過去への憧憬 【月夜譚No.159】
学生鞄につけられた御守りが跳ねる。女子高生の黄色い声が遠ざかり、御守りの残像だけが後に残った。
神社の境内に置かれたベンチ。そこに座った彼女は、缶コーヒーを片手に息を吐いた。
俯いた視線の先には、履き慣れない黒のパンプス。今日はまだ少ししか歩いていないのに、もう足が痛い。身に纏うスーツも窮屈で、緊張が全く解れない。
午前中に受けた面接は、散々だった。頭が真っ白になって用意してきた言葉は何処かへいってしまうし、退出の挨拶も盛大に噛んだ。自分がどんな表情でどんなことを言ったのか、殆ど覚えていない。
就職活動が大変なのは理解していたつもりだが、こんなにもダメージを受けるとは思っていなかった。
高校時代は勉強に友人関係にと苦労も多かったが、今に比べたらとても可愛らしいものだ。――あの頃に戻りたい。
いくらそう願おうと、時間は戻らない。けれど、思わずにはいられないのだ。そうしないと、今の自分を保っていられないから。
彼女は残りのコーヒーを飲み干して、立ち上がった。あまり休まらなかったが、午後からはまた面接の予定が入っている。
気合いを入れ直して、彼女は重い足を踏み出した。