第02話 ソラ美、その地に降り立とうとしている……?
仕事が忙しくなってしまってあまり時間が取れませんが、頑張って投稿していきたいと思います。
「ええと、念のため確認したいのですが……、配信業をされているのですよね?」
「そうだけど?」
「お身体のデータ名が『宍戸ソラ美』となっているのですが、『デスメロディ』様で本当によろしいのでしょうか……?」
「え!?すご〜、アイリーンさんNPCなのにそんな事まで気にしてくれるんだね!」
「あ、ありがとうございます。それで……」
「ああ、デスメロディでいいよ。ゲームの中だしね」
「わかりました。では改めましてデスメロディ様、職業をお選びください」
ブンッと言う音がして、ソラ美の目の前の何も無い空間にウィンドウが現れる。
そこにはファイターやナイト、ソーサラー、アサシンとう様々なジョブが表示されていた。現在はファイターが活性化されていて、隣にはその職業についての詳細や、ステータスの傾向、主なスキル一覧、そして戦士っぽい格好をしたソラ美の姿が映し出されている。
ソラ美は、ほへーだの、はひーだの言いながら、それぞれの職業を確認していく。というか、各職業の姿の自分を確認していく。職業の詳細に付いてはほとんど見ていなかった。
こういう選択の時はどうせ悩んで決められないのだから、見た目重視の精神をモットーとしているソラ美であった。
「うーん、よし、これにしようかな。このエンチャンターってやつ」
「なるほど、エンチャンターですか。良い選択ですね。服装もとてもお似合いですし」
アパレル関係の人みたいな事を言うアイリーン。見た目で決めているソラ美と言い、配信をしていたら、「服屋かな?」というツッコミが入りそうな光景だった。
ちなみにエンチャンターの初期の装備は、短めのケープに裾がとんがったベアトップのシャツ。スカートにニーハイソックスにブーツ。あまり飾り気はなくて、なるほど初期装備だな、といった感じだ。
「もちろん属性のエンチャントにくわえて、様々な属性の魔法も覚えられますし、あ、あと、あまりエンチャンターについている方も多くないので、オリジナリティも出せますよ」
「……弱いの?」
「い、いえいえ、そんなことはありません!!ただ……」
「ただ?」
「ちょっと地味なので……」
「……」
「あと、器用貧乏って言われてます……み、皆さん何かしらに特化した職業やソロプレイがしやすい職業がお好きみたいで」
「……」
「……;」
「………」
「…………;;」
「まぁいいけどね。じゃあエンチャンターで」
「あ、ありがとうございます!!」
別にアイリーンは営業マンではないので売れ行きの悪い商品を頑張って売らなければならない、と言う事はないのだが、一瞬特有の緊張感がその場を支配した。何故かはわからない。
「そ、それでは職業エンチャンターで決定いたしますね」
「あい〜」
職業選択のウィンドウが消え、ソラ美の姿がエンチャンターの装備をつけた姿へと変わっていく。
「ふむふむ、お〜」
自分の姿を満足そうに見回すソラ美。
「それではこれから、軽いチュートリアルと言いますか、必要な告知事項の体験をして貰います、それが終わればいよいよ『イスガルド』の地へ旅立つことになります。準備はよろしいですか?」
「う〜ん、良くないねぇ」
「え?」
「なんだか、職業決めた瞬間眠くなって来ちゃった。ベッドない?」
「あ、ベッドですね。お待ち下さい、今出しますので」
いきなり何やら勝手な事を言い出したソラ美だったが、アイリーンは驚かなかった。実はこれはよくある事なのだ。ソラ美も先ほどゲーム内で感覚を解放したばかりだが、その直後に眠気が襲ってきたり気分を悪くする人は結構いる。これは3D酔いや、時差ぼけの上位互換のようなもので、どうにも前もって対処出来ないものだった。
このキャラメイク兼チュートリアル中に気分を悪くする人も少なくなく、アイリーンは割と対応に慣れていた。アイリーンがゆっくりと腕を振ると、ソラ美の後ろにベッドソファが出現した。
「どうぞ、気分が良くなるまでそちらでお休みください。ちなみに『エクソダス』がプレイヤーの睡眠を感知すると、強制的にログアウトされますのでご注意ください。本格的に睡眠を取りたい場合は現実でお願いしますね」
「お、おぉ〜ありがて〜それじゃ遠慮なくzzZ」
言うが早いか、ソラ美は早速ベッドソファに横になりスヤスヤと睡眠を取り始める。
「スヤスヤ……」
「……」
「スヤスヤ……」
「………………え!?」
今度こそアイリーンは驚いた!
ソラ美はどこからどう見ても完全に睡眠状態にあるのに、全くログアウトする気配を見せないのだ。徐々にオロオロし始めるアイリーン。これは不味い事になった、と言う素振りだ。
没入型VR機や、それを使うソフトの開発が一番に配慮しなければいけないのは、プレイヤーの健康を害さないことだ。睡眠時の強制ログアウトもその一環だ。具体的な事には、精神が自分の肉体の感覚から離れている時に睡眠状態に入ったり、目を覚ました時にゲーム内に居ることに依る脳へのダメージを考慮してのシステムである。そのシステムが正常に作動しないと言うのは、すぐにでも上の管理者に報告しなければならない事象だった。
上記のことから本格的な睡眠に入ったソラ美を起こす権限を持たないアイリーンは、管理者へ報告することを決定する。
アイリーンが片手で首から下げている鍵を握り、もう片方の手を前方へ翳すと、異空間へと繋がりそうなゲートがその場に出現。彼女は一度ソラ美へと振り返ると、そのゲートへと入っていくのだった。
「……うぅ〜ん」
アイリーンがゲートに入ってから数十秒後。ソラ美は目を覚ました。やはり慣れない場所だからだろうか、普段の睡眠と比べるとなんともお早いお目覚めである。
「あれ?アイリーンさん?」
あたりを見回すが、もちろんアイリーンの姿はそこにはなく、代わりに楕円形の時空の歪みがあるだけだった?
「あれれー?おトイレかなー?ここー?」
なんと、躊躇いもなくゲートへと侵入するソラ美。ゲートの向こうにあったのは文明的な小部屋だった。ファンタジーの世界に似つかわしくない近未来的な部屋で、化学の匂いを感じた。
「なにここ。隠しステージ?」
部屋は殺風景で、ゲート以外には三方向の壁に一つずつ扉がついているだけだった。ソラ美はうーん、とひと悩みすると、
「ここかな?」
と言って、一つの扉を開けてみる。どうやら扉は広い空間へと繋がっていたようで、そこには様々なアイテムが乱雑に所狭しと置かれていた。
「え?やっべ。大当たり?」
ソラ美はいやらしい笑みを抑えられなかった。
試しにその辺の壁に立てかけてある剣を手に取ってみる。目の前に現れたウィンドウには、「レーヴァテイン」と書かれている。武器の性能も表示されており、まだ初めてもいないのでそれがどの程度なのかさっぱりだが、なんとなくめっちゃ強そうだとソラ美は思った。
素早く部屋にあるアイテムを見聞していくソラ美。強そうな剣や盾、鎧。衣装掛けには煌びやかなファンタジー衣装がこれでもかと掛かっている。
しかし、ソラ美はなんだか少し虚しい気分になってきた。おそらくこれらは冒険の果てのご褒美として貰えるものであって、今手に入れたら冒険する意味が無くなってしまう気する。
ゲーム内でクズ行為をすることにはあまり躊躇いないが、これはなんか違う気がする、と帰りかけたソラ美の目にある物が留まった。
それは暗い色の金属でできた三角形のかぶり物だった。前面(?)に一つ目のレリーフが彫ってある。そう、邪悪寄りのな神話や静寂の丘に出てきそうなアレである。防具としての基本性能は全くなし。特殊能力欄『一度だけどんなダメージでも肩代わりしてパカッと割れます。一定時間が経過するか、プレイヤーがリスポーンすると、自動的にリスポーンしカパッと閉まります』
その被り物を徐に手に取るソラ美。その顔には悪戯を思いついた時の粘着質な笑みが張り付いていた……。
「こちらです!早くしてください!!」
「分かっています。仕方ないじゃないですか、立て込んでいたのですから」
「私だって分かっています!大体どうして私には対面での報告しか許されていないのですか!?大勢の『私』の後ろに並んで順番待ちをする気持ち、わかります!?」
「それは僕も前々から改善要求を上に送っている所ですよ……」
「全く、六条さんも分体を作ればいいのに……」
「無茶言わないで下さい。僕は人間なんですから……。アイリーンくんこそもう一人分体を作って置いてくれば……ってそうか」
「はい、私は一つのアカウントに対して一体しか分体を作れませんから」
「そうでしたね。なんだって上層部は変なこだわりが強い人が多いんだ……!」
アイリーンが六条と呼ばれる白衣の男を引き連れて進んでいるのは、近未来を思わせる廊下だった。向かうはもちろん、ソラ美のいるチュートリアル空間番号の振られた部屋だ。
二人は報告システムの不備について愚痴を言い合いながら急いで該当する部屋へと入る。
「現在は眠りから覚醒している状態のようだな。何かおかしなことになっていなければいいが……」
そして、ゲートを潜りチュートリアル空間へとやってきた二人の事を、
「あ、アイリーンさん。おかえり〜。その人だれ?」
三角頭をしたソラ美がソファーベッドの上、涅槃のポーズで出迎えるのであった。