妖と少女
桜の蕾が咲き始め、春が見え始めたある日。
私、藤野陽葵、14歳は一人暮らしを始めることになりました。
両親が死んで数ヶ月、頼れる親戚もいない私は、祖父が昔住んでいた屋敷に住むことになった。
屋敷と言っても、和風で、執事もメイドもいない。
まあ、そっちの方がいいんだけどね。
部屋も広いし。
お金は、お父さんとお母さんがたくさん残してくれた。だから、貧乏になる心配はない。
お父さんには弟が一人いるけど、その人は遺産の分配を要求してこなかった。
もう、ね。弟の鑑だよ。ありがとう、1度もあったことのない私の叔父さん。
両親が残してくれたお金を銀行から引き出し、私は新幹線に乗って祖父の屋敷に向かった。
一人で新幹線なんて、初めてだなあ、と、内心思いながら私は何も無い空を見上げた。
引越し業者を雇うのはめんどくさいから、服とかアクセサリーとか、そこら辺はダンボールに詰めて送っといたけど、ちゃんと届いてるかな。
『次は〜品川〜品川〜』
駅員さんの声が聞こえ、私は少ない手荷物を持ち、新幹線を降りた。
電車に乗り換えて最寄り駅から数分歩くと、完全に場違いな屋敷が見えてきた。
もしかして、あれが家?
まさかね。
スマホでマップを確認すると、目的地はあの屋敷を指していた。
心の中で大きすぎるだろ!と叫びながら、私は歩き続けた。
屋敷の入り口まで歩き終わった後、私は巨大な門をじっと見つめた。
重そう…開けられるのかな。
試しに扉に触れてみると、なにか懐かしいものを感じた。
少しだけ力を入れて押すと、扉は普通のドアのように開いた。
屋敷の中は…汚れてる。ボロボロじゃん。
掃除をする日々が迫ってきていることを覚悟して足を踏み入れると、扉は勢いよく閉まり、空中で風が舞った。
段々その風が屋敷を包み、砂が飛び散り、私は目を瞑った。
砂嵐のようなものはすぐに止まり、目を開けると、驚きの光景が待ち構えていた。
さっきまでボロボロだった屋敷が、浄化されたかのように綺麗になった。
何今の。魔法?
とりあえず砂嵐がまた起こる前に家の中に入ろう。
重い荷物を持ち、急いで家の中に避難した。
一番広い部屋まで届いた荷物と持ってきた荷物を運び終わったあと、私は家の中を探索した。
浴室が一つ、トイレが二つ、人が住める部屋が四つ、リビングのような部屋が一つ、キッチンが一つ。
後、古い倉庫が庭にあるんだよね。
中に何か入ってるかも。
早速庭の倉庫に行くと、私はマスクをつけて、懐中電灯を持って、固い倉庫の扉を思いっきり開けた。
ドアノブが反動と共に吹っ飛んだけど、私はお構いなしに、倉庫の中に入っていった。
灯を照らすと、古そうな木製の引き出しが何個か重ねられていた。
すごい。おじいちゃんは何者だったんだろう。
引き出しを開いて見ると、鍵や紙がたくさん入っていた。
奇妙な、動物ではない何かが描かれている紙や、博物館で見るような文字で書かれている文章。
手紙ももちろん入ってる。
鍵にも何か書かれてある。これは、漢字かな?
大体の引き出しを確認し終わり、私は最後の引き出しを開けた。
あまり期待せずに中を漁ると、他の引き出しには入っていなかった、小さな袋が二つ、隅に保管されていた。
新発見だ!と思いながら袋にこびりついている埃を手で拭き取り、袋を縛っている紐を解いて、中身を取り出した。
「これは、ネックレス?」
なぜか埃が一つもついてない、パステルグリーンの宝石のネックレス。
これってもしかして、勾玉?
数字の九みたいな形してるし。
可愛いからつけておこう。
倉庫の探検を終えて外に出ると、強い雨が降り始めていた。
雨が強くならない前に、私は二つの箱とたくさんのお宝を自分の部屋に持って行った。
もう一つの箱は、後で開けよう。
やることもないし、ダンボールを開封し始めようと玄関に向かっていたら、お腹がぐぅーっと鳴った。
かなりデカく。
そういえば、今日の朝から何も食べてなかったんだった。
「買い出しに行くか。」
私は傘をさしてスマホと財布をポケットに押し込むと、一番近い商店街に向かった。