13 換金
冒険好きのマッキィナに振り回されて、あっちこっち寄り道しながら、えっちらおっちら地上に戻ってきた。
結局、第1層から第10層まで全フロア掃除してしまった。
魔物は全滅。
罠もすべて解除。
ダンジョンだったのは、もはや昔。
今じゃ新築物件みたいな綺麗な廊下が延々と続いているけど、誰か住みたい人とかいる?
ダンジョン好きのマッキィナなら喜んで住み着きそうだ。
「あ、あのリンナさん……」
青い空を眺めて背伸びしていると、門番が恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
「なに?」
「あのゴミ山なんすけど……」
門番に釣られて私は視線をスイーッと横に動かした。
ダンジョンの入口の横。
そこに土砂の山みたいなのがそびえ立っている。
「どこからともなくゴミが降ってきて、あのザマなんすよ……」
あーうん。
私が転移させたゴミだね。
ごめんごめん。
後で町の外に転送しておくよ。
でも、その前にっと。
「審美眼――!!」
私は目に意識を集中させた。
世界から光が消えた。
真っ黒な世界でゴミ山がところどころ光って見える。
私は光る紐を掴んで引っ張り出した。
「洗浄!」
清掃魔法で水洗いする。
すると、汚れが落ちて下からギラリとしたメタリックな質感が現れた。
私の隣でマッキィナが息を呑み、
「き、きき……」
き?
「金んんんんッッッッ!!!!!」
金切り声で私の耳もキーンとなった。
私ゃ耳が長いんだ。
気をつけとくれよ。
汚れた紐の正体は、金のネックレスだった。
もちろん純金製だ。
ゴミに紛れても私の目は誤魔化せんよ。
一級品は見慣れているからね。
「これはあたしのなんだから!」
飢えた犬みたいなのがカッさらっていった。
いいよーだ。
まだ、たくさんあるし。
ジュエリーや金の杯が次々出てくる。
ゴミと一緒に飛ばされちゃったんだろうね。
こういうの玉石混淆って言うの?
それとも、掃き溜めにツル?
なんでもいいけど、お宝ゲットだ。
「はいこれ、おすそ分けね」
「いいんすか、リンナさん!!」
「うおお、マジうれしいっす! あざます!」
門番二人にもプレゼントしておいた。
もうこのダンジョンは私が綺麗さっぱり掃除したから、もぬけの殻なんだよね。
カラの金庫に見張りは要らない。
あなたたち、近日中に解雇されるよ。
私のせいでね。
それは退職金だと思ってくれ。
すまんね……。
◇
冒険者ギルドで帰還報告を済ませる。
「え、ダンジョンまるごと綺麗にしちゃったんですか!? ……ま、まあ驚かないですよ! リンナさんなら絶対わたしの度肝を抜くって最初から思っていましたから!」
キルティは、お陰様で免疫がつきましたっ! と今日もキャピキャピしている。
「それで、換金してほしいものがあるんだけど」
「いいですよ! 魔石でも拾いましたか!?」
「うん。これ全部お願いね」
亜空間ポーチをひっくり返すと、ジャララララ。
すごい音がしてカウンターテーブルに小さな山ができた。
魔石の山だ。
「うぇええ!? こ、こんなにぃ……!?」
キルティは大袈裟に驚いている。
でも、宝物庫にはこの100倍はあったからね。
あれ見たら腰を抜かすだろうなぁ。
「どれもS等級相当の純度じゃないですか!」
いいものを選りすぐって持ち帰ったからね。
「あと、ほかにもあって」
「まだあるんですか!?」
「うん、持ちきれないから一輪車で押してきたんだけど、乗り入れちゃっていい?」
「それはいいですけど……」
じゃ、遠慮なく。
私は窓から表通りに手を振った。
マッキィナが鼻息をフンフンさせながら一輪車を押してきて、荷台の積み荷をぶちまけた。
ドンガラガッシャアアンン、とお宝の波が床に広がった。
全部ゴミ山から引っ張り出してきたものだ。
しかしまあ、もう少し穏便にできないものかね。
ド派手にぶちまけたせいで、居合わせた冒険者が群がってきてしまった。
「すっごいでしょ! あたしのお師様にかかれば、このくらい朝飯前よ! 迷宮主だって倒したんだから!」
マッキィナは後頭部が床につきそうなくらいふんぞり返っている。
「ええ!? リンナさん、あのフレイム・リッターを討伐したんですか!? え、でも、いくらリンナさんでも、さすがにそれは……。だって、フレイム・リッターはSSランクパーティーを返り討ちにしたこともある強敵ですし」
当惑げに小首をひねるキルティである。
私は背負っていた風呂敷をカウンターテーブルの上で広げた。
中身はそう、フレイム・リッターの鎧一式だ。
紫炎が消えてなお、全身鎧は邪悪なオーラを振りまいている。
今にも動き出して斬りかかってきそうだ。
「ひぃぃぃ……」
キルティは青い顔でへたり込んでしまった。
「こ、こんなのよく倒せましたね……」
まあ、相性がよかったからね。
炎VS消火魔法。
グー対パーみたいなものだ。
「この鎧、ナイフで叩いても傷ひとつつかないんだ。頑丈なのに嘘みたいに軽いし、たぶん魔道具化しているね」
長く使われた物や魔力の濃いところに置かれていた物は魔道具になることがある。
私のホウキみたいにね。
だから、きっと高値がつくはず!
「じゃ、キルティ! 換金よろしく!」
「わ、わかりましたぁ……!」
量が量だけに大変な仕事になりそうだ。
キルティは早くも涙目になっている。
ギルド職員総出で鑑定作業を行って、待つこと3時間。
マッキィナの貧乏ゆすりで冒険者ギルドが揺れ始めた頃、ようやく買取金額が決まったらしい。
先輩ギルド職員から査定書を受け取ったキルティは額面を見て、
「ぎょええ!?」
と、絶叫した。
ぎょええって。
看板娘が台無しだ。
「よ、4億ゴレットぉぉ……!!」
ほう、4億か。
私の退職金と同額だ。
少し遅いけど、もらうべきものをもらえた形だね。
ささやかにお祝いでもするかな。
と思ったけど、キルティは両手でバッテンを作って私に突きつけてきた。
「こ、こんな大金、すぐにはご用意できません! ギルドの蓄えにも限度がありますし! それに、一度にたくさん与えると冒険者を引退してしまう人もいるので! だから、優れた人材を引き止めるためにも高額換金は小分けにしてちょびっとずつ渡すって裏ルールが存在するんですぅ! これ内緒なんですけど!」
「内緒なら言っちゃダメじゃん」
キルティも、しまった……! って顔で口元を押さえている。
ま、最終的にもらえるならいいよ。
1000年働いたのに花束すら持たせてくれないブラックな職場もあるからね。
宮廷って言うんだけど。
「リンナさんには引き続き当ギルドで活躍してほしいです! 引退しないでくださぁい……」
涙目ですがりつかれた。
わかったわかった。
私の老後は果てしなく長いからね。
1000億稼ぐまでは辞めないって。
「それと、リンナさん」
「なに?」
「もう、わたしをぎょえってさせないでくださいね? いちおう、看板娘を目指しているんですから」
ぎょええ、は可愛くないもんね。
了解だ。
ほどほどに頑張らせてもらうよ。
「じゃ、今日の換金分をもらうとして。――今夜は私の奢りだよ! みんな好きなだけ飲んでくれ!」
私は冒険者たちにそう呼びかけた。
「うおおおおお! まじリンナさん最高だぜ!」
「リンナの姉御、ごちになりまぁぁーっす!」
「アタシらもご相伴にあずかっていいかい!?」
「姉御にゃ足向けて眠れねえなぁ!!」
冒険者たちは大盛り上がりだ。
嫉妬心から変な恨みを抱かれちゃ困るしね。
職場の同僚には大盤振る舞いしておかないと。
「ビビにも好きなだけりんごを買ってあげるよ」
「ひゅいいっ! ぴゅーるりり!」
空中でくるっとターンしたビビが胸に飛び込んできた。
そんな感じで、初めての依頼は終わったのでした。
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