時雨の危機
スーパーで食材と冷えピタン、風邪薬を買うと、私は家に帰り、お湯で溶かした風邪薬を時雨くんに飲ませた。
「これで大丈夫。すごい熱だけど、安静にしておけば治るはずだから。」
「ありがとうございます!」
かわいいなあ。真白くん。
弟ができたみたい。
そういえば、もうすぐ学校だな。
「真白くんは、人間の年齢で今何歳?」
「うーん。12歳くらいですかね。」
「時雨くんは?」
「15歳くらいです。」
まさかの一個上と二個下。
「真白くんは、学校行きたい?」
二人を家に置いていくわけにはいかないし…
「もちろん、時雨くんの熱が下がってからだよ。」
真剣な顔で真白くんは考えた後、顔をあげて、真っ直ぐな瞳で私を見つめた。
「学校…か。しかし、僕たちは学費を払えません。」
「大丈夫、私が払うから。もちろん、行かなくてもいいんだけど。」
お父さんとお母さんが人たらしで、生前大富豪に好かれまくり、お金がかなりあるから、二人の学費くらいなら払えるはず。
「…行きたいです。学校。」
決意したような顔で、真白くんは頷いた。
「ほんと!?」
「はい。」
「やったー!時雨くんが起きたら、聞いてみよう!そしたら、三人で学校行けるね!」
私は満面の笑みを浮かべながら、飛び跳ねた。
「…ハイっ!」
真白くんもニコッと微笑んでくれた。
「ま、しろ?」
真白くんより低い男の子の声が聞こえた。
もしかして、時雨くんのこと起こしちゃった?
ベッドを覗いてみると、時雨くんの瞳がうっすら開いていた。
「お兄ちゃん!」
真白くんは時雨くんに抱きついた。
「ましろ…ここはどこだ?」
「陽葵さんの家だよ。陽葵さんが僕たちを保護してくれたんだ!」
真白くん、嬉しそう。
よかった、これで安心だ。
「そうか…陽葵さん、ありがとうございます。藤野家の末裔が…ううっ。」
「大丈夫?お兄ちゃん!?」
やっぱりまだ苦しいのか…
でも、熱があるだけだから、苦しいことはないはずなのに。
もしかして、妖狐族だからなのかな。
「…陽葵さん。」
急に真剣な顔で真白くんが見つめてきた。
「どうしたの?」
「今から、一緒に妖界に来てくれませんか?」
よ、妖界って、もしかして、真白くんたちの家があるところ?
「い、いいけど。どうやって行くの?」
おどおどしながら聞くと、真白くんは勾玉に指をさした。
「陽葵さん、これの近くに鍵がありませんでした?」
鍵、鍵…
も、もしかして!
私は走って引き出しから出したものを保管している部屋に向かった。
確か、この中に鍵が…
「あった!」
変な文字が書いてある鍵!
「真白くん、あったよ!」
部屋に戻り、鍵を真白くんに渡した。
「これだ…やっぱり、陽葵さんが持っていたのですね。」
真白くんは安心した顔で微笑むと、鍵を勾玉の近くに持って行った。すると、勾玉の穴が鍵の穴の形に変わった。
隠されていた真白くんの耳と尻尾が現れ、瞳の色と髪の色が変わった。
鍵を勾玉に刺すと、勾玉は扉の形に変身した。
『扉よ、開け。』
私は時雨くんをおんぶして、真白くんの後を追うために、扉の中に足を踏み込んだ。
もう後戻りは、できないよね。