞ」
ギルド職員の女の子が奥に案内してくれた。
奥の部屋には、いかめしい顔の大男や威勢のよさそうな若者が一堂に会していた。
「こんにちは、冒険者志望の皆さん! 新米ギルド職員のキルティです! 本日はわたしが試験官を担当します! よろしくお願いします!」
チャームポイントの赤いツインテールを揺らしてキルティはペコリと頭を下げる。
「「よろしくお願いしまぁーっす!!」」
冒険者志望の、主に男性陣から元気な声が上がった。
キルティはキャピキャピしているし、華があっていいなぁ。
看板娘って感じ。
曇り空の化身みたいな私とはえらい違いだ。
「試験は3項目です。体力試験と技能試験、それから職業適性試験ですね。試験はこれからもランクアップのたびに受けることになりますから、今日で慣れてしまってください!」
はぁーい、と男性陣。
私はちょっと質問。
「清掃員にもランクアップはあるの?」
「ダンジョン清掃員も資格の上では冒険者ですが、昇級資格がないので一番下のFランクのままですね」
それは、残念。
トリプルSランクの清掃員を目指して頑張ろうと思ったけど、別のモチベーションを見つけるか。
「それでは、さっそく体力試験を始めましょう!」
「「おおーッ!!」」
底抜けに明るいキルティに釣られて、受験者たちも無邪気に盛り上がっている。
それが、地獄の試験の始まりとも知らずに。
……なんてね。
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